あれ?俺
「 ねえ三浦さん。すごく仲良しじゃない。来てもらったら?せっかく知り合ったんだもの、太朗君も喜ぶわよ。彼、力持ちそうだし」
何の話だ?
「 いえでも。急だし、お兄ちゃんに迷惑ですから、部活もあるし」
なんだ?
俺の怪訝な顔におばちゃん先生が答えた。
「 家族の日って言う行事がね、天候不良で順延してるんです!太朗君のおうち、大人の方がお仕事でお母様しか来られないっておっしゃるから、せっかく大きなお友達が出来たんだし、お誘いしたらって言ってたんですよ!」
「 え?俺ですか?」
え!俺!?
おばちゃんは俺を見て人の良さそうな顔で大きく頷いた。
「 そう!すごく小さい運動会みたいな行事なんですけどね。家族とか親戚とか知り合いとか、誰でも一緒に来て下さいってことになってて、力のいるゲームが割と多いんですよ」
隣で、いいの気にしないでって感じの顔をして手を振っている彼女が気になるが、おばちゃんが期待に満ちた目で俺を見てる。
「 幼稚園の方も出来るかぎりお手伝いしますけど、太朗くんの他にも大人の参加が少ないおうちもあるから、手伝えることにも限りがありますしね。お母様だけで頑張られるのも大変だと思うんですよねえ。せっかく太朗君と仲良くなってくださってるから、是非来てくださらない?」
「 え?」
もう一度彼女を見た。困った様に眉を下げていた。
「 明日なのよ。部活あるでしょ?」
「 いや、夏は人数少ない方が喜ばれるから、部活は問題ないんですけど」
連絡さえすれば部活は問題ない。
でもどうしたらいいんだ?彼女は俺にどう答えて欲しいんだ?今度はおばちゃんを窺う。
「 あら良かった!ねえ太朗君!家族の日にお兄ちゃんに肩車してもらったり、高い高いしてもらったりしたいよねえ」
太朗はおばちゃんの言葉に、わくわくしたのが丸分かりの顔をした。一体家族の日って何なんだ?しんどそうなイベントだな。
「 たたぐるまー!」
太朗が今すぐ俺の頭に上る気満々の顔で、短い腕を伸ばしてきた。
太朗今じゃないんだ。お前も、家族の日分かってないな?
太朗の脇に後ろから手を突っ込もうとすると、抵抗して体の正面を俺にむけようとぐるぐる回りはじめた。
「 肩車だろ?そっちじゃねえってこら、後ろからなんだって」
何とか後ろから捕まえた太朗を持ち上げながら、意を決して彼女に聞いた。
「 家族の日ってきつそうですね。俺出ます?」
何かが起こる予感にばくばくだけど、持ち上げられただけできゃーきゃー喜んでいる太朗のおかげでいつもよりはマシだ。
「 いいの?」
彼女が目を大きくして驚いた後、可愛い顔をしてそう言った。確認がおねだりに見える!顔が赤くなるし!
頭の上まで持ち上げた太朗の尻で顔を隠しながら、内心声を出すのも必死だ。
「 全然いいですよ。太朗可愛いし」 あなたも可愛いし!
おばちゃんの提案を俺が引き受けたことが、彼女を喜ばせたのかそうでないのか酷く気になったが、太朗の肩車が難航して彼女の表情を窺うことは出来なかった。
「 おい足ひらけって。肩車するんだろ?違うのか?」
「 いーやーたたぐるまー」
「 だから肩車なら足ひらけって。俺の肩に座るの。頭に掴まって。だーからそれじゃ頭車だろ?足ひらけって」
彼女が後ろで笑い出した。おばちゃんも笑っている。
「 ごめんねー重いでしょ。降ろしていいよ」
「 いーやーたたぐるまー!」
「 するから足開けってば。いや、全然重くはないんですけど、俺の日本語じゃ通じないみたいです」
「 重くないの?すごいねえ男の人って」
彼女が笑いすぎの証拠である涙を拭きながら俺の正面に回ってきた。太朗の尻で彼女がまた視界から消えた。
太朗の足が無理やり開かれる。どうやら説明せずに実力行使にでたようだ。確かにその方が早い。
持ち上げっぱなしだった太朗の身体を頭上で後ろ側にひき、ようやく開いた足の間に頭を突っ込んだ。
彼女の顔がめちゃくちゃ近くにあった。
心臓が止まりそうだった。
太朗の膝辺りををまだ掴んだままだった彼女が俺を見上げ、至近距離で目が合う。死ぬ!やばい俺!
彼女の視線はすぐに俺の顔を通り過ぎ、更に上に向かった。
「 良かったねー太朗!初めてだね肩車」
助かった。太朗のおかげで生きていられた。
「 あらー初めてだったの?良かったわねえ太朗君。こういう力技ばかりはねえ、男性には敵わないのよねえ」
「 そうですねー。太朗楽しそーう」
「 きゃー!たたぐるまー!」
太朗はめちゃくちゃ興奮していた。
「 暴れるなって、落ちるから!」
俺は赤面する暇もなく、すぐにまた太朗と格闘することになった。
あれ?俺、何の約束したんだ?
あれ?俺、菓子渡したら彼女のこと諦めるんじゃなかったっけ?




