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(第24話) 夏の暑さは 恋の予感?

  《夏休み どうするの?》なんて。

  こんなに多くの人 ――― しかも、男性ばかりに尋ねられる日が、まさか自分にこようとは ……。


  梅雨明け宣言が出たばかりの、八月を目前にした、ある日のことである。


※ ※ ※


「え?」

「え、じゃないわよ。 もー、レンってば、相変わらず ニブイんだから」


  昼休み、携帯に電話をかけてきたのは、友人のゆず子だった。

  いつもなら、たとえ 昼休みの時間であれ、仕事中はかけてこないのに。

「何かあったの?」

「…… レン? 今が何月か、わかってる?」

「何月って …… 七月でしょ。 来週には 八月になるね」

「はー ……」

  いきなり電話をしてきて、ため息をつくとは、どういうことなのか。

「わっかんないよ、何?」

「いい? 今の時期、世間的には 《夏》と呼ぶのよ?」

 

  それは そうだろう。

  南半球なら、冬にあたるのだろうけど。

「ごめん …… ゆずちゃん、まったく話が見えてこないんだけど?」

「もー! 夏といえば、何よ?」


  …… ここにきて、連想ゲームか?

  ただ 一人の友人は、いつもながら わかりにくい。

「何って …… ただ、暑いだけじゃん」

「わかってないわ! ぜーんぜん、わかってないわ!」


  社内食堂で きっちりと、絶品ランチを取ったため、昼休みは あと五分だった。

  わけもわからず 説教されるヒマは無い。

「…… 用が無いなら、電話 切るよ?」

「待ちなさい! あんた、夏休みどうするのよ!?」

「夏休みって ―――――― またその質問?」


  この一週間、ずっと その単語ばかりで、辟易していた。

  携帯に入ってくる、《ある連中》からの 《メール》の数々。

  問われても、何て返せばいいのか わからなくて、困っていたというのに。


「何よ レン。 王子様集団から、何か お誘いがあったのね!?」

「お誘いっていうか ……」

  確かに、世間一般でいえば、あれは れっきとした 《お誘い》になるのだろうが …… なんといっても、相手が 相手だ。

  本気ではなく、からかわれている ――― と思ってしまうのは、仕方がないことといえよう。

「だってさぁ ……」

  どんなに 贔屓目に見ても、容姿も 性格も 家柄も、どちらかといえば 若干 《問題アリ》。

  それが自分に対しての、正当な 《評価》であると自覚している。


  反対に、あの集団はといえば、容姿も 家柄も 職業も 文句なし ――― 誰もが羨むセレブなのだ。

  性格には 問題アリ …… なのが、複数名いるとは思うが、誰かは あえて名前は出すまい。

「からかわれているのは、間違えないと思うし …… 真面目に考えて、真面目に 返事を返したら、バカみたいじゃない? …… 恥ずかしいもん」

「あのねぇ …… 何で あんたは、そう悲観的なのよ? もっと自信を持ちなさいって、いつも言ってるでしょ?」

「自信なんか …… あるわけないよ」

「もぉ …… じゃあ、何てメールがきたのか、教えなさい。 それで、本当に 《からかって》いるのか、私が判断してあげるから!」

「えー ……」

  あの メールを、口に出して 報告しろというのか …… どうやら、墓穴を掘ったようだと気付くが、ゆず子が 逃がしてくれるはずもない。 



 《夏休みは いつから? 僕とデートして? ねっ》 …… ストレートだが どこか可愛らしいのは、雅である。


  《休みが決まったら、連絡しろ。 特別に 可愛がってやる》…… 一方的というより、強制的なのは、一ノ瀬しかいない。 しかも、可愛がるではなく、明らかに 《イジメてやる》の間違いだろう。 SMプレイが お好みならば、他へいってほしい。


  《いつもと違う君が 見たいな》…… どういう意味かと 勘ぐりたくなる文章は、もちろん仁科。 何から 何まで、怪しすぎる。 普通の言葉なのに、やらしい。


  《休みがあるなら、合わせてやってもいい。 連絡しろ》…… オレ様口調なのは、瑛汰だ。 多忙のモデルが、この時期に休みが取れるのかと、逆に こちらが聞きたい。


  《涼しいところに 行きませんか》…… とは、もらってビックリ、奈央である。 あのセレブ 六人衆の中では、今のところ 一番話しやすく、仲良くなれたと感じてはいたが …… まさか 彼からこんなメールを頂くとは、正直 想像もしていなかったわけで。



