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(第8話) 回り始めた 運命の輪

 登場人物が 多いのは、水乃の作品の 特徴ともいえるのですが。

 六人の 王子様を覚えていただけるように、彼らとの話を書いていきたいと思います。

「あの…… どうも、お邪魔しています」


  無理やり 瑛汰に連れてこられたとはいえ――― 関係者以外 《立ち入り禁止》のエリアに入っているのだから、挨拶をしないわけにはいかない。


  ソファから 立ち上がると、慌てて 紗月お嬢様が 駆け寄ってきた。

「足を怪我していらっしゃるのだから、座っていらして?」

「怪我といっても、それほど たいしたものじゃないので……」


  ほんの少し 捻っただけで、こんなもの 子供のときから慣れている。

  経験上、数日経てば 元に戻るはずなのだ。

「来て下さって、嬉しいです。 私が 我がままを言ったばかりに、レンさんに ご迷惑がかかるのではないかと、心配していましたの」


  …… 呼びだしたのは、紗月お嬢様だったのか!

  走る リムジンの中では、そんなことは ひと言も、瑛汰の口からは 出なかったぞ。

「…………」

  ほんのりと 頬をバラ色に染めて、嬉しそうに見つめられてしまえば、文句など 言えなかった。

 

  仕事を終えたら、家に 直帰する。

  夕飯を作って、兄の様子を気にしながら、母の帰りを待つ――― それが、自分の いつもの 日常だ。

  同年代の 若者のように、夕飯を食べに行くとか、飲みに行く…… という 《付き合い》もなければ、あったとしても 参加する時間の余裕がないのが 現状だった。


  当然、家と 職場の 《行き帰り》だけでは、素敵な男性と 知り合うヒマすらない。

  恥ずかしい話ではあるが、この歳まで、異性との触れあいは 皆無だった。

  美人でもなければ、可愛くもないし、ましてや…… こんな、ひねくれた性格ときている。

  たとえ、出会いがあったとしても、男性の方が 避けていくような、そんな女なのだ。


  紗月お嬢様は、なぜか 自分のことを、ことのほか 気に入ってくれたようだが。

  誰かに 気に入られる 《要素》なんて持ち合わせていないから、理由は まったくもって ナゾである。

「私、もっと レンさんと お話してみたかったんです」

  恋する乙女のように、お嬢様は 輝いていた。


  淡い ラベンダー色のブラウスに、今日は ロングスカートをはいている。

  可愛いなぁ……。

  外見も 仕草も、連れて帰りたいような、そんな気にさせる女の子だ。

  自分の中からは、どこを 掘っても出てこない《可愛らしさ》というものは、無いからこそ 憧れるというわけで。


  内心、小さく ため息をついたところで、控えめに 葵さんが声をかけてくる。

「お疲れのところを、呼び立ててしまって 申し訳ありません。 ですが、ぜひ また 月城さんと お話がしたかったので、ご無礼を承知で、弟に 頼んでしまいました」


  おおっと、まさか 葵さんも、一枚 かんでいたのか!


「昨夜は フレンチでしたので、今夜は 和食をご用意してあります。 どうか、召し上がっていって下さい」

「は…… はい……」

  キラキラ王子とは 別の種類の、甘い 微笑みだ。


  うわぁ…… 何だろう、クラクラする。


  極上の男性というものは、ちょっとした 《微笑み》だけで、こんなにも 《威力》があるものなのか―――。

  眩暈のような 感覚をなんとか やり過ごして、返事を返すのが 精一杯だった。


「おー、なんだ、今日も来たのか」

「一ノ瀬さん…… 来た、というよりも、連れてこられたと言いましょうか」

「瑛汰の 仕業だね? 何か、変なことを されたりしなかった?」

「にっ…… 仁科さん!」


  ぎゃあ、出た! キラキラ王子!


「人聞きの悪いことを、言うなよ。 俺は、別に 《こんな女》なんか……」

「あ~、瑛くんてば、また ヒドイことを言ってるー」

「雅くんまで……」


  ほどなくして、昨夜のメンバーが、ぞくぞくと 部屋に集まってきた。


  『ほら、言った通りでしょう?』と、隣に座る 奈央の瞳が 言っているような気がして、思わず うなずいてしまう。


「ちょっと、今のなに、レンちゃん!」

「奈央と、アイコンタクトをとってた」

「僕を差し置いて、いつの間に~。 ズルイよ、奈央くん、紗月ちゃん、そこどいて!」

「いっ…… 嫌よ! 私が、今日はレンさんのお隣に座るんだから!」

「…… こら、お前たち! 月城さんが困っていらっしゃるだろう! 少しは 落ち着きというものを……」

「レンさん、こっちにおいで? お子様の隣では、騒がしいばかりだからね」

「ハルくん、すぐに レンちゃんに近付かないでよ!」

「お子様は 寝る時間だってよ、雅」

「智くんの バカ! あとで、味噌汁に ワサビ入れてやるから!」


  あまりの 騒々しさに、ぽかんとしていると。

  奈央が こっそりと、耳打ちしてくる。

「このメンバーだと、だいたい いつも こんな感じです」

「なんか…… すごいね」

「一番 マトモなのは、葵さんですから。 彼の隣に座った方が、静かに食事ができると思いますけど」

「えっ……」


  それは ―――。

  緊張してしまって、食べることができないと思われる。


  そんな思いが 顔に出てしまっていたのか。

  奈央は、また 小さく笑った。

「な…… 何?」

「いや…… 月城さんて―――」


  『可愛いんですね』、と。

 

