(第4話) キラキラ王子 登場
《キラキラ王子》よりも、しっくりくる言葉がありましたら、ぜひ 水乃まで ご連絡下さい(笑)
「田嶋さんには 困ったものだけど……」
三歩半、離れていたはずなのに―――。
「君のような 《素敵な女性》と出会えたことは、感謝しなくちゃいけないね」
至近距離で、顔を見下ろされているのは、いったい何故なのか。
「…………」
驚きすぎて、二の句が継げない…… というのは、まさに 今のような状態を指すのだろう。
キラキラと 夜のイルミネーションでも背負っているかのような、眩しい笑顔。
グレー色のスーツを ぱりっと着こなし、いかにも 《仕事デキる》オーラを漂わせつつも、決して 冷たい印象は受けない。
ただ、一点。
その、歯の浮くような 《恥ずかしいセリフ》さえ、なければ―――。
「このまま お別れするなんて、僕には とてもできないよ。 この後 時間はあるかな?」
――― 君とは、もっと お近づきになりたいな。
「!!!」
低く ささやかれた声には、キラキラ以外の 《とんでもないモノ》が含まれていた。
危ない。 外見よりも、中身が 危険だ、この男。
先程 逃げ出した 《田嶋》の方が、よっぽど 小心者で可愛らしい。
「ああ、そんな露骨に イヤそうな顔をされると、悲しいな。 ……でも、そういう表情も 素敵だね」
「…… えーと、すみません、間に合ってます」
思考が 凍りつきかけたが、すんでのところで 我にかえる。
これは、アレだ。 新手の 《詐欺》だ。
我が家には、詐欺にくれてやる お金などない。
詐欺・仁科には とっとと背中を向けて、ようやく 震えていた若い女性に 話しかけた。
「あの…… 濡れているドレス、着替えられる場所、ある?」
田嶋の仕業だろう、シャンパンでも かけられた女性の 胸元は、しっとりと濡れている。
わざと かけておいて、着替えが必要だ――― と、ホテルの部屋に連れ込む狙いだったのか。
金持ちのくせに、考えることが セコイ。
とりあえず、ゆず子に用意してもらっていた 自分のショールを、彼女の肩にかけていると。
「部屋なら、彼女たち専用の 《プライベートルーム》があるよ。 君も一緒に どう?」
背後から 仁科が口をはさんできた。
まだ、いたのか、この男は。
一瞬 無視してやろうかと思ったが、聞き慣れない言葉に、うっかり 返事を返してしまう。
「……プライベートルーム?」
「そう、ここの ホテルは、彼女の 《お兄さん》の持ち物だしね」
「………… え?」
予想外の 爆弾発言に、仁科を振り返った。
顔は やはりイイが、どう見ても 胡散臭い。 けれど、ウソをついているようにも思えない。
おそるおそる、若い 女性を、もう一度 よく見てみる。
おそらく、自分よりは いくつか年下であろう。
白い肌、綺麗に巻かれた ツヤツヤとした髪。
着ているのは 桜色のバルーンドレスで、足元は ガラスの靴のような 光沢のあるパンプス、手首と首元には 本物のダイヤモンドが飾られている。
豪華な品々に埋め尽くされているのに、それを嫌味なく 着こなしているなんて。
《深窓の令嬢》。
そんな言葉が、彼女にはぴったりだった。
思わず立ち尽くしていると、彼女の 控えめな声がかかる。
「あの…… ぜひ、上の部屋まで 一緒に来て頂けないでしょうか?」
「えっ…… 私?」
何のために――― と 聞こうとした言葉は、ノドの奥へと 押し込まれた。
なんとお嬢様が、こちらの手首を きゅっと掴んで 放そうとはしなかったのである。
※ ※ ※
高級ホテル・クラウン東京。
二十五階よりも上は、特別キーが無いと エレベーターは動かない仕組みになっているらしい。
その最上階、特別室しかない フロアの、一番奥の部屋に。
自分が、いる。
これが 夢ではなくて、なんだというのだ。
しかも、この部屋に入ってから、およそ十五分が 経過していたのだが。
