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一ページ目:いつも通りの日常にさよならを!

むかしむかしあるところに、一家が仲睦まじく暮らしていました。父は35歳のごく普通のサラリーマン、母は32歳のごく普通の専業主婦。

子供は二人おり、犬好きなでどこか天然の姉と末っ子として特別可愛がられていた弟がいましたとさ。


しかし、ある日反抗期を迎えた弟は家を飛び出してしまいます。きっかけはほんの些細なことでした。鍋の締めをうどんにするかラーメンにするかでした、今までの不満もあり弟はついに涙を流したのです。


−−−これが今から3年前の話。時は流れて物語は進み出すのでした。




ここはビヒュリア王国に位置するバテリアと呼ばれる小さな街。


「いらっしゃいませ!何名様でしょうか、4名様ですね!ご案内いたします!」


小さな喫茶店で働く、電球の光に反射し真っ白な髪をポニーテールにした少し背の高い少女の名前はサリナ。肌は小麦色に少し焼けており、ウェイトレス姿がとても様になっている。いつものようにドジをして、皿を割って、お冷をぶっかけて(逆も然り)、木製の机を素手で叩き割ったりといつものように業務をしている。店長に怒られて給料を八割引かれて夕暮れに染まった街を歩いてアパートに戻るのが日課となっている。

今は親元を離れて一人暮らしをしており、日々の失敗から割とギリギリの生活を送っている彼女だが、それでも人生を楽しむほどの前向きな考えを持っており何とかなっている。

一週間水だけで生活したという伝説まで持ち、店長にこっ酷く叱られて両親からも心配に心配されこっ酷く叱られたそうな。本人は少しそのことに悦んでいた。罵倒が気持、ではなく自分をしっかり叱ってくれる者がいる。痛みが快、か、ではなく自分のことをここまで考えてくれている人がいることが嬉しくて堪らないのだ。

アパートの管理人であり、毎日毎日落ち葉やゴミを掃除している筋肉達磨さんことドン・バスディーユに帰宅を告げて自室に戻る。

三畳ちょっとの小さなお部屋は家賃は安く、一人暮らしをするに丁度いいとサリナが自ら選んだ部屋だ。彼女の収入が毎月2,500リンなのに対して家賃は30,000リン、今月も借金である。実家からの仕送りにはあまり頼りたくないというプライドから今月もドン・バスディーユに土下座することになりそうだ。


そんな日々を送る彼女に転機が訪れたのは夏の日差しが眩しいある昼下がりのことだった。喫茶店が休みで何もすることがない彼女は気分転換に散歩でもしようと部屋の扉を開けたらそこには鍛え抜かれた王都の屈強な兵士が十人以上立っていたのだから。


「........はい?」


「サリナ・コバルトだな?時間に余裕があるのなら少し、我々と一緒に来てもらおう」


これは新手のセールスか?それとも、お茶の誘いと見せかけたナンパか?それともよくある誘拐で「く、殺せ!」というシチュエーションにまで持っていくおいしい展開がお待ちのお約束か?できることなら最後の展開が望ましい、サリナには時間に余裕がある。目の前の優男の誘いに乗ってもいいと判断し、両手を前にスッと差し出す。


「ん?」


「ど、どうぞ、お縄にかけてくだしゃい」


「ちょっと待とうか、別に捕まえに来たわけじゃない。というか何でそんなに嬉しそうなんだ?別に君に罪はないから大人しくついてきてくれないか、一刻を争うんだ!」


スルーしたものの反応、だと!?この男できる、とサリナはカッと目を大きく見開く。

というわけで優男さんと兵士さんに連れられて数時間が経ち、とうとう王都にまで来てしまったサリナ。ここからの展開は予想できないが、まさか国王様の前に連れてこられるなんて思いもしなかった。


グラン・ラギュウス。ビヒュリア王国に住む者なら誰もが知る国王様そのものである。まさか有名人を直に見れるなんてカメラ持ってこればよかったーと気の抜けた思考のサリナに対して国王様は髭を弄りながら言葉を放つ。


「−−−サリナ・コバルト。我が国の最終兵器としてお前さんに頼みたいことがある」


「.....はい?」


どゆこと?最終兵器とは一体どういうことだろうか?理解の追い付かないサリナはとりあえず王座の間にある大きな絵画を眺めながら、あれを売れば一体何日生活できるんだろうなー、とか思いながらぽけーっとすることにした。国王様はそんなサリナのことなど気にせずに話を進める。


「隣国の王が我が国へと宣戦布告を申し出てきた。期限は一ヶ月後、一ヶ月後に我が国へ向けて隣国が誇るトリプルSクラス兵器、れーざー☆びーむを放つと書状には書かれていた」


