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お兄ちゃん見えるの?

最初は参加者全員での準備体操だった。この体操がラジオ体操ではなく、いきなり園児用の可愛い振り付けの体操だったので盛り上がった。

小学生の姉兄を連れている保護者はイベント参加経験が豊富なのか、めちゃくちゃノリノリでやけに上手い大人もいて面白かった。


「 見てあの人!」

不意に彼女の柔らかい手が俺の腕にふれた。いや俺!面白いおっさんよりあなたがお尻フリフリのとこ踊ってるの見たいし、しかも触らないで!いや、嬉しいけど今困るし!

「 慣れてますね。あの人もすごいですよ。ほらあの青いTシャツの人」 

赤くなる顔に気付かれないよう彼女に面白い人を紹介していると、昨日のおばちゃん先生に見つかった。

「 そこの二人ー!しっかり体操してくださーい!」 

「 はーい」 

彼女がおばちゃん先生に返事をして、俺に向かってやっちまったね、みたいな顔をした。可愛い。


それから彼女は前を向いて、真面目に体操という名のダンスを踊ることにしたようだ。

後ろのほうに立っていたため前の大人達が邪魔で手本の教師が見えず、身体をめちゃくちゃ斜めにして覗き込んでいる。可愛い。

「 こっち見えますよ」

彼女の向こうにまわって、彼女を俺がいた場所にずれるよう促した。

「 お兄ちゃん見えるの?」

見えなくても問題ないんだけど、一応前を見てみた。

「 見えます。問題ないです」 

彼女が俺にしっかり目を合わせて、とんでもなく可愛くにっこりした。

「 ありがとー」

駄目だ。これは耐えられん。あっという間に顔が真っ赤になったのを感じた。

彼女はそんな俺を見て声なく笑うと、前を向いた。


運動が苦手だとか言っていたのでドンくさい動きを予想していたが、あっという間に振りを憶えた彼女は、面白い人達の仲間入りをはたせそうなほどノリノリで踊りだした。

面白かったし、めちゃくちゃ可愛くて、にやにやしそうになる顔を必死で堪えながら盗み見た。

曲は振りを知らない大人のためにリピートされたようだ。

「 わー太朗君のお母さん上手ー!」 

おばちゃん先生の声に前の方で踊っていた太朗が走ってきた。

「 おかーしゃーんじょーじゅー!」 

「 あ、太朗こっち来ちゃだめじゃん」 

「 いいですよー。太朗君、お母さんとお兄ちゃんと一緒に体操してねー」 

太朗が俺と彼女に向き合って踊りだした。

「 あはは!お前後ろ向いて踊るの?全部憶えてるんだな。やっぱ天才か!」 

小さい太朗が踊るとお尻プリプリの振りも威力全開だ。虫が踊ってるみたいでかなり可愛い。

短い手足を頑張って動かしている姿が何とも言えない。

笑いながら見ていると太朗が叫んだ。

「 ちーがーうー!ぼくしゃんしゃいー!」

周りにも俺達のやり取りが聞こえていたようで、軽く笑いがおこる。中々楽しいな幼稚園イベント。



「 はあ、久しぶりに身体動かした。汗だくになっちゃった。準備体操で筋肉痛になりそー」 

彼女がはあはあ言いながらシートに座り込んだ。

「 帽子脱いどくんだったー」 

脱いだ帽子で顔を扇いでいた彼女から、汗で湿ったのか汗と混じったシャンプーのような匂いが流れてきた。

「 運動苦手じゃなかったんですか?かなり上手かったですね」 

無理やりでも会話してないとやばい。青空の下で変態になってしまう。

「 あははー。走るのとか球技とかはほんとに苦手なのよ、体育の成績も1か2だったし。でもダンスは大丈夫みたい」 

彼女が目を細めて笑う。可愛いなあ、体育が1とか、どうやればいいのか理解できないけど、可愛い。

「 あ、忘れ物多かったんじゃないですか?」 

彼女の後部シートに雪崩れていた荷物を思い出しそう言うと、彼女がきょとんとした。

「 あ!そうね。出来ないのに加えて忘れ物もいっぱいしてた。あれ成績に関係あったんだ。ちゃんとしとくんだった・・・」 

