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三ページ目:君にこの想いを伝えたくて!

ガルシア王国、王宮内にある会議室。

二週間前から連絡のつかないゼストと数人を抜いたガルシア十三人衆とその主たる王シオンが円卓に座り、神妙な顔つきを浮かべていた。まぁ、一部ケタケタと楽しそうに笑ってる者もいるが。


「で、あの放浪馬鹿はまた戻らずか。視察に行って戻らないんならやられたか、捕虜にされたかのどっちかだろうね」


ピンク色の髪にエルフ特有の長い耳、黄緑色のローブを纏った今回れーざー☆びーむを独断で発動させた張本人、セラフィールが呟く。そこそこ胸はある。


「今すぐにでもビヒュリアに潜入すべきか?否、今回仕掛けたのは我々、対価があるのは当然」


「それがゼストなら仕方ないかな☆死神が捕虜とかマジウケる〜ワロスワロス☆」


口元と右目をパイプで直接繋ぐ奇形なガスマスクをした緑髪の男、リグロと金髪褐色肌にどこか露出の多い和服の少女、自称永遠の16歳カグヤがケタケタと楽しそうに笑っている。現在この場にいるガルシア十三人衆はこれで全員。普段は各々自由に散り散りになっているため全員が一堂に会するなんてことはまずあり得ない。セラフィール、リグロ、カグヤは主人たるシオンの反応を待つ。

シオンが殺せと言えば誰でも殺す、シオンが行くなと言えばここに留まる、シオンが奉仕しろと言うのなら全力で奉仕する。これがシオン新体制になってから新たに編成されたガルシア十三人衆の覚悟であった。


やがて、長い葛藤の末シオンは重々しく口を開く。


「セラフィールとリグロはここで待機、僕の傍にいてくれ」


「はいよ」


「了解」


「カグヤ」


「はい、シオン様♡」


カグヤは勢いよく立ち上がり、シオンの隣に立ってべたりとくっつく。成長しているようでしていない中途半端なサイズの胸が頬に当たるがシオンは動じない。いや、内心ドキドキだけど表には決して出さない!セラフィールはその様子にむすっとしている。


「ガルシア領とその付近を徹底捜索、カグヤの能力なら可能なはずだよ」


「あいあいさー!」


ビシッと敬礼をし元気よく返事をするカグヤに対してセラフィールはニヤリと怪しげな笑みを浮かべていた。


尚、シオンは焦っていた。姉が既にガルシア領内に侵入していることを。それだけは絶対に避けなければならないことであった。


(ね、姉ちゃんとは絶対に会いたくない!!僕の黒歴史をほじくり返されるなんて絶対にあってはならない!!)


姉弟が対決する日はそう遠くない。




「ぶぇっくし!」


「風邪?わ、私に移してもいいよー!」


「ただのくしゃみだ!」


その頃、サリナ一行はガルシア王国の王都に到着していた。遠くにある王宮は堂々とそびえ立ち、あそこに家出した弟、シオンがいる。


そう考えるとこの二週間は本当に色んなことがあった。

空き地を見つけてはキャンプファイヤーで盛り上がり、小さな街を見つけては酒場で騒いで、漫画喫茶を見つけては最近コミカライズ版が完結したセレモニー・カルドセプトを全巻読み、人気アイドル九之島真娘のツアーライブに参加して苦労絶頂☆疲労満潮を熱唱したり、金がなくなって短期のバイトをしたり、魔神を名乗る輩と宇宙人が一悶着(笑)したり、その被害のせいで土木工事を手伝わされたり、温泉に入って身も心もリラックスしたり、本日上映最終日!というポスターを見て思わず映画館に足を運んでしまったり、ゲーセンに行けばギルディアの音ゲー魂に火が付いたり、とそんなこんだをして街に二週間滞在してしまい王都にはその一時間後に到着した。


「本当、ここまでの道のりは長かった」


ギルディアはうんうん、と目尻に涙を浮かべている。


「さて、俺はこっからどう行動するか」


本意でないにしろ主を裏切る形となってしまったゼストは今後のことを考える。


「俺の本当の力を見せるときが近づいてきたわけだ、ふふふ」


宇宙人は笑いながら眼下に並ぶ街を見ながら女豹のポーズを取る。


「待ってなシオン!お姉ちゃんそっちにイくからねー!」


王宮に向かってサリナは大声で叫び声を上げる。


そして、王宮の近くではれーざー☆びーむの射出準備が着々と進められていた。遠目から見えるれーざー☆びーむの砲身はどこか男性器に見えるが気のせいだろう。発射まであと、二週間ちょっと。それまでに発射を阻止してビヒュリア王国を救うのがサリナの任務なのだが、ギルディアと共に目的を覚えているわけもなく緊張感やら焦燥と言った表情は一切見られない。


