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(第31話) 待ち伏せ

「うー ……」


  歩きにくい。

  …… ものすごく、歩きにくい。


  ゆず子に貸してもらったスカートをはいて出勤し、一時間も経たないうちに、早くも後悔していた。

  ゆず子に、まんまと 騙された。

  よくよく考えてみれば わかることだったのに、気付かなかった自分にも 落ち度はあるのだが。


  スタイル抜群で、足の長い 彼女の服 ――― 特に、パンツなんて、最初から 自分がはけるわけがないのに。

  『私のパンツが はけないんなら、このスカートしかないわよね~』

  してやったりと、満面の笑顔を向けられて、謀られたことを悟る。


  渡されたスカートは、確かに はけた。 …… というか、確実に ゆず子のサイズではなかった。

  つまり、自分に はかせようと、ゆず子が買ってあった、もの。


  落ち着いたブラックで、ピチピチではないが 程よくタイトなシルエット。

  長さは 若干長めで、ミニスカートでないのは救い ――― と思ったら、大間違いだ。


「くっ ……」

  左の太ももに入った、小さなスリット。

  大胆ではないからこそ、チラリと 時々 足が見える程度なのが、ことさら いやらしい。

  このせいで、朝から 電車内でも、ちらちらと視線を感じるし、会社のビルに到着してからも、見られているような感じがして、落ち着かない。


「おはよう、月城! …… あれ、今日は いつものパンツスタイルじゃなくて ―――」

「わーーん、遠藤さん、恥ずかしいから 見ないで下さいぃ!」


  同じ部署の先輩、遠藤の動きが、一瞬 止まる。


  恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!

  何が恥ずかしいかって、似合いもしないのに こんなデザインの服を身に着けていることが、恥ずかしくて たまらない。

  泣きたくなってきた。 …… 否、すでに、半泣きだ。

「うぅ ……」

「え、いや、その ……」

  ほんのりと、顔が染まったように見えるが、多分 気のせいだろう。

「えっと、月城 ――――」


  遠藤が、何かを言いかけたとき、豪快な笑い声とともに、背後から誰かが体当たりしてきた。


「なんだ、なんだ、お嬢ちゃん! 今日は また、えらく色っぽい恰好してくれてるじゃないか!」

「ひゃあっ」

「おぉ、真っ赤になっちまって、カワイイなぁ、お前さんは!」

「か、か、加納さん!」

「ん~、カワイコちゃんの そういう姿を拝めれば、男なんて ヤル気が漲ってくるってもんだ。 …… ん? どうした、遠藤?」

「どうしたも こうしたも ……」


  怒りを含んだ声で、遠藤は 加納を睨む。

「なんだ、お前さん? さては、お嬢ちゃんのスカート姿に、《反応》しちまって ――――」

「行こう、月城!」

「えっ、えっ」


  加納の言葉を遮って、急に 遠藤に手を取られ、そのまま引っ張られてしまう。

「あ、あの、遠藤さん??」

「まったく、あの人は、朝から下品なことばかり ……!」

「ちょっと、何してんの、遠藤! どさくさに紛れて、月城ちゃんと 手ぇつないでんじゃないわよ!」

「!」


  同じく、部署の先輩である 佐原の登場で、この おかしな状況に終止符が打たれることとなった。


※ ※ ※


「絶対に、二度と、スカートなんかはかない ……」

  と、いうより、ゆず子の用意した服を着なければいいだけの話なのだが。


  食堂でのランチタイム。

  女性社員のヒソヒソ声が、聞こえないはずがなく。

「はー ……」


  ああいう格好で、社長とかに 言い寄った、とか。

  利用した、とか。

  男性社員に 媚びを売っている、とか。


  何で、そこまで言われなければならないのだろう。


「月城ちゃん、こっちよ!」

  ランチのトレーを持ったまま、フラフラとしていると、先輩の佐原が 声をかけてくれる。

「先輩……」

「まったく、嫌よね。 ヒソヒソ、コソコソ。 言いたいことがあるなら、面と向かって言いに来いっていうのよね」

「はあ ……」


  確かにそうなのだが、「社長を利用した」と言われると、何も言い返せない。

  事実はどうあれ、結果、そうなのだから。

「私は、今日の月城ちゃんのスカート、イイと思うわ」

「それがですね ……」

  簡単に、ことの いきさつを説明した。


「え、じゃあ、お友達から?」

「そうなんです ……」

「いい友達じゃない。 可愛い服着て、青春を謳歌しなさいって、言ってるのよ」

「そういうの、自分の ガラじゃないんで ……」

「ま、勿体ない! 少なくとも、今日の 月城ちゃんのイメチェンで、グラっときた男子がいたはずよ? ほら …… 遠藤とかね」

「…… 遠藤、さん? …… 何故?」


  突拍子もない発言に、心から きょとんとしてしまう。

「あら、やだ、この子ったら!」

「?」

「なるほどね、その 《お友達》の気持ちが、わかったわ ……」

「だから …… 何が、ですか?」

「んもう、ここまで鈍いなんて、どうしたらいいの?」

「え?」

「月城ちゃんてば …… あなた、もしかして ――――」


  そうやって気付かなかったせいで、逃してきた 《恋愛》が、山ほどあるんじゃない?