  声にならない 唇の動きだけで そう言われているのだと、理解した瞬間に 顔が火照ってしまう。

「!」

  はっ…… 恥ずかしい、この人!

  照れもせずに、自然に 口にするなんて――― キラキラ王子だけではなかったのか。


  やはり、この場にいるということは、一般の 感覚からは かけ離れている人なのかもしれない。

  熱くなった頬を 気付かれないようにしながら。

  ディナーの準備が整えられたという 隣の部屋への 移動となった。


※ ※ ※


「…… 大丈夫ですか、月城さん?」

  すく近くで、誰かの ささやきが聞こえる。


「だい…… じょうぶ、です……」

  なんとか 答えてみるものの、たどたどしい口調から、大丈夫ではないことが 明白だった。


  えーと…… 私は、どうしたんだっけ?


  まぶたが ほとんど開かない状態で、でも すごく 心地よくて。

  起きなければ いけないのに、起きるのが もったいないと思ってしまうのは、何故なのか。


「…… 気分は、いかがですか?」


  気遣うような、優しい 声。

  知っているような、でも 初めて聞くような――― 耳をくすぐる、甘い低音。


  気持ちいい、という思いと。

  守られているような、安心感と。

  ユラユラと 揺られている中でも、ちっとも 怖くなくて、暖かくて。


「………」

  言葉を発するのも 億劫で、そのまま 黙ってしまうと、もう 何もわからなくなる。


「どうぞ、安心して おやすみ下さい」


  柔らかい 何かに包まれながら。


  そのまま、深い眠りへと落ちていってしまったのだ。


※ ※ ※


  翌朝、目覚めたときに。

  何故、自分は 自宅の布団に寝ているのだろう…… と、首をかしげた。


  はっきりいって、昨夜の ディナーの途中から、まったく記憶がない。


  和食の懐石料理を おいしく頂きながら、話題は アルコールの話へと発展して。

  まともに、アルコール類を 飲んだことがないと白状したら、飲んでみろ…… ということになってしまったのだ。


  和食なので、まずは それに合う 日本酒と、焼酎なのだろうか。

  飲んだことがないので、何が どう違うのかも 不明だ。

  周りが あまりにも 大盛り上がりなので、とりあえず 舐める程度、次々と 味見をしていった――― ことまでは、覚えている。


  その先は、どうした?

  帰ってきているからには、車で 送ってもらったのだろうが……。


  玄関からは、どうやって?

  酔っぱらった人が、記憶を失くすという体験を、初めて してしまったようだ。


  何か、とんでもない 《失態》を、したのではないだろうか。

  酔うと、人間 本来の 《自我》が出るという。

  何をしたのか、知るのも怖いが…… 知らないと、対処のしようがない。


  二日酔いというのか、若干 頭痛がする気もしたが、仕事が 休みになるはずもなく。

  支度をするために、自分の部屋から出て、母親の姿を探した。


  兄は、まだ 起きてはこないだろう。

  うつ病の多くは、朝が もっとも悪く、時間の経過とともに 落ち着いてくるという。

  寝ている姿だけを 確認して、台所へ向かうと―――。


  なぜか、そこに。

  いるはずのない 人物が、母と 並んで、立っているではないか。


「………」

  酔っ払い、すぎたのかな。

  まさか、そんな。


  こんな 質素な マンションの一室に、《その人》が いるわけがない。

  幻覚だ、幻視だ。

  …… マズイ、自分も 相当ストレスが溜まってきているらしい。

  早々に 解消しなければ、思わぬ 体調不良を 起こすかもしれない。


「とにかく、顔をあらって……」

  台所から、洗面所へと向きを変えたところに、声がかかった。


「おはようございます、月城さん。 お加減は いかがですか?」



  朝から、上等のスーツを 嫌味なく着こなして、髪の乱れも いっさい見られない、完璧な 姿。

「な…… なんで……」


  九条グループの、九条 葵。 間違えなく 本人が。

  とびきりの 笑顔で、こちらを 見ていたのである。

 アリスと同様、この話にも 《幕間》をつけることにしました。


 この話では、もっぱら 《彼 目線》と称して、六人の王子様から見た レンへの思いなどを 書く予定です。

 むしろ、そういう感じの方が、水乃にとっては 書きやすかったりして…。


 次回は、もしかしたら さっそく《幕間》が入るかもしれません。

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