「ま、待てー!」


「ん?」


背後から声が聞こえた。振り返るとそこには宇宙人にコテンパンにされた自称魔神(笑)が息を荒くしながら追いかけてきていた。


「(笑)をつけんじゃねーよ!馬鹿にしやがって!」


「また君か、しつこいよ。いい加減にしないと俺も怒っちゃうぞ〜」


「うるせー!テメーらには復讐しないと気が済まねェ!」


真っ赤な髪に少し赤みを帯びた肌をした魔神様はそれはそれはお怒りだった。身長はそこそこ、大体170くらいである。この魔神様と出会ったのは六日前である。宇宙人に対して一番の敵意を向けているのだが、理由が未だにわからない。だからこそ困っていたりする、ていうか鬱陶しかったりする。


「ホント、しつこい男は嫌われるよ」


「うぐ」


「ネチネチネチネチと過去のことも掘り返して、さ」


「ぬぁ!?」


「何なの?ストーカーなの、馬鹿なの死ぬの?」


「お、お前が言うんじゃねぇ女装野郎が!!」


「それって俺のこと?」


「他に誰がいるんだ!」


きょとんとした様子の宇宙人は本当に何のことだかサッパリデース、といった様子だ。言語が通じないとかそういうことではなく、フィーリング的に、遺伝子レベルで相容れない二人なのだろう。


「おい、宇宙人。そいつ頼んだわ、俺たち先に行ってるから」


「ちょっと待って!?どうして俺がこんな女々しい野郎の相手しなきゃいけないわけ!?」


「そんな格好してる奴が女々しいとかいうな!」


宇宙人の言葉を無視してサリナ達は先へ行ってしまう。実際サリナ達がいても問題は解決しない、それなら二人きりにさせてやればいいんじゃない?という名案を提案したギルディアおじさんの意見を採用したわけだ、当の本人である宇宙人の意向を完全無視して。

サリナ達はガルシア王国王都へ向かうが、そこに立ち塞がる金髪褐色の少女。その姿を目にしたゼストは驚きに目を見開く。


「ハァイ☆ゼスト、おかえり」


「.....カグヤ」


ゼストは心底面倒くさそうな表情で和服を着た金髪褐色の少女から目をそらし、回れ右をしてサリナとギルディアを連れて進路を変更した。


「ちょい待て待て待てーい!?スルーですか、同僚の顔見て挨拶もせずにスルーですか、このヤロー!☆」


「捕まった、めんどい、今すぐ離れろ。俺、ゼスト違う」


「嘘つけーい!せっかく私の能力で見つけてあげたのに、人違いトークとかワロスじゃねーんだよ!シオン様も心配してんだぞ、今回はどこウロウロしとったんじゃ!?」


「うるせーなぁ、しかも毎回俺が放浪してるような言い方はやめてくれないか?」


「してるだろーが!真実だろ!」


ゼストは意地でもカグヤから離れようと心底面倒くさそうにこれ以上ないと思われるくらい適当に対処するが、しつこい女カグヤはさらに手強かった。置いてけぼりをくらってしまったサリナとギルディアにカグヤの興味は移る。


「−−−君ら、ビヒュリアの匂いがするけど何者?」


「え?」


「こいつらは客人だ。シオン様の元にお連れする」


「あー、なる。だから一緒にいるのか☆」


カグヤはうんうん、と適当に頷く。そう、適当に。あくまでも適当にだ。本当に納得したかはわからない。


「−−−んなわけあるか、下手な嘘吐いてんじゃねぇぞ、ボ」


「天誅」


殺気が放出され臨戦態勢に移行しようとしたカグヤの意識をゼストが瞬時に奪った。大鎌を使った物理的な本気の一撃で。


「最初からこうすりゃよかったわ」


ゼストの笑顔はとても清々しいものだった。その様子を見ていたサリナは気絶したカグヤとゼストに対して羨望の眼差しを送っていた。




赤髪赤肌の魔神の正体は鬼である。名をギド、出身はここより南方にある小島鬼ヶ島である。桃太郎との激闘から早500年、生き残った鬼達は肩身苦しい生活を送っていたがギドはそんな生活に嫌気がさして鬼ヶ島を飛び出した。それからは大変だった、肌の色のことを聞かれるわ見世物にされるわ言語は通じないわ力の差でわかりあえないわ。まぁ、あの残虐非道で鬼娘達を攫った血も涙もない変態として語り継がれる桃太郎と同種の者たちの過ごす土地なのだ、わかりあえないのは当然である。

もちろんギドはそんな桃太郎のことを話でしか聞いたことがない。人間の先入観としては極悪非道の変態というイメージしかなかったが、徐々にそのイメージも薄れていき言語もなんとなくだがわかってきた。郷に入れば郷に従えとはこのことなのかもしれない。長年鎖国態勢を取っている鬼ヶ島の文化とは違う文化に触れれて新鮮な気持ちにもなれた。そんな彼が魔神と名乗るのは理由がある。人間とは違う肌の色をしているため、そうした方が都合がいいからという簡単な理由である。