「.....それで、私にどうしろと?」


「隣国、ガルシア国の王である主の弟を説得してほしい」


「弟?私の弟は三年前に鍋の締めをうどんかラーメンにするかの論争以来家には戻っていませんが、まさかガドリア国にまで!?」


「うむ、お前さんの弟であるシオン・コバルトは現ガルシア国の国王だ!」


「な、なんだってー!?」


「知らぬのも無理はない。彼の王が即位したのは半年前だ。情報の届きにくいバテリアでは−−−」


「いえ、知ってますよ」


「知ってるんかーい!」


王は盛大にずっこけた。サリナ自身も弟のことはずっと気がかりだった。三年前、シオンが家を飛び出してすぐさま後を追いかけたのがサリナだった。彼女もシオンと同じくうどん派であり味方として彼の背中を追いかけた。しかし、降りしきる雨と食の誘惑に負けシオンを見失い、一週間街を駆け回り喫茶店でコーヒーを飲んで一服したり、本屋で立ち読みをしたりと寄り道はしたものの家には帰らずに探し続けた。夜には白装束のお姉さんの悩みを聞いたり血気盛んな男達の相手をしたりと寝床は漫画喫茶に佇み続けたのだから。金と体力の限界を感じて自宅に戻り見つからなかった悔しさから一年間も立ち直れずにいたのだ。


それほどサリナにとってシオンは大切な存在だった。誰よりも罵ってくれる、誰よりも良き力加減で殴ってくれる、誰よりも一緒にいて気持ちいい愛する弟。そんな弟が国王となったと聞いたときは遠い存在になってしまったと諦めかけていたのだ。何故ならガルシア国に行くまでの資金がない。バイトでは失敗続き、家賃はいつもギリギリ、食費は最低限に抑えてたまに盗みをすると経済的にギリギリだったからである。

そして、そんな弟が故郷を滅ぼそうとしている。『れーざー☆びーむ』なる兵器は一発放てば一国を焦土に二発放てば大地に穴を開け三発放てば何が起こるか誰も見たことない、とんでもない兵器。やはり鍋の締めはうどんでなければ不満なのか、サリナもそのことには大いに賛成だが今はそんな事態ではない。懐かしい思い出話は一旦アルバムに仕舞い込んでおこう。


「−−−サリナ・コバルト、この任務請け負ってくれるか?様々な困難や受難が待ち受けておるだろうが、国を救うのはお前さんしかおらんのだ」


「むしろお任せくださいませ。困難?受難?むしろウェルカムですよ!!火の海にだって笑顔で飛び込んでやりますよ!!」


「うむ、頼もしい限りだ!資金とお供として我が有能な部下を一人連れて行くといい!」


−−−こうしてサリナはガルシア国に向かうことになった。多くの出会い、困難、受難、危機がサリナの前に立ち塞がる!

物語のまたページが綴られる。




一方、その頃ガルシア国。


「シオン様。ビヒュリア国の者が動き始めました」


「そうか」


玉座に座る齢14の少年、シオン・コバルト。ガルシア国の王である。

毛先にまで手入れが行き届いた光が反射するほどまで磨きかかった真っ白な短髪を揺らしながら蒼い瞳を静かに閉じる。


(はぁぁぁぁぁぁ、もうどうしてこうなったんだ、一体!?僕はこんな生活さっさと抜け出して普通に生活したいだけなのに!!!)


頭を抱えながらシオンはそれは大きな大きな溜息を一つ吐いた。

それは3年前、家出をするきっかけとなった両親と姉。あの日はたしか鍋の締めをうどんかラーメンかで揉めてた気がする。しかし、シオンにとってそこはどうでもよかったりした。

両親はたしかラーメン派、姉とシオンはうどん派で姉と両親が口論になっていたところ、仲裁にシオンが入ると何故か両親がころっと意見を変えうどん派に寝返った。シオンが少し話に混じっただけなのに。

幼いシオンにはそれがとても恐ろしくて堪らなかった。昔からそうなのだ、シオンが願いを口にすれば相手が見ず知らずの他人だろうがよく知る人物だろうがニコニコと笑顔を浮かべてシオンの願い通りに動いてくれる。何でもかんでも自分の思い通り、普通であれば望ましいのだが、幼いときから体験してきており、世間を知ったシオンはそのことを受け入れられず我慢の限界が訪れ、泣きながら家を飛び出した。


降りしきる雨の中、後ろから姉が追ってきているがそのことすらも恐ろしく思った。我武者羅に目の前に向かって走り続けて数時間、倒れそうなところをガルシア国の兵士に助けられた。

そして何故か国王に気に入られて養子に、そこから王宮の人たちもシオンをまるで本物の王のようにシオンを讃え望み通りに動いた。ここでもそれが起こったことが恐ろしくて堪らなかった。そして半年前にガルシア国王が急病で死にシオンが国王となった。

ガルシア十三人衆もシオンに敬意を払い、ここで逃げれば国がバランスを保てないと判断し、シオンは人の上に立つ存在となった。

そして数日前、ガルシア十三人衆の一人であるエルフ族のセラフィールと昔話をしていたときだった。あの日、シオンが家を出た時のエピソードをうっかり話してしまい、どこでどう話が拗れたのか国内禁忌兵器とまで呼ばれるれーざー☆びーむまでも取り出し、ビヒュリア国に放つということになっていた。セラフィールだけならなんとかなったかもしれないが、実質トップの元老院までもが動き始めたのだから止められるわけがなかった。

