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(幕間) 高遠 雅の 帰国物語

「どうしたの、ミヤビ? 何だか ずいぶん ご機嫌だね?」

「日本に戻っていた間に、何か イイことでもあったのかしら?」

「そんなに笑顔のミヤビは、久しぶりだな!」



  アメリカ 某大学のキャンパスで、すれ違うたびに 声をかけられる。


  そう、――― 高遠(たかとお) (みやび)は、生徒数が多い大学でだって、有名人なのだ。


※ ※ ※


「ミヤビ! この間の ハーマン教授の 《論文》、見たよ!」

「滞っていた研究を、劇的に 進ませたって…… 俺たちの間では、その話題で 持ちきりさ!」

「それなのに ――― 共同研究者の 君の名前が、なぜ 論文に載っていないんだ?」

「まさか、教授が 独り占めしようとして……」

「あー …… 大丈夫、そうじゃないから」


  興奮気味に 詰め寄ってくる友人たちを 手で制しながら、ニコッと笑う。


「関わったのは 確かだけど、僕の名前は 載せないで下さいって、僕が 教授に 《お願い》したんだよ」

「なぜ!?」

「どちらかといば、今回の成果は ほとんど 君のチカラが大きいのに!」

「ここで名が広まれば、君は 研究者としても この世界で有名に……」

「―――― そうなりたくないから、だよ」


  自分は、研究者になりたくて、この大学に来たわけではない。


  医学や 薬学の知識を学び、最先端の治療や 新薬の研究・開発で有名な 学校だということは、わかっている。

  将来、多くの患者を救いたい、救えるような 薬を開発したい ――― そんな立派な志をもって、入学してきた仲間には 悪いが、自分は 別に、そんなことには興味は無いのだ。