「きゃー、レンってば、何で私に 報告しなかったのよぉ! それで、それで!?」

「それでって …… それだけ」

  こちとら、この会社に就職したばかりの、新人社員なのだ。

  入ったばかりで、《夏休みは いつ取れますか》なんて聞けるほど、図々しくはない。


「ばかねぇ、休みは 当然の権利なんだから、堂々と 誰かに聞きなさいよ。 だいたい、《室長》は 紗月ちゃんなんだから、一番 聞きやすいじゃない」

「あー …… それは逆に、《危険》を冒すと思って」


  今や 自分の上司となった 紗月お嬢様は、仕事中は 若干抑えているものの、仕事を離れると 超がつくほどの《ハイテンション》に早変わり ――― 男性陣を差し置いて、今のところ 彼女が一番の 《強敵》と化していたのだ。


  あの 可愛らしい瞳で、見つめながら 《お願い》とか言われると、どうしても 断りにくくなる。

  別に、彼女のことが 嫌いなのではない。

  可愛くて、素直で、慕ってくれることは、間違えなく嬉しい。

  けれど、物事には 限度と、それなりの 《速度》というものがある。


  出会ってから すぐに、あのような 《勢い》でぶつかってこられても、どうしていいのか 正直わからない。

  押しの強い相手は、昔から 苦手なのだ。 それは男性に限らず、女性であっても。


「いいじゃないの、ああいう子は 貴重よ? 必死で 可愛いじゃない」

「そうなんだけどさぁ ……」


  見てしまった …… というより、本人から 直接見せられて 発覚したのだが。

  彼女の スケジュール帳には、この夏に 《行きたい場所》が、びっしりと書きこまれており。


  そのすべてが、《レンさんと ◯◯へ》とか、《レンさんと △△へ》となっていたのである。

「紗月ちゃんに 夏休みの話題を出したら最後、私の夏は 全部もっていかれるような気がしてね ……」


  あの 大量の 《お出かけ予定》を 片っ端から実行しそうな、そんな行動力があることを、すでに知っている。

  彼女は、九条の血を引き、あの 葵の妹なのだ。

  人見知りが強い分、気に入った相手には イノシシのように猛進 ――― 意外に お嬢様は 《タフ》だったのだ。

「ゆずちゃんになら、イヤとか 行きたくないとか言えるけど …… 紗月ちゃんを目の前にしたら、断れる自信、無いもん」


  かといって、自分は基本的に、休日は 《家でのんびりしたい派》だ。

  間違っても、クソ暑い中を 人ごみの中に突撃 ――― なんて、したくはない。 多分、死ぬ。


「もー、ピチピチの乙女が、なに枯れたことを言ってるのよ! 強制的に、海に連れていくわよ?」

「……… 水に入るのは 好きだけど、水着を着るのが ヤダ」

「ふふふふ …… そう言われると、余計に 水着を買いに行きたくなるわ~」

「行かない。 やだからね、海は!」


  まったく、ゆず子の 脳内は、いったいどうなっているのだろう。

「可愛いレンが、可愛い ビキニとか着たら、きっと みんな大騒ぎするのにー」

「…… ビキニは着ません。 却下」

「あれ …… そういえば、葵さんからは 何もきてないの? みんなが誘ってくるのに、あの人が 黙っているわけないわよね?」

「…………」

「レン?」


  それは ――― もちろん。

  群を抜いて、スゴイのを 頂きましたとも。

「…… ごめん、もう休憩 終わるから、またね」

「もー、仕事終わったら 電話しなさいよ~?」

「はい はい」


  ピッと 電話を切って、携帯をバッグにしまう。

「……… はぁ」


  何を考えているのか わからないのは、ゆず子だけではなかった。

  せっかく、先日、ほんの少し。

  近づけたような気がしていたのに。

「…… さっぱり、わかんない」


  葵からは、メールではなく、直接 電話がかかってきた。

  しかも、その内容というのが ――――。


  《ブレゲンツ音楽祭に 行きませんか?》


  …… どこだ、それは。 とりあえず、外国だろう。 日本ではない。

  映画を見に行こう ――― のような、デートのお誘いとは、レベルが違う。


「ほんと …… 何 考えているんだろう、あの人」


  見知らぬ外国の街を 一緒に旅するほど、自分たちは まだ、親しくはない。

  よかったら、母や兄も 一緒に …… なんて、どんな 《家族旅行》だ。 恐ろしい。


「月城~、午後のミーティング始めるって」

「はーい、今 行きます!」


  自分が 配属されたのは、《第三企画室》という部署だ。

  シーズンによって 《お題》が出され、それについて 様々なアイディアを出し合い、検討し、《報告会議》に発表する。 そして、他の 企画室と争う ――― というのが、主な内容だった。


  一応、紗月お嬢様の 《秘書》という肩書なので、彼女が出席する 《室長会議》のために、スケジュールを調整したり、資料を作ったりもするらしいが、それは 追々とのことで。