とりあえず視察としてガルシア十三人衆のゼスト・シュナイザーを偵察に向かわせている。とりあえず報告を待つのみだ。


「シオン様、顔色が悪いようですが大丈夫でしょうか?」


「うん、大丈夫。気にしないで」


待つこと数分、ようやく報告がやってきた。


『見たところ二人来ていますね。えっと、名前はギルディアと呼ばれる男とサリナという女です』


「.....え、サリナ?」


『えぇ、あの二人の会話が馬鹿みたいに大きかったので聞こえたのですが、白髪の女です』


「全力で止めろォ!絶対にこの国に入れるな!」


『は、はい!!』


−−−何で姉さんが来てるんだ!?

パニックに陥ったガルシア国王様は全力でヘドバンを始め、ロック好きな連中と一緒になって一時間続けたとか何とか。




そういうわけでお供として選ばれたのはギルディアと呼ばれる黒髪のおっちゃんだった。サリナとギルディアはすぐに意気投合し、オールで酒を飲み交わし、日付が変わってから両親の元に挨拶に向かった後、必要な道具を買い込み、ドン・バスディーユにしばらく留守にすることを告げて、喫茶店へしばらく休むと伝えてホッとされて、ようやく出発した。

二人は歩きながらも元気で昼間から酒のテンションでガルシア国を目指していた。ちなみにサリナは18歳、ギルディアは45歳だ。


そんな二人の前に大鎌を持った黒髪を靡かせた男が立ち塞がる。


「俺はガルシア十三人衆が一人、ゼスト・シュナイザー。王の命によりお前たちをここで止める!」


バサバサとボロボロになっている黒いマントをはためかせながら、ゼストはこちらをキリッと睨んでいた。サリナはわたわたと狼狽え始めた。


「ど、どうしよう、し、シオンが本格的に反抗期になっちまったよぉ、ギルディアおじさん!」


「とりま落ち着きな。あの若僧は中々の手練れだ。おそらく死神の二つ名持ちのゼストだろう」


「シオーーーーーーン!私はお前をそんな子にした覚えはないぞーーーーーーーーーーー!」


「−−−シオン様の名を、気安く呼ぶなァ!」


とぷ、とサリナの近くで液体の中に何かが沈んだ音がしたと思えばそこには巨大な大鎌を振るい、サリナの首を狙う死神がいた。サリナはあまりの一瞬の出来事に悦、怯み歓喜のあま、恐怖のあまりに声が出せなかった。

それでも、無情にもサリナの首に大鎌が振るわれる。

ガキィィィィン、と金属音が木霊する。ギルディアが身を呈して彼女を守るために剣を抜いてぶつかり合った激突音とかそんな回りくどい表現が一切必要のない簡単な出来事だった。


「「ふぁ?」」


「ぁ、ん!」


間抜けな声を出したのはゼストと走り出したギルディアだった。サリナは頬を赤らめて小麦色の肌の色をしたか細い首にゼストの大鎌を自ら当てにいったのだ。その表情は恍惚と表現できる美しくどこか穢れたものであった。


「そ、そこぉ、気持ち、いぃ!も、もっとぉ、もっとぉ!!!」


「ちょ、おま、はぁ!?」


ゼストは訳がわからない、といった様子で大鎌を振り上げて再度振り下ろす。今度は心の臓付近の左胸。しかし、この一撃も金属音とサリナの艶かしい声で済まされてしまった。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、何度繰り返しても結果は変わらない。サリナが恍惚の表情を浮かべて楽しそうにしているという事実も。


「ギルディアしゃん!!この人、この人超テクニシャン!!私の望む威力、角度、的確な速度で打ち込んでくる!貴方、お名前は!?」


「ゼ、ゼストデス。さっきも言ったけど」


「お、おい、サリナ」


「覚えましたよ!あなたのこと私絶対に忘れません!いや、むしろあなたは忘れてください!!そうしてくれた方が次会った時の快感はもっと激しくなりますから!!」


「おい!?何なんだこの女は!?」


「俺が聞きてぇわ!サリナ、お前一体何なんだ!?」


「私は、普通の人間ですよ?」


「「いやいやいやいやいやいや」」


こくんと可愛い仕草で小首を傾げるサリナにそんなわけない、とギルディアとゼストは勢いよく問い詰める。もはや敵も味方も関係なくなったこの三人だけでもよくわからない状況を打開する素晴らしい人材は存在しない。空から降ってきてほしいものだが、それはそれでさらなるカオスを呼びそうなのでご勘弁願いたい。


「−−−天から猫耳男の娘登場!」


「誰だ、お前!?」


ギルディアは踏み潰され、ゼストは叫ぶが、混沌は混沌を呼ぶ。パズルゲームのような連鎖は止まることなく繋がり続けるだろう。

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