微妙な顔で遠い目をした彼女も可愛かった。



競技は、一応競技だけど殆どゲームで、運動会とは違って全部が大人と一緒に参加するものだった。

彼女が出来そうなものは彼女が、無理なものは俺が参加した。

無理の代表は四つん這いで列になった大人の上を園児が次々と走って行くゲーム。

腰痛持ちにはきつそうだった。

太朗が参加しない時は、俺と彼女のシートにやってきて待っていた。

待機の間も太朗は「 かたぐるまー」 と言って俺の肩に座って、楽しそうだった。


「 お昼には終わるんだって。ご飯奢るからどっか食べに行こうね」 

彼女が横から俺を覗き込んで言った。

「 あ、はい。ありがとうございます」 

赤くなる顔に気付かれないようあわてて競技の方に顔を向けてから答えた。

彼女が隣で笑った気配がした。うう、気付かれたんだろうか。

一刻も早く顔色を戻すため、手元にある太朗の足をこちょこちょした。

「 きゃー!」 

太朗が笑った。彼女も楽しそうに笑っていた。 

  


最後の競技だけは完全に競争の体だった。

俺の出番だ。競技名は『愛しのお荷物』 

好きなように子供を持って園庭を1周する速さを競うらしい。

好きなようにってどんなだよ。

最後の最後で保護者に苦行を強いるイベントだ。愛の重さを再確認しろって感じだろうか。


「 抱っこでもおんぶでも、とにかく子供さんの希望に応えてあげてくださーい」 

若い教師がマイクで言った。そう言うことか。

「 おい、太朗。何が良い?」 

列の先頭に一緒にしゃがんでいる太朗に聞いた。

「 なーにー?」 

「 俺が、お前を運んで走るんだってよ。どうやって行きたい?」 

太朗はきょとんとしている。

背の小さい順なのか運悪く先頭で、他の組を見せて説明することもできない。

どうすりゃいいんだと助けを求めて顔をあげると、おばちゃん先生がこっちを窺っていた。間違いなく太朗の担任なのだろう。

そしておばちゃんは、太朗に隠れて俺にジェスチャーをした。

手を広げてぶーん。飛行機か。

「 これですか?」

両手を上に挙げスライドさせてみせながら小声で確認すると、おばちゃんがぶんぶんと頭をふって頷いた。 

ええー、それは俺も機会があればやってやりたいとは思ってたけど、今?結構距離あるぞ。

園庭を見渡し1周の距離を確認した様子で、俺の考えていることが分かったのだろう。

今度はおばちゃんが小さいながら声に出して俺に言った。

「 君なら出来る!一番若くてムキムキだもの。ほら」

おばちゃんに促されて列の後ろに並ぶ大人の顔ぶれを見ると、確かに俺が一番若い。けど、あれ?これほぼおっさんじゃねえか!若いのもいるけどほとんど男じゃん!これ彼女が一人で来てたらどうなってたんだ?

もしかして家族の日って、父の日のイベントかよ。  


おばちゃんが俺を期待の目で見ている。気持ちは分かるんですよ。太朗の家族腰痛一家っすからね。

「 はあ、太朗たぶん、やったことないですもんね」 

おばちゃんが更に目を輝かせた。

「 そうなのよ!疲れたら途中からおんぶでもいいんだから!」 

太朗のためだな。

「 頑張ります」 


肩車では難航したが、飛行機はマシだろう。太朗は飛行機になっとくだけだからな。

「 太朗、しゃきーんって出来るか?こう」 

「 しゃきーん!」 

「よし、俺が、お前を持ち上げて走るから、ずっとしゃきーんってしとけよ」

出来るだけ簡単に教えようとしていた俺を、おばちゃんが加勢した。

「 太朗君、飛行機になるのよ。お兄ちゃんが飛ばせてくれるからね。飛行機になりたい?」

「 ぼくひこーきー?」 

「 やるか?」 

「 ひこーきやるー!」 

「 じゃあ、しゃきーんよ!頑張ってね!」 

「 ぼくがんばるー」 

太朗がにこにこしてぴょんぴょん跳ねた。やる気は満々だ。











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