27. 御影
今夜はとても静か。
いつも聞こえる無機質な電気音も、一定のリズムで身体の内側を押し上げる鼓動も、
全身を包む不安への悲鳴も、何も聞こえない。
外も内も、明と暗も何もなく、どこでもない何処かで浮遊しているよう。
感じられるのは心地いい穏やかさと暖かさ、
そして私の外側から響く自然な心音。
幸せに満たされた揺り篭の中であやされるように。
―とても、眠い。
微かに残るこの意識を手放してしまいたい。
体は眠りにつくことを望み、夢の中で揺蕩う誘惑に身を任せたがる。
だけど、今感じられる温もりや幸せ、心地いい鼓動をまだ感じていたい。
この幸せなときを終わりにしたくない。
眠りについてしまえばもう、この幸せが遠く手の届かないところへと離れてしまいそうで。
――それでも、眠い。
どうして離れてしまいそうと思うのかも分からない。
漠然とした感覚のままで、それでも暖かさが遠ざかっていくのが分かる。
それがとても悲しくて切なくて、何かが張り裂けそうに苦しくなって。
―――どうしようもなく、眠い。
もう少しでも覚めていたいのに。
もっともっと暖かさに満たされ、溺れていたいのに。
揺れている『私』がゆっくりと沈んでいく。
誰かが耳元で囁く。
その声はきっともう聞こえない。
筈なのに、はっきりと聞こえたような気がして。
その時、遠ざかっていた暖かさを再び側に感じることができた様に思えたのが嬉しくなって。
今度こそ『私』は眠りに就いた。




