(第30話) 興味があるか ないか
王子様集団六人と、女子三名。
自分を含めて、総勢九名の一行は、結局 どこへ移動しても 《注目も的》だった。
「うわ~ …… 何だよ、すげぇビショビショじゃねーか」
午後一番のメイン、夏限定の「水撒きショー」の後のこと。
当然、誰もが 大量の水をかぶり、濡れネズミ状態になっているのだが ―――。
「…… 何これ。 何なの、この 《不公平》さは?」
水も滴るイイ男 ――― 言葉ではよく表現を耳にするが、実際 そんな状態の 《いい男》など目にしたことなどなく。
過剰表現だとばかり思っていたのだが。
「すごいわね~、さ・す・が。 色気、倍増?」
ニヤニヤと笑うゆず子の言葉は、間違ってはいなかった。
濡れた王子様集団。
…… ある意味、歩く 《公害》といっても過言ではない。
身支度を整えようと、着替えを取りに移動していたのだが、すれ違う人、人、人。
すべてが、振り返っていくではないか。
女性たちは、当然 目がハートだし、その連れである 男たちは、悔しそうに睨んでいたり、または憧れの眼差しで見ていたりと、様々なのだが。
現役モデルと、その仲間たち。
破壊力は、半端ではない。
「…… 面倒くさ……」
どこにいても、何をしても、目立つなんて。
面倒以外、なにものでもない。
思わずポロリと本音をこぼしたところに、すかさず ゆず子の 《お仕置き》が飛んできた。
「こ~ら、レン?」
「ぎゃっ」
苦手である耳や首元に、フッと息を吹きかけられて、身体がゾワゾワする。
「な、何すんの、まったく ……」
「まったく、なんて それはこっちのセリフよ! あの集団見て、何とも思わないの?」
「……… 何が?」
面倒だ、以外に?
「そうよ! 素敵~ とか、ポーっとなったりしない?」
「………… ?」
「ダメだわ、この子 ……」
がっくりと 肩を落とし、ダメ出しをしてくるが、それに関しては 強く抗議したい。
「お言葉ですが、ゆずちゃん? あの集団を相手に、私なんかが どうこうできる 《立場》だと思う?」
「もう、あんたってば……、また そんな消極的なこと言って。 ここまで 興味を示されていて、何も 反応が無いレンの方が、ある意味 《異常》だわ」
「……… それは ……」
だって。 そんなの。
「どうすればいいのか ――― なんて、難しいことを言っているんじゃないの。 ね、本当に、彼らを見て、何も感じない?」
「……………」
長年の友人は、やはり 意地悪だ。
見過ごして、何も無かったように 通り過ぎてしまいたいことを、容赦なく 突き付けてくる。
「…… そんなわけ、ないじゃん」
その、逆だ。
相手が 凄すぎて、余計に近寄れない気分になってしまう。
友人程度でも 気が重いのに、ましてや、ロマンス的な要素なんて ―――。
「私には ―――」
「ストップ! その言葉、禁止って言ったでしょう?」
「だって ……」
「《だって》も、今後 禁止!」
「横暴~」
「何とでも言いなさい。 とにかく、すぐに 《自分には向かない》とか言って、逃げるのが 悪いクセよ?」
「うー ……」
「ね、冗談は抜きにして」
―――――― 誰が、一番 ドキドキする?
「…………」
ゆず子の質問には、答えられなかった。
誰が、なんて。
免疫のない自分にとって、彼ら全員が、キラキラと輝いて見えるのだから。
※ ※ ※
「レンの奴、寝てんのか?」
「ごめんなさい、この子、本当に 《お子様》だから……」
「し、仕方ないから、俺が隣を代わってやってもいいぞ」
「おい、瑛汰。 どさくさに紛れて、ちゃっかり 《おいしい主張》してんじゃね~よ」
一日、閉演時間まで めいいっぱい遊び倒して、帰路についている途中。
ゆず子とレンは、九条家の車に 乗せてもらっていた。
乗車しているのは、葵、瑛汰、一ノ瀬の三人。
なかなか 《刺激的》な組み合わせだと、ゆず子は 内心ワクワクしていた。
「まったく、無防備な顔しやがって …… 襲うぞ、コラ」
「やめないか、智也」
「…… そんなこと言いつつ、実際レンに触れてるのが多いのは、実は 葵さんだろ?」
「!」
車内で、静かに火花が散る。
「俺たちから守るフリをして、自分のテリトリーに入れようとしてんのバレバレだっつーの」
「…… 何が、言いたい?」
一触即発の雰囲気に、ゆず子は興奮した。
やって! やるなら、もっと、徹底的に!