もし、鬼であることを言ってしまえば桃太郎のように殺しにくるかもしれないし、鬼娘達のような破廉恥な目にあわされるかもしれない。それをギドは恐れていたのだ。自身が鬼であることを隠さねばならない。


そんな折にある一人の人間に目と心を奪われた。それが目の前にいる猫耳黒髪ボブショートの人間である。一目惚れ、というやつだろうか。しかし、その人物宇宙人と名乗る人物は自らを男であることを公言し下半身を公開したのだ。


ギドは絶望し黒い感情が湧き上がり、自分でもわかるくらい殺意に満ちていることがわかった。純心を弄ばれた、これがギドが宇宙人に復讐するちっぽけでくだらない小さな小さな理由である。


「俺はお前を許さない!」


「うん、とりあえず落ち着こうか。よくわからないから」


宇宙人の言葉にギドがわざわざ耳を傾けるわけもなかった。怒り、悲壮、憎悪、羞恥、様々な感情が混ざり合ったギドを止めることは不可能。鬼の持つ力で潰すつもりだったのだが、宇宙人には通用しなかった。そう、何度やっても同じ結果になってしまうのだ。何度拳を振るっても避けられ、何度脚をぶつけようとしても動きが読まれ、純心だけでなく行動まで弄ばれる、至極不快であった。


「ほんっとにしつこいなぁ。俺が一体何したっての?」


一目惚れした相手が男だと知ってショックして八つ当たり、だなんて本人はおろか誰かになんて言えるわけがない!だからギドは言葉を選ぶ。


「存在が目障りだ!」


「酷くない!?」


魔神の怒りは収まるところを知らない。ビキビキビキ、と両腕の血管が限界にまで露出し右腕が宇宙人の頭目掛けて振るわれた。




宇宙人は困惑していた。目の前の魔神、もとい鬼は何を思って魔神を名乗り自分に怒りを向けているのか。

魔神といえばある世界では魔法の原理、プロセス、魔力回路までをも解明し原初の魔法を生み出したとされるまさに魔法の神である。


だが、目の前の鬼は一切魔法を使っていない。果てしない馬鹿なのだろうか、それとも無知なだけなのだろうか?

そもそも魔神はそう簡単に名乗れるものではない。例えば宇宙人がこの世界の調停者であることを名乗れないように力の強すぎる者には世界から制約が課せられ、自然な流れで名乗れない仕組みになっているはずなのだ。名乗ってる時点で偽物、宇宙人は赤髪赤肌の鬼が可哀想で仕方なかった。

それと存在が目障りだ、という言葉に結構チクリときてたりする。まさか、いや、そんなはずはないと宇宙人は考えを消す。仮に鬼が本物の魔神であり実力を隠して勝手に下界してきた調停者たる自分を消そうとしているのでは?という考えだ。

可能性は極めて低いが、先輩達が仕向けた可能性だって高い。調和の間において宇宙人は嫌われ者で厄介者であるからだ。まさかこんな陰湿な嫌がらせをしてくるとは思わなかったけど!


魔神の右の大振り、これは少しマズイかもしれない。避ければ軽い地震が発生するかもしれない、受けることはできるが面倒だ、痛そう。


というわけで一旦世界を終わらせることにしましたー☆


そして鬼のいた場所の座標を少し弄ってから世界を瞬時に再生、二回の拍手の間の出来事である。


「まだやるのー?」


「当たり前だァ!お前は潰さなきゃ気が済まね、ぶほ!?」


「はい、もうそろそろ行くぞー」


ギルディアが鬼の頭を掴んで地面に叩きつけた。隣に立つゼストは見知らぬ女を肩に乗せていた。


「誰だァ!?」


「お前さんが魔神だろうが何だろうが知らんが、今は時間がないんでね。意識は飛ばさせてもらう」


「ぎ、ギルディアさん!!つ、次は私の頭を、大地とのキスを私も」


「後でやってやるから今は落ち着け」


やるの!?と思わず宇宙人は声を上げてしまう。この二週間でサリナとギルディアのことはある程度わかったつもりだったが、ここまでだとは思いもしなかった。


−−−瞬間、サリナ達のいる位置に影が差した。とても、とても大きな何かが上空にいる。


「あれは!?」


サリナが見上げる。


「まさ、か」


ゼストが驚愕する。


「空想上の生物、なんじゃないのか!?」


魔神が狼狽える、ていうかおまいう。


「へー」


宇宙人は興味深そうにする。そう、あれは退屈平和なこの世界に宇宙人が興味本位で作り上げた生物。

本来この世界に存在しえない生物。


黒と紫の鱗、真っ赤な瞳は見る者を畏怖させる。そして、ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!という甲高い鳴き声に立派な四肢、巨大な双翼を羽ばたかせ長い尾は唸りを上げるかのような圧倒感。


ドラゴン。陸海空に適応する生物の王者がガルシア王国に向かって飛んでいた。

役者は揃った。決戦の日は近い。

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