  ただ、単に。

  退屈だったからだ。

  世の中の、すべてに。


  つまらなくて、くだらなくて、唯一 少しくらいは 自分を楽しませてくれるもの ――― それが、数学や 化学であり。

  まるで、子供が パズル遊びに夢中になるような感覚で、《難問》を解くことが楽しかっただけだ。

  他の人が 頭を悩ませる数式や 化学式を 組み立てて、答えを導き出す。

  ただ、楽しかったから、与えられるままに、難問を解いてきた。

  そして、気が付けば ――― 飛び級までして、この大学に流れ着いた。


  たった、それだけ。

  自分にとっては、解けるだけで いい。

  面倒な 論文作成や、研究発表など、はっきり言って どうでもいい。


  この大学にだって、いつまでいるかは 決めていないのだ。

  解く価値のある 問題が無くなれば、ここにいる 意味もない。


  自分にとっての 大学なんて、所詮は その程度のものでしかないのだ。


「ミヤビは、いつでも クールね」

「クールっていうのかなぁ ……」


  冷めているの、間違えだろう。

  かっこよくもないし、イカしてもいない。

  突っ張っているわけでも、反抗しているわけでもない。

  これが、《素》の状態。 自分の 本性。


  物心つく頃には、すでに 《今の性格》ができ上がっていたのだから、変えることは難しいだろう。


「この間 休んでいた分は、どうなった?」

「あー、アレはね、レポート出したら チャラにしてくれたよ」

「げー、教授も甘いよな~」

「仕方ないさ。 ミヤビは 教授たちに人気があるし、なんたって 実力もあるし」



  ほんの少し 研究を手伝ったり、さぼった授業は 代わりにレポートを出す。

  それだけで、教授たちは 簡単に 《単位》をくれる。

  おかげで、卒業までに とらなければいけない 単位数は、もう すでに 獲得していた。


  これなら、この先 大学に行かなくなっても、《卒業》という証は手にできるだろう。

  この先の 大学院や、系列の 研究所などには、まったく興味がないのだ。


  このあたりが、潮時か …… と、最近 思い始めたところで 出会った、運命の人。



「僕さ~ …… 《お姫様》を 見つけちゃったんだよね~」


  凛とした雰囲気は、他者を いっさい受け付けないかのごとく、頑なな印象を与えているのに。

  実際に 声をかけてみると、そのイメージは ガラリと変わる。


  持って生まれた性格なのか、あとから身に付けたものなのか。

  話 上手で、聞き 上手。

  表情を くるくると変えながら、こちらが 話しやすい雰囲気に、自然と 導いてくれる人。


  媚びてくる人や、ひたすら 聞くだけの人には、もう ウンザリだった。

  きちんと 《自分の考え》を持っていて、それでいて 相手の話にも 興味を示してくれる。

  もっと、話していたい。 もっと、聞いてほしい。


  キラキラと輝く瞳が、ずっと こちらを見てくれればいいのに ―――。

  そう思った瞬間に、ストンと落ちた。


  あぁ、そうか。

  この感情が、いわゆる、《恋に 落ちた》というものなのか。


「なんだ、ミヤビ? さては…… イイ人でも見つけたのか?」

「えっへへ~」


  恋に落ちたというのに、少しも 嫌な気はしない。

  むしろ、それが 偶然ではなく 必然のような気がした。

  自分たちは、出会うべくして 出会った。

  恋を、するために。


「なんだよ~、どこの 誰だ? アメリカ人か? 日本人か?」

「えー …… それは、内緒。 だって、まだ僕の 《片思い》だもん」

「やーね、ミヤビ! あなた、告白してないの?」

「僕はね、奥ゆかしいんです~」


  …… なんて、今まで 散々 遊びまくっていながら、よく言えたものだ。

  我ながら、呆れる。

  そして、くだらない 《色ごと》で 退屈を紛らわせていた 《以前の自分》を、殴ってやりたい。


「彼女はねー …… とってもウブで、キレイな人なんだ~」


  見ただけで わかる、彼女は 絶対に、男慣れしていない。

  年齢は 自分より 十歳も上だけど、誓っていい、彼女は 《ヴァージン》だ。


  今まで 自分が相手にしてきた 女性たちも、初めは みんなが そうだったはずなのに。

  甘い言葉で ささやくだけで、あっさりと 誘いに乗り、簡単に 《純潔》を散らす。

  こちらに、愛が 無いことくらい、わかっていそうなのに…… 一夜をともに過ごすだけで、愚かにも 勘違いをする。


  そんな、軽くて 薄っぺらい 《愛》なんて、欲しくはないのだ。

  欲しいのは、彼女のような人だけ。

  さがして、さがして、やっと見つけた 《お姫様》。


  彼女なら、カラダの関係がなくても、きっと 退屈しないだろう。

  賭けてもいい。


  一晩中 ―――― それこそ、話をするだけでも、自分は 幸せを感じられる、と。


「今度は ずいぶんと、プラトニックな関係を望んでいるんだな?」

「失礼な …… 僕は 本来、《純情少年》なんですー」


  甘い誘いに 乗らなかった、初めての女性。

  ぺちんと 軽く叩かれたときに、心は 射抜かれていたに違いない。


  もっと、彼女のことが 知りたい。

  もっと、自分のことを 知ってほしい。

  もっと もっと、隣に座って 話をしたい。


「実はね、また しばらくは、日本に戻るんだ」

「戻る? じゃあ 大学は?」

「うーん、今のところ 単位に心配はないから、来なくても平気かなーって」


  今は、難問を 解いている場合ではなくなったのだ。

  やっと見つけた お姫様を、みすみす 逃してはならない。


「オオカミさんが いっぱい周りにいるから …… 早く戻らないと、お姫様が食べられちゃうんだ」

  そんなこと、許さない。

  彼女を 食べるのは ―――― 自分だ。


「ミヤビ…… 何か 企んでいるのか?」

「えー …… 違うよ。 ちょっと先の、未来のことを考えててね」  


  話すだけで いいとは言ったものの。

  異性の肌を 覚えたカラダは、《おしゃべり》だけでは いずれ物足りなくなるだろう。

  あんなに 可愛い お姫様なら、その先を、きっと もっと欲しくなる。


「だって、僕だって …… 《男の子》だし?」



  驚き 呆れる 友人たちに 別れを告げて、大学の敷地を 後にした。

  準備は、整った。

  あとは 飛行機に乗って、日本に帰るだけ。


「レンちゃん …… どういう顔するかな?」


  この恋は、まだ始まったばかり。

  まずは、彼女に 《ひとりの男》として、意識してもらうことからスタートしなければいけない。


  焦らず、ゆっくり、弟のような 《可愛さ》を 最大限に利用して、近くをキープして。

  すべては、それから。

  美味しく いただくのは ――― もっと、ずっと先のこと。


「それまで…… 本当に 僕、《我慢》できるかなぁ……」


  十代の 少年というものは、とかく 《コントロール》が難しい。

  暴走しないように、気を付けねば。


※ ※ ※ 


  空港に向かう タクシーに揺られながら、さっそく携帯でメールを入れる。


  『レンちゃんへ

   僕は 今、日本に向かう飛行機に乗るために、空港へ向かっています

   お仕事で 忙しいかもしれないけど

   日本に帰ったら、僕と 遊んでください


   正直に 言うと…

   僕と、デートしてください


   可愛い 弟の ミヤビより』



「…… ふふふっ」


  自分の 《武器》は、把握している。

  使えるものなら、有効活用しなければ、もったいない。


  おそらく、身近なライバルたちは、権力やら 財力などを利用して、すでに動き出しているだろう。

  年下という理由だけで、遅れを取るわけにはいかないのだ。


「待っててね……」


  ぎゅっと抱きついたときの、あの 柔らかな肌の感触。

  ふわっと香る、フレグランス以外の 彼女の香り。


  思い出すだけで、脳がチリチリと 焦げてしまいそうだ。


「あぁ…… 早く、食べたいなぁ……… おっと、違った」

  つい、うっかりと 本音が漏れてしまったが、慌てて 訂正する。


「早く、会いたいなぁ……」




  どこに行こうか、何をしようか、デートプランなら いくらでも思いつくが。

  その前に。

「再会の ハグくらいは、ゆるしてくれるよね?」


※ ※ ※


  虎視眈々と 狙う 少年オオカミは。


  愛らしい容姿に似合わない 《舌なめずり》をしながら、搭乗案内のアナウンスを待つのであった。   

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