「――――― 隠すなよ」
「何 …… ?」
「隠すなんて、らしくないぜ。 カッコつけて、余裕ぶってないで、ちゃんと 《参戦》したら?」
この、どうしようもなく 幼い、未確定な 《恋のレース》に。
「ハルさんの 尊敬するところは、あの人 いつだって、ハッキリ主張するところだよ。 欲しいものは、欲しい。 今回だって、一番初めに、動き出しただろ?」
自分を知り、また よく理解しているからこそ。
「雅だって、そうだ。 もうすでに、奴の中じゃ、これからの 《計画》つーもんが、しっかりでき上がってる。 だから、帰国した。 違うか?」
アメリカでの 自分のすべきこと ――― 学生としての 《役割》をこなし終えて、きちんと日本に戻って来ている。
「葵さんは、どうしたいんだ? あんた、言っていることと やっていることが、中途半端だぜ?」
「…………」
「レンを そばに置きたいから、家に連れってった? 自分の会社に就職させた? でも、結果を見てみろよ。 全部、レンに 《逃げられてる》だろ?」
関係は、まったく 変化が無い。
無いどころか、かえって距離を取ろうとされている。
「智也、…… 俺に 何が言いたい?」
「別に、深い意味はねーよ。 ただ …… 今後も、その程度でいいなら」
―――――― 悪いけど、手を引いてくれ。
「…… は?」
「レンに、これ以上 《関わるな》って、言ってんだよ」
「!」
「!」
一ノ瀬の、いつになく強い口調は、ゆず子だけでなく 瑛汰をも驚かせた。
「な ……」
「智也? お前、…………」
「ガラじゃないって、笑うか? いいぜ、笑いたきゃ、笑えよ」
本気になれそうだと ―――― 否、すでに 心は動き出してしまっていると、悟ったから。
「知っての通り、俺は 心を扱う 《医者》でもあるからな。 気づいていて、これ以上 自分を 《偽る》ことはしないってことさ」
不敵に 《宣戦布告》をすると、一ノ瀬は車から降りて行った。
残されたのは、何も知らないレンと、興奮を隠せない ゆず子。
そして、何を考えているのかわからない 葵に、オロオロする瑛汰。
面白くなってきたじゃない! いいわ、これよ! この展開よ!
「あ、マンションまで着いたようですね。 今日は ありがとうございました!」
「白石さん、あの ……」
「ご心配なさらなくても、さっきの事、レンには 黙ってます。 こういう事は、直接、ご本人の口から聞いた方が、ロマンチックですからね」
意味ありげに ウインクして、ゆず子はレンに触れた。
「さて …… っと。 レン? レ~ン?」
「む~」
「私のマンション着いたってば。 起きなさ~い」
「白石さん、せっかくですので、無理に起こさずに ――――」
「……… このまま、屋敷に 連れ帰りたいと、思ってます?」
「!」
ゆず子は、笑顔のまま、葵の懐に 斬りこんだ。
「私、は ………」
「ごめんなさい、言い方が 意地悪でしたね? でも、私、さっきの一ノ瀬さんの意見に、賛成です」
――――――― 本気じゃないなら、関わらないで。
「!」
「!」
静かだが、有無を言わせぬ強烈なオーラに、葵と瑛汰は 一瞬 息をのむ。
これは、誰だ?
本当に、白石 ゆず子なのか、と。
「ふふっ。 驚かせちゃったかしら? 失礼しました。 これでも、レンは 私の大事なコなので」
遊びで関わっていい、女の子ではない。
そんな いい加減な気持ちなら、二度と 目の前に現れないでほしい。
「この子、とっても ウブなんです。 だから、変な男に引っかからないように、私がいつも 見張ってるんです」
「白石さん、貴方は ……」
「早く、レンには 《王子様》が現れてくれないかって …… ずっと、待ってるんですよ」
誰もが羨む、美しい笑みを残し、ゆず子は レンを抱えて車から すっと降りた。
「…… あ、れ?」
「レン? 今日は、私のマンションで お泊まりよ」
「う…… ん ……」
半分 夢の中状態のレン程、無防備で 男心を煽るものはないと思う。
「おやすみなさい、二人とも」
甘ったるい表情の レンの顔を隠すように、ゆず子は 急いでマンションのエントランスに移動した。
「はあ ………… それにしても、ふふっ」
さて、一ノ瀬に ああまで言われて、あの 《王様》はどうするかしら?
「ゆず、ちゃん ……?」
「何でもないわ。 とりあえず …… 《種》は全部蒔いてきたしね」
「?」
あとは、芽吹くのを 待つのみ。
彼らは、はたして どういう植物に成長してくれるのか。
「…… 楽しみだわ」
「何が ……?」
「いいのよ、あんたは 細かい事なんか気にしないで。 あんたは、自分が 《愛される》ことだけ、考えてなさい」
「なに、それ …… ?」
眠気と疲れに、目が トロンとしている、最愛の 娘。
「あー あー。 あんたって、ほんと、も~」
こんな顔を見せられたら、誰だって 勘違いしてしまうだろう。
男なら、なおのこと。
「そういう 無防備なカワイイ顔、簡単に見せちゃだめよ?」
「だから、なに …… ひゃあっ!」
頬に口づけを落として、ゆず子は 玄関の扉の、暗証番号を押した。
「も、もう、いつも言ってるけど、ゆずちゃん、だから、ちゅーは …… っ!」
「はいはい、近所迷惑だから、早く 部屋に入って」
ぐいっと引き寄せても、レンは抵抗しない。
抵抗できないように、昔から 躾けてきたといっても過言ではない。
長い、長い時間をかけて。
「さ、明日は 仕事でしょ? とりあえず、家には連絡入れてあるから、大丈夫。 明日は、私の服貸してあげるから、それ着て出勤なさい」
「えー …… ゆずちゃんの服、セクシー過ぎるから、嫌 ……」
「ああそう、そんな事言う子には、超 過激なスカートはかせようかしら? それとも、透けそうなブラウスがいい?」
「会社行くのに、無理に決まってるでしょ!」
――― 早く、レンにも 幸せな恋が、訪れればいい。
自分のように、不毛で、苦しさを伴うものなんて …… 彼女にはさせたくない。
ゆず子は、ただ ひたすら、それだけを考えながら 眠りにつくのであった。
お待たせいたしました。
久しぶりの更新で、前回の話をお忘れの方も多いかと思いますが。
お待たせしていた お詫びも込めて、今回は 少しラブに加速をつける為の、下準備の意味も込めたシーンとなっております。
次回から、次々と 本格的に攻めてくる 王子様を相手に、恋愛初心者の主人公は、どう立ち向かうのか。 これからも お見逃しなく!