  今はただ、他のメンバーと一緒に企画を考え、予算を立て、請負が可能な業者を探す ――― という活動で 必死だったのだ。


「この企画だと、予算がキツイよね~」

「経理の 浜田課長、ウルサイしね~」


  企画として 会議に持っていくためは、最低限 実行が可能だと、認められるような状況でなければならない。

  きちんと予算を立て、それを 経理部に見てもらい、許可をもらえないと 何も始まらないのだ。


  今、企画室に出されているのは、秋から冬にかけての、新たな 《名物づくり》が課題だった。

  催しものでもいいし、店舗を立ち上げてもいいし、旅行などのプランでもいい。

  九条グループが 関われそうなモノなら、何でも可。

  つまり、範囲は とてつもなく広い。


「やっぱり寒くなる時期は、《デートスポット》をテーマに絞り込んだ方が、考えやすいかもねー」

  入社 九年目、自称 《愛の狩人》 ――― 《渡瀬 亨》が、芝居がかった仕草で、机の上に腰掛ける。


「渡瀬さーん、いちいち 机の上に乗っかるの、やめてください。 月城が 呆れてますよ?」

  冷たく ツッコミを入れる 《遠藤 誠》だが、そこで こちらの名前を出すとは いかがなものか。


「何を言うか、遠藤くん。 月城ちゃんは 優しいから、そんなことはしないさ…… そうだろう、ハニー?」

「………」

  大先輩に 文句を言うわけにもいかず、とりあえず 目をそらしておく。

  こういう 軽いノリさえなければ、彼は 素晴らしい先輩なのだが。


「デートスポットねぇ ……」

  この室内で、唯一の既婚者 《佐原 まり》は、難しい顔をした。

「景気回復と騒がれているとはいえ、依然として 若者層は 貧困で、ピーピーいってるじゃない。 それよりも、ある程度 金銭に余裕がありそうな、中高年を狙った方が ―――」


  第三企画室は、自分を入れて、全部で六人だった。


  室長の、紗月。 既婚者で 働くママの星・佐原。 軽いノリの 渡瀬。 渡瀬と同期の 《清水 裕司》。 そして、自分より 一歳上の 遠藤。

  彼らは、この企画室に わざわざ抜擢された優秀な人材ばかりで、ふざけた会話をしながらでも、着々と 仕事はこなす ――― 見習うべき点は、数多い。


「月城ちゃんは、どう? デートスポットと考えたら、君なら どこに行きたい?」

「渡瀬さーん、それって、プライベートを聞いてんじゃないでしょうね」

「心外だな …… 企画を考えるのに、まずは 《自分がしたい》と思うことを挙げるのは、基本だろう?」

「どう見ても、今のは 怪しいけどな」

「おい 清水まで、何を言うか! 聞きましたか、室長! この室内において、この 愛の狩人・渡瀬、周囲からの圧力を受けております!」

「どこが 圧力なんだか …… 鬱陶しいから、放っておきましょ」

  佐原の バッサリとした言葉を 聞きながら、自分の中で、考えてみる。


  デートをするなら、自分だったら どこに行きたいのか ――― なんて。


  そんなこと、簡単に わかるわけないではないか。

  だいたい、今まで まともにデートなんかしたことはないし、男性と出かけたのは 仁科に拉致された一回きり。 そもそも アレをデートとして カウントしていいのかも微妙なのだ。


  何だか、どんよりと 気が重いのは、暑さのせいばかりではないらしい。

「デートか ……」


※ ※ ※


  もやもやと、スッキリしない気分のまま、会社のビルを 後にする。

「…… 正直、デートって言われても、よく わからない ……」


  恋人か、恋人前提の 二人が、同じ時間を共有し、楽しい 思い出を作る ――― デートの意味は、おそらく そういうものであろう。

  経験が無くても、素敵な人と、ラブラブの時間を過ごしたい …… と、世の乙女なら 当たり前に考えるところなのだろうが。

「想像すら できないなんて …… 終わってるわ」


  映画、遊園地、水族館、ショッピング、旅行 ――― 選択肢なんて 十人十色。 人の数だけ デートプランもあるというのに、ちっとも ピンとこない。

  経験値ゼロが 影響しているわけではなくて、むしろ 自分自身が 《問題アリ》だから、今みたいに ――――



「 ――――― レンちゃんは、ちっとも 問題ないよ」

「え?」


  優しい声とともに、ふわりと 何かが落ちてきた。

  柔らかくて、あたたかい、包み込まれるような 感覚。


「本当に レンちゃんてば ……… 《可愛い》」

  ―――― あんまり、僕を 煽らないで?


  吐息まじりの ささやきに、思考は 一瞬で停止してしまう。


※ ※ ※


  月城 レン、二十九歳。


  抱き締められていると 気付いたのは、それからずっと、後のことだった。

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