  イタズラっぽく 微笑まれるが、言葉の意味が、まったく 理解できなかった。


※ ※ ※


  だって。

  だって。


  昔も、今も、自分は カワイクなんてないし、男の人から アプローチされるなんてことは ―――。


  『もっと、僕を ―――――― 《意識》して?』


  ふいに、先日 仁科に言われた言葉が、頭をよぎる。

「……!」


  ちがう。 ちがう。

  あれは、からかっただけ。

  本気なんかじゃない。

  だって、相手は、あの キラキラ王子、仁科なのだ。


  『あんまり、僕を 煽らないで ……?』

  『フライングじゃ、すまなくなっても …… いいの?』


  絡めとられるような、雅の声も、蘇る。


  待って、違う。

  違う、ちがう、チガウ ……!


  勘違いなんて、してはダメ。

  そんなはず、ないんだから。


  知らず、頬に熱が集まるのを、必死に防ごうとした。

  何も知らない、お子様だから、からかわれているだけ。

  今どき、初チューも まだだなんて、珍しいから。


  ゆず子との、頬にちゅーは、数えきれないほど あるけれど。

  異性との触れ合いなんて、この年齢になっても、皆無だった。


  だめ、勘違いしては、だめ。

  後悔するのは、自分なのだから。

  ちがう、ちがう、あんなのは ―――


「ねえ …… 何が、違うの?」


  甘い声に、腰が抜けそうになる。

「!?」


  振り返るまでもなく、それが知っている声だと すぐに気付く。

  気付いた時には ――― すでに、遅かった。

「ふふ …… 学習力無いなぁ、レンちゃんてば」


  クスクスと、小さく笑いながら、あっという間に ビルの隙間に連れ込まてしまった。

「ね、僕が 《待ち伏せ》しているって、思わなかったの? 少しも?」

「え …… あ ……」


  目の前にいるのは、間違えなく 雅なのに。


「僕のこと、まだ 理解してないのかな~。 これでも、けっこう積極的に、レンちゃんに アタックしていたつもりなんだけど」

「えっと、あの ……」


  可愛いと、確かに 幾度となく言われた気がする。

  スキンシップが 一番多かったのも、単に甘えているだけだと思い込もうとしていた。


  それが、違うとしたら?

  自分の、思い違いだとしたら?

「ね …… レンちゃんのペースに合わせて、ゆっくり、可愛らしい 僕を演じようと思っていたんだけど、それって ―――」

  僕の、《作戦ミス》だったのかな?


「ね、どう思う、レンちゃん?」

「あ、あの ……」

  至近距離で ささやかれて、どうしていいか わからなかった。


「今日は、こんなセクシーな スカートはいてるし ……会社内で、レンちゃんのこと、見てた人 多いんじゃないの?」

「これは …… ちが ……」

  自分で、進んで着た服ではない。

「こ、これは、ゆずちゃん、が ……」


  どうしてだろう。

  説明したいのに、うまく 言葉がしゃべれない。

「ゆず子さんが、何?」


  耳元に、雅の唇が寄せられる。

「んっ!」

  ちゅっと、派手な音が響いて、耳にキスされたのだと気付く。


「や ……」

「可愛い反応。 ほんと、レンちゃんてば …… 僕のこと、どんどん夢中にさせて ―――」


  ………… どうする気?


「!」


  甘く、どこか ほの暗い、掠れた声。

  冗談で、済まされる領域では、ない気がする。

「あ、あ …… み、雅く ……」


  こんな風に、誰かに迫られたのは、実は 初めてで。

  驚きと、衝撃と、まさかという思いと。

  恥ずかしさと、わけのわからない 《何か》が、ないまぜになって。


  振りほどけない。

  体が、まったく 動かせない。


「ね、レンちゃん …… 僕、もっと可愛い顔、見たいな」

「!」


  見つめられて、ますます 動けなくなっていく。

  心臓が、ウルサイくらいに鳴っているのも、自分では どうにもできない。

「や、だめ ……」

「ね、もっと、僕に見せて ―――」


  確実に、近づいてくる、色気のある 唇。


  嫌なのか、何なのかも わからない状況の中、ぎゅっと目を閉じるしか ――――


「…… その辺で、やめろ」


  ふいに、力強い腕に引っ張られ、雅から解放されたことを知る。

「…… 泣かせるなんて、何 考えてんだ」

  頭上から、声が降ってきた。


  自分は、どうしてしまったのだろう。

  今、もしかして、泣いている?


  自覚した瞬間、体に震えが走った。

「ふ …… ふえ ……」

  溢れ出した涙を、自分の胸で、受け止めてくれている、その人は ――――。


「後から出てきて、何のつもり、トモ君?」

「…… ふざけるのも、たいがいにしろよ。 こいつは、俺が 連れて帰るからな」


  声とは 裏腹に、優しく 抱きしめてくれている人は。

  なんと。



  一番、真逆の位置にいそうな ――――― 一之瀬だったのである。

 今夜は、大サービス、連続更新!


 次回は、もう少し お待ちくださいね。

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