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俺は?


彼女が俺を見て、何を言われたか分からないという顔をした。

一度口から出た言葉は取り返しがつかない。もういいや。


「 俺が高校生だから駄目なの?それって酷くない?年だけじゃん」

彼女が焦っていた。暗くて分かりにくいけど、目を泳がせている彼女の頬はもしかして赤くなっているんじゃないだろうか。

「 な、何言ってんの?だって年いくつ離れてると」 

「 関係ないよ。下の側が良いって言ってんだから問題ないだろ?」

関係ないんだよ。それは自信を持って言える。最早俺は彼女を見下ろし仁王立ちだ。 

「 え!問題あるでしょ!だって高校生だよ。あたしなんてもれなく太朗がついてくるんだから」 

「 いいじゃん。太朗可愛いし」 

「 いいじゃんって、そんな簡単じゃない、と思うん、だけど・・・」 

彼女が自信なさそうになってきた。所詮酔っ払いだからな。頑張れ俺。押せばどうにかなるかもしれん。


彼女の前にかがんで、彼女の両足を挟むようにしてベンチに両手を付いた。

彼女がわずかに怯えた表情を浮かべていた。

「 せっかく太朗と俺が仲良くなったのに、また他の奴が太朗と仲良くなるのを待つわけ?」 

俺の腕に両足を囲われた彼女は、ベンチの背の方へ後ずさり始めた。逃がさん。

「 そうすると、思うけど。好きになった人に、後から太朗は嫌だとか言われたらきついし」 

「 太朗が嫌だとか言うクソみたいな男を好きになるつもり?」

見上げる俺に、彼女がたじたじで答えた。

「 そんなこと、言ってない。なんでお兄ちゃんが怒ってんのよ」 

「 なんで俺じゃ駄目なのかって言ってんの。俺、太朗が嫌だなんて言わないよ」

「 それは分かってるけど。でも、だって、あたしが、えーと」 

彼女が視線を泳がせた。

「 あたしが何?」 

「 あたしが、うーん、分からない。忘れた。何言いたいか忘れた!ていうか酔っ払ってんのあたしのはずじゃん!これじゃ酔っ払いに口説かれてるみたいだよ」 

「 何だよそれ。俺酔ってないよ。なんで俺が酔ってることにされてんの?吐いてたのそっちだろ」 

彼女が嫌な顔をした。

「 分かってる。今日吐いたのはあたしだけど、この場の雰囲気にのまれてそんなこと言ってんだから酔ってんのとそう変わらないでしょ」 

憎たらしい顔で、また腹が立つことを言い始めた。

「 俺が今だけこんなこと言ってると思ってんだ」 

「 そうじゃなきゃ有り得ないもの。暗がりで濡れた女見て、きっと純情なお兄ちゃんがおかしくなってるんだわ」  

言いながら自分の言葉に納得したのか、徐々に警戒した顔色に変わっていった。

何かされそうな心の準備はしてくれたらしい。


「 まあ、それでもいいや。ねえ、宮本は気持ち悪かったんだろ。俺は?」 

彼女の膝に身体を近付けると、彼女が仰け反る様にしてベンチの背に身体を添わせた。逃げられないのに逃げて行こうとする彼女を腰の横に移した両腕で囲いながら、身体を起こした。

動悸が、やばい。頭の中もドクドクいってる。

「 う、何するの?」 

一気に近づいた俺の顔を避けて彼女が横を向いた。襟の隙間からさっき散々さわった首筋が覗く。

彼女がぎゅっと目を閉じているのを横目に確認しながら、首元に顔を近づけた。

「 ん!」 

彼女が俺の気配に身をすくめるのを鼻先に感じた。もしかして、宮本と同じように気持ち悪いんだろうか。必死で耐えてるのかな。

何かそれはそれでいい気味だみたいな、意地の悪い気分になっていた。つまり、止める気にならなかった。

シャツと首の付け根の間に唇を押し付け、少し吸ってみた。

シャツは冷えてるのに、柔らかく湿った肌はじんわりと暖かかった。


「シャツかなり濡れてるね。ほんとに寒くないの?」 

「 ほとんどお兄ちゃんが濡らしたんでしょ」 

彼女が俺から顔を背けたまま、予想外に飄々とした声で答えた。

襟元に顔を突っ込まれて首筋に唇をくっつけられたままなのに、嫌じゃないんだろうか。

彼女の良い匂いを吸い込む様に、震える息を深く吸ってゆっくり吐くと、くすぐったかったのか嫌だったのか、彼女が肩を竦めた。

でも、俺を突き放す素振りは一切なかった。

いいの?耐え切れず、舌先で彼女の肌を舐めてしまった。さっきずぶ濡れにして洗ったからか何の味もしなかったが、たまらなかった。

小さめの顎の下に向かって少しづつ唇をずらしながら吸って舐めた。頭がどうにかなりそうだ。なんでとめないんだろうな。ああ、酔ってるからか。

「 俺も気持ち悪かった」 

「 え?」 

彼女が身じろぎして顔が少しこっちを向いた。耳たぶの下辺りに唇をくっ付けていた俺の肌に、彼女のしっとりした頬が触れぞくぞくした。

ああもう。本当に今止めないと俺がどうなっても知らないぞ。

「 宮本にべろべろされたんだろ?俺も気持ち悪かったんだよ」 

彼女の滑らかな肌から唇を離し、真正面からその顔を見つめて言うと、彼女がげんなりとした。

「 べろべろって。思い出すから止めてよ」 

凄く普通だった。俺の必死の接近なんか気にもならないのかな。高校生だもんな。太朗に舐められてるくらいの感じなのかも。こっちは心臓飛び出しそうなのに。

悔しさと、抗い難い欲求から、もう一度彼女の首筋に唇を押しつけたが、彼女は避けなかった。

太朗扱いだとしても、素面の彼女であれば俺にこんな行為を許すとは思えなかった。









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