その間、キラキラ 王子・仁科の 勢いは、止まらないのだ。
「……ね? だから、今度 ぜひ、君と二人で 食事がしたいな」
「…………」
もう、ここまでくれば、いっそ 《あっぱれ》だ。
明らかに、こちらの 態度は 《ドン引き》だというのに、あきらめる気配さえない。
着替えに出ていった お嬢様と知り合いで、つまりは このホテルのオーナーとも知り合いということで、彼に対する 《詐欺の疑惑》は晴れたが、胡散臭いという印象は 変わらなかった。
もう少し、真面目そうで。 もう少し、落ち着いていて。 もう少し、このキラキラ攻撃が 無かったなら。
もしかしたら、自分も ぽーっとなっていたかもしれない。
どんなに 変な男であっても、顔の良さは 《最高ランク》なのだ。
テレビで見る 俳優やモデルなどよりも、よっぽど 整った顔立ちに、賢そうな瞳。
…… うん、黙っていれば、カッコイイ。
つまり、この種類の男性は、遠くから見ているだけで いいのだ。
間違っても、お近づきには なりたくない。
「あれ…… 誰か入ってきたね」
部屋の入口の方が、にわかに 騒がしくなる。
「あの声は……」
「えっ…… もしかして、レンちゃん!?」
パタンと、軽快に開いた リビングルームの扉から、聞いたことのある声がした。
「うそ、本当に レンちゃんだ!」
「み…… 雅くん?」
ぱあっと 花が咲いたような笑顔で、先程 パーティーで別れたはずの 美少年・雅が、駆け寄ってくる。
「嬉しい! もう帰っちゃったかと思ってたから、会えてよかった~」
「えーと…… 」
自分も、帰るつもりだったのに、どうして こんな場所にいるのだろう。
「…… てゆーか、ハルくん、何気に レンちゃんに近くない?」
雅は ぷうっと頬をふくらますと、仁科との間に 割り込んで座る。
「ハルくん、レンちゃんには 手を出さないでね。 レンちゃんは、僕が最初に見つけた 《お姫様》なんだからね!」
「おや、雅、おもしろいことを言うね。 出会いの 順番なんて、ロマンスには関係ないよ」
「…… ハルくん、その 《冗談》は、おもしろくないよ。 僕、笑えないな」
「もちろん、冗談ではないからね」
「…………」
――― 何なんだ、この 《やり取り》は。
アイドルばりの 美少年と、キラキラ王子が、自分のことを 《取り合って》バトルしている…… ようにも、聞こえなくもないが。
まさか、そんなことは あり得ない。
自分に、そこまで 《好意》をむけられるような、《魅力》なんて これっぽっちも無いのだ。
きっと、これは 彼らなりの、冗談であり、《言葉遊び》なのだろう。
金持ちというのは 退屈すぎて、わけのわからない 遊びをしてみたくなるのだ。
真に受けたら、いけない。
自分が、恥を かくだけだ―――。
なんともいえない気分の中。
バチバチと、静かに 火花が飛び散る 異様な空気を割って、新たな声が その場に加わる。
「久々に、 《おもしろい展開》に なっているじゃないの」
はっとして 顔を上げれば、また別の男性の 登場だった。
「…… 見かけない顔だけど、どちら様かな?」
「あ…… えぇと、私は―――」
どこから 説明すればいいのか。
一番 肝心の 《お嬢様》が不在なため、言葉を選んでいると。
男は、ふっと 笑う。
「…… たまには、こういう 《お子様》に 《お仕置き》するのも、イイかもなぁ……」
「……… は?」
言葉の意味を 理解する前に、男は すぐ目の前まで 迫ってきていたのである。
少し 冷めた感じの主人公を、甘い言葉で 誘惑する 《殿方》たちは、全部で 四人。
それに、本命となる紳士の、合計五人に囲まれた 《逆ハーレム状態》で、物語は 進行していく予定です。
荒波にも正面から立ち向かうような、そんな カッコイイ女の子が理想なので、主人公は いつも アクが強い性格へとなってしまうのですが。
それが 水乃の作品の特徴だと思って、この物語の レンも、可愛がって下さると嬉しいです。