(第2話) 気のりしない パーティーで
最初の イケメンは、可愛い 《年下クン》でございます。
…… 気まずい。
ものすごく、帰りたい。
何だか、ちらちらと 視線を感じるし、どうにも こうにも、居場所の無さに いたたまれなくなってくる。
※ ※ ※
あのカフェを出てから、タクシーで ゆず子に連れていかれた場所は、ホテル近くの メイクルーム・スタジオだった。
反論する隙を 与えられずに、ゆず子の指示で、数人のスタッフに 取り押さえられ……。
一時間後。
鏡の前には、メイクをバッチリ 施され、髪も セットされた姿だけが映っていて。
「じゃあ、仕上げは この ドレスを着て、完成ね!」
着替えのブースに ドレスごと放りこまれては、もう 逃げ出すことはできない。
覚悟を 決めて、用意されたドレスに 袖を通していくしかないではないか。
さすが、セレブな ゆず子が選んだだけのことはあった。
生地は 肌を滑るように なめらかで、光沢も綺麗だ。
ごてごてと 飾りつけはない、シンプルな ワンピース型のドレスは、裾のドレープの優雅さが いっそう際立っている。
「きゃ~ レン、似合うわ、素敵よ!」
ブースを出るなり、ゆず子に抱きつかれるが…… 正直、自分では 似合っているとは思えなかった。
「なんて顔を してるのよ? 今のレンなら、ハリウッド女優にだって 負けてないわよ!」
「……いやいや、思いっきり 負けてるよ。 1ラウンドで KO負けだよ……」
「も~、もっと 自信を持ちなさいってば! ほんとに可愛いし、キレイなんだからー」
盛り上がっている ゆず子には悪いが、何度 鏡を見ても、とても そうは思えない。
「まぁ、いいわ。 この姿で パーティーに出れば、きっと みんなの視線は 釘付けよ!」
「…… 場違いな 女が来たぞ~ …… って、思われるだけじゃないの?」
パーティーなどの 華やかな場所に、自分の存在など 浮いてしまうはずだ。
場馴れしている ゆず子とは、全然 ちがうのだから。
「レンの おバカさん。 だったら、私が 予言してあげる! …… あんたは、今日のパーティーで、必ず 素敵な 《王子様》との出会いがあるわ。 絶対よ!」
――― なんてったって、あの 《九条グループ》のパーティーなんだから。
意味深な 言葉を残して、そこで ゆず子とは 別れることになる。
※ ※ ※
メイクスタジオから さほど遠くない、ホテル・クラウン東京。
誰もが知る 《九条グループ》が経営している、高級ホテルの代名詞とも呼べる場所だ。
各界の著名人をはじめ、各国のセレブ達が利用することで名高い、そんな ホテルのパーティーに。
代理とはいえ、まさか 自分が出席することになるなんて…… ドッキリでも 仕掛けられているのではないかと、疑ってしまう。
とりあえず、入口の係の人に 招待状と、代理で来たことを伝えて、おそるおそる 会場に足を踏み入れたのが、三十分前だ。
パーティーは、午後 二時半から およそ三時間の予定だと ゆず子からは聞いていた。
本来なら、主催者に 挨拶をするべきなのだろうが ――― 事前に、ゆず子の方から 主催者に伝えてあるらしく、挨拶は パスしていいとのことだった。
正直、それは ありがたい。
初対面の、しかも こんなパーティーを開いてしまうような セレブ相手に、挨拶だけとはいえ、話しかけるのは かなりの勇気が必要だった。
とにかく、ゆず子の 代理として、出席だけなら 無事にクリアできそうだ。
あとは、とにかく 隅っこの方に隠れて、時間が過ぎるのを ひたすら待つ――― その 戦法しか、思いつかない。
「はぁ……」
カフェで 紅茶を飲んだきり、昼ごはんを食べ損ねてしまった。
しかし、立食形式のパーティーとはいえ、食べ物を取りに行くなんて、そんな度胸も 無い。
じっと、耐えて 待つことなら、得意だ。
こういう時は、アレ しかない。
目と 耳と、周りの感覚 すべてをシャットダウンし、《空想》に浸ること。
昔から、空想というか、妄想するのが大好きな子供だった。
大人になった 今では、それの延長として、ネット上の 《投稿サイト》に登録をして、趣味で 《小説》なるものを掲載している。
別に、特別 文才があるわけでもなく、博識なわけでもないが…… ただ、書くという行為じたいが好きで、物語を 書いている時に 得られる 《高揚感》が、たまらなく好きで。
好きだから、続けられていて、好きだから 楽しめて。
無料で そんな活動ができるのだから、良い 世の中になったと思う。
顔が見えない ネットの世界では、時には 酷評されたり、心ない言葉や 嫌がらせなどが 存在することは確かだが。
一般人でしかない 自分が書いた 物語に対して、見ず知らずの 人から、『おもしろかったよ』と 言ってもらえることもある。
先入観なしに、純粋に 《娯楽》として 扱われた結果の、嬉しいご褒美。
文法的に 間違っていたり、言葉の使い回しが 未熟でも、誰かに 読んでもらえて、少しでも 《楽しい》と感じてもらえる…… それは、お金にはかえられない 素晴らしい体験といえた。
だから、やめられない。
現在進行中の、物語の続きを つらつらと考えて――― そのために、自分に対して 誰かが 声をかけていることに、ちっとも気が付かなかった。
すっと。
目の前に、シャンパンの入った グラスが差し出される。
「…… え?」
ようやく 我に返り、グラスの向こう側に見える人物を、見て。
うわぁ……
第一 印象は、そんな感じだった。
「キレイな おねーさん? シャンパンは いかがですか?」
にっこりと 笑う顔は、まだ幼い。 どうみても、高校生だ。
「あ…… ごめんなさい、私 アルコールは……」
飲めない――― ではなく、正確には 飲んだことがない、だけなのだが。
飲んだことが ないからこそ、気軽に 口にするのは ためらわれた。
「あ、そうなの? じゃあ、こっちのジュースなら 飲める?」
手に乗せていた 銀のトレイから、別のグラスを取って 差し出されたので、反射的に 受け取ってしまっていた。
「グレープフルーツだよ。 飲めそう?」
気遣わしげに 小首をかしげる姿は、乙女の自分よりも 格段に可愛らしい。
目の前に 現れた 高校生とおぼしき少年は。
アイドルも 泣いて逃げ出すような、《美少年》であった。
ウエイターの制服なのか、白いシャツに黒のベストを着て、なかなか サマになっている。
「あのね、僕 今日はバイトしてるんだ。 雅っていうんだよ。 …… おねーさんの名前、聞いてもいい?」
さっきまでの、可愛らしさは どこへやら。
飲みかけていたジュースを 思わず 吹き出してしまいそうな、《妖艶な 笑顔》がとび出てくる。
「退屈していたんでしょ? だったら、僕と お話しない?」
人懐っこく、けれど 猫のように するりと隣に入り込んでくる、自然な 身のこなし方。
ドキドキすると いうよりも。
最近の 高校生は、マセてるんだから…… と。
そう 思ってしまう、悲しい 二十九歳であった。
主人公の生い立ち、背景、その他の 周囲の状況などを、話の中に織り交ぜて展開していきます。
登場人物の 《人間くささ》が 文章からにじみ出るような、そんな 物語を書くことが目標です。
次回は、年下クンの 危険な一面が!? 2番目に登場するイケメンにも ご注目下さい。