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起[2]

 「彼女、結婚したんだぜ?」

 そんな話を俺が聞いたのは何時だったか。

 確か大学を卒業後、上京し上場企業に就職したあとで、1年が過ぎるも長続きがせず会社を辞め、田舎に帰郷し、さてこれからどうするかと悩んでいた時期。

 当てもなくコンビニへ買い物へ行ったときに、元クラスメイトに出会った時であったろうか。

「他には」

 俺は当時24歳になったばかりだった。

 その中でクラスメイトのうち、4組が結婚していた。

 中には同級生同士で結婚していた者もいた。

「彼女のお相手、自衛官らしいね。 もうすぐ子供が生まれるよ。 うちの産婦人科に来ていた」

「そうか・・・・・・。それはめでたいな」

 と言う情報源は看護師の元クラスメイトが言う。

 挨拶そこそこに別れ、俺はコンビニで購入したセブンスターの封を開け、車の中で一息ついた。

 率直に言えば、羨ましかった。

 そして、早いな。 とも思った。

 まだ俺達は24歳だ。

 大卒であれば、まだ社会に出て一年ちょっと。

 相手が何歳かは分からない。

 だが正直、自分の立場であればそんな責任はまだ持ちたくはなかった。

 と思うのと同時に、今現在無職の俺に責任など持てるはずがないと鼻で笑ったのも思い出した。


 彼女の面影を思い出すと必ず思い浮かべる姿がある。

 それは成人式の姿だ。

 中学は同じであったが、高校からは別れ、俺は進学。彼女は就職と全く違う道へ進んだ。

 その中で、およそ五年ぶりに再会した彼女はとても可憐であった。

 赤い振袖に、薄化粧。 黒々とした美しいカジュアルショートヘアー。

 控えめな様子でありながらも、クラスメイトと談笑する姿は目についた。

「あ、久しぶり。 元気にしてた?」

 こんなことを言ってた気がする。

 慣れないスーツ姿で、上擦ったまま俺は。

「おひさ」

 と言葉少なげに挨拶を返すのが精一杯であったはずだ。

 少しではあったが、今何をしているのか。 どこに住んでいるのか。

 そんな近況報告もした。

 嬉しく思うよりも、何か居心地の悪さを感じた。

 彼女は俺にとって、より遠くの存在になったように感じた。

 俺が学生だから?

 彼女が社会人として働いているから?

 想像しているよりも美しくなっていたから?

 全部だろうな、と今では思う。

 ただ、恥ずかしくて居た堪れない、そんな気持ちを確かに感じていた。


 成人式を終えたあとも、またそれ以降も彼女と出会うことはなかった。

 だが、思う。 彼女なら良き妻になるのではないかと。

 俺の知ってる彼女は、優しかった。

 孤立していた当時の俺に、声をかける女子はいなかった。

 その中で、彼女は隣の席という理由か、度々と話しかけてくれた。

 どれだけ助かったことか。

 感謝しても感謝しきれない。 なにせ彼女が切欠で他の女子と会話することも増えたのだ。

 会話に飢えていた。

 一人でいるのは嫌いではない。 だが、孤独は嫌だった。

 だからこそ。

 学生生活を幸せにしてくれた彼女には、幸せになって欲しいと思う俺は我儘ではないはずだ。


 初恋ってのは、どうして実らないのかね。

 いや、そりゃ実る人もいるだろうさ。

 でもそういう人達ってのは、羨ましいね。

 心底羨ましい。

 美しい思い出を実らせれば、それは大きな大樹になってそいつの根源となるかもしれない。


 俺が思うに、恋愛ってのは普通に経験をしていれば普通に出来るもんなんだろうね。

 まぁ、その普通ってのが俺には分からないんだが。

 だから俺はきっと、普通じゃないんだろう。

 世間一般的には、高校生ぐらいには半数近くが彼氏彼女の関係になる。らしい。

 社会人になっても、人付き合いそこそこな奴は何かしら出会いってものがあるわけだ。

 と言うのは、大学時代、社会人一年目の頃には間違いなく彼女は俺にだっていたさ。

 その頃は俺は人付き合いそこそこでやっていたからな。

 だが、長続きは如何せんしなかった。

 何があったんだろうな。

 何もなかったからかもしれないな。

 正直な話、俺は彼女に「彼女」の面影を見ていた。

 だから、幻滅するのだ。

 勝手に好きになって、彼女の本質を見ると、勝手に幻滅する。

 最低な野郎だって気づいたのは、「彼女」が結婚したと聞いたときだった。

 

 口では「めでたい」とか言っても、心根では祝福はできなかった。

 祝福は出来ないが、幸せにはなってほしい。

 なら相手は俺だったら良かったのか?

 それも嫌だ。 責任は持ちたくない。

 いや、責任が持てない。

 彼女を幸せに出来る自信が一ミクロンすら湧かない。

 彼女は「彼女」なのだ。

 触れ難い、神聖領域が彼女にはあった。

 だからこそ思う。

 俺は普通ではないと。

 もしかしたら、もしかしたら付き合える可能性はゼロではなかったかもしれない。

 何せ、中学三年間は少なからず俺は「いじめ」といったものは鳴りを潜めていた。

 彼女との思い出も沢山ある。

 だからこそ思うのだ。

 

 俺は気持ちが悪い。


「彼女」の幻影が何時までも俺自身に纏わり付いている状態を、それでも良しとする。

 俺は一人でも平気だ。

 数少ない恋愛経験を経て、今尚、幻想の「彼女」は完成していた。

 だから俺は普通ではないのだろう。

 今死んだとしても俺はきっと後悔はしない。

 彼女の思い出は確かにあったから。

 

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