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6.27 期末考査最終日 やっと教室出ます

期末試験も今日で最終日だ。

宮本に見つかりさえしなければ学期中は確実に彼女のことを見ていられるはずだった。

未だ席替えに対する後悔は強かったが、試験中に窓の外に気を取られないですむのは有難かった。

姿さえ見られなくなってしまった彼女のことばかり考えたくなくて、無理やり試験勉強に集中したためか、今回の試験はかなり手応えを感じた。

はあ。試験がうまく行くより、彼女に独身に戻って欲しい。

政木や斉藤が言う通り、こんなどうにもならない思いは忘れてしまったほうが良い。

理性で考えることとは裏腹に、彼女を見られない期間が続くほど、彼女を思えば思うほど、彼女に対する気持ちが大きくなっていくようだった。


「 終わったなー!涼!マックよって帰ろうぜー。斉藤も行こうぜ」

政木がバッグを持ったまま大きく伸びをしながら言った。

4月から席が前後ろだったわりに斉藤と政木が話している姿はあまり見なかったが、俺と政木が入れ替わったついでに2人も仲良くなってきているようだ。

政木は俺から奪った窓際の席から、廊下側のこっちの席に毎休み時間と言っていいほど寄ってくる。

どうしてこんなに懐かれてるんだろう俺。

「 俺部活」 

俺がそう言うと、政木はでかい図体で子供のように唇を尖らせた。

「 ええー。試験中ぐらいサボれよ。しかも雨降ってんじゃんかよう。なあ斉藤」 

斉藤を巻き込もうとしている。

「 雨関係ないし、斉藤も将棋行くんだろ?政木は一人でマック行け」 

斉藤は中学の頃から、将棋好きの帰宅部が集まる小教室に入り浸っていた。

高校では実際に同好会を立ち上げている。

「はあ?嫌だよ、寂しいだろ俺が。斉藤将棋やんの?ついてって良い?」

斉藤は若干引いた顔をしていたが持ち前の博愛精神で受け入れることにしたようだ。

「ああ、良いけど。あんまり大騒ぎしないでよ」

斉藤の来るもの拒まず去るもの追わずの性質は、俺の愛するところではあるけれど、政木は拒んどいたほうが今後のためじゃないかなと思った。 



普段は19時までの部活も、試験期間中は16時17時くらいまで各自勝手にやってって感じになる。

とは言っても俺はいつもとやることたいして変わらないんだけど。

うちの部は、前任の顧問の粋というか適当な計らいにより、大会に向けて頑張るチームとひたすら泳ぐだけチームに分かれている。

俺は当然ひたすら泳ぐチームだ。

水泳部以外からは通称頑張らないチームと呼ばれるが、実際そうではないことは水泳部なら皆が知っている。とにかくひたすら泳ぐ、レーンが足りない場合は時に筋トレもするが、とにかくひたすら泳ぐチームが正しい。

おそらく怠惰な前の顧問が、水泳の目的と目標とやる気の方向性に幅がある部員の足並みを揃えることを諦めたのだろう。

大会や記録を伸ばすことを目標にやる奴らにはできる限り頑張らせたいし、ただ泳ぐことが好きな俺みたいなのにもせっかくのでかいプールを使わせてやりたい。でも一緒にするとまとまらない。そんな感じだろう。

水泳部入部条件は泳ぐやる気があること。頑張らないチームでも、これは必須だ。続けて2回無断でサボると無条件に退部させられる。

大会直前などはその時の状況によって頑張らないチームだけ休みになったり、身体作り中心の内容になったりと水に浸かれなくなったりするが、それに文句がある奴は頑張るチームに移れって感じだ。その代わり足並み揃えて頑張れよと。

俺は泳げる時に、自分の勝手に好きなだけ泳げればそれで満足なので、今の水泳部のシステムは気に入っている。

そうでなければ部活にははいらず、その辺のプールで放課後泳ごうと思っていた。

さあ、今日も何もかも忘れてひたすら泳ごう。


徹夜漬けの試験期間が終わり皆疲れているはずだが、やはり泳ぐことが好きな奴ばかりのためほとんどの部員が出てきていた。

沈む恐れがあるほど眠いやつだけが休んだようだ。体調の優れない時のプールは危険だ。

季節的にようやく校外の屋内プールまで移動せずに校内のプールで泳げるようになったことも、皆が取り合えず一泳ぎしていくかという気分になる一因でもあるだろう。

やっぱり放課後移動せずにすぐプールに入れるのは、部活動の利点だな。

楽しい季節がやって来たのだ。夏だ。プールが一番気持ちいい夏だ!

無理やり自分を鼓舞するが、頭の奥には子持ちの人妻が居座り、気分を上げるはずのプールも結構な雨で暗かった。



徐々に皆帰り始めたが、最後まで泳いでたやつらと一緒にあがった。

「 じゃあな」 

皆に声をかけて、それぞれの帰り道に分かれた。

頼まれたプールの鍵を職員室に戻し、手に持っていた靴を履きながら部室に傘を忘れたのに気付いた。

まあいいか、どうせプールで濡れてんだし。走って帰ろう。

校門を小走りで過ぎながら、いつもの電停に並ぶか、普段使わないバスに乗るかを考えた。

電停に目をやると、屋根はあるがそれからはみ出るほど人がならんでる。

路面電車の線路の先に目を向けると、電車はまだ近くには見えず、かわりに丁度うちの方向に行くバスが赤信号にひっかかっているのが見えた。

やった。あれに乗ろう。走れば間に合うはずだ。

雨粒を避けるように目を細めバス停へ向い走り出すと、彼女の幼稚園が見えてきた。

通常の部活終わりの時間には人気の無い園の駐車場に、今日はまだ車の出入りがあるようだ。

試験中毎日バス使えば彼女に会えたかもなあ、そんなわけ無いか。と、一瞬でも期待した自分が馬鹿みたいに思えてへこんだその時、知らず速度を緩めていた俺の視界に白の軽が飛び込んだ。

足が勝手に停止し、心臓が有り得ないほど強く打った。

駐車場から歩道に乗り出し俺の目の前に止まった小さな車の、水滴だらけの窓がゆっくりと下がった。

「 傘ないの?」 

彼女だった。








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