表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スピンメモリーズ  作者: 陽向妃夏
第1章
4/4

第3話 亜人―demihuman―

今まで書き溜めしていたストックに不備があった為、急遽訂正するべくギリギリで書き上げた次第です…(苦笑)

修正など大幅に更新するかもしれませんが読んで頂けたら幸いです。

商業都市アリアスザ。

そこは太陽が沈み始めている夕刻であるにも拘らず様々な人々で賑わっていた。

その名の通りと言えばいいだろうか。食物、本、武器、魔具などの様々な露店が開かれている。

だが露店で競売をしているのは街の商人よりも冒険家達が多く見受けられる。


「到着一番乗りーっ!!」


元気良く都市の入口で声を上げたのはセシリアだ。

それに続いて商隊の皆が正門をくぐる。


「本当、どっからそんな元気が沸いて出たんだお前は…」


金髪の青年、レインはそんな彼女の様子を見てぐったりとした顔でぼそぼそと呟く。

それもそのはず…正門前にてラクダを厩舎に預けた後から彼がその重い荷を背負っているからである。


だが、彼女はそんな彼を相手にせず、辺りをきょろきょろと見回す。どうやら初めて訪れる場所に対する好奇心でテンションが上がりきっているようだ。


「うっわ、あれなんだろう!?これはこれは?」

「くっそ…こいつ……後で覚えとけ……」


ぶつぶつと小声で恨みを募らせる彼を尻目に目の前の露店に立ち並ぶ、数ある装飾品のうちの一つを手に取り珍しそうに眺める。それはキラキラと紫色に輝く透明な石のブレスレットの様で、彼女の生まれ育ったカルティナ領ではあまり見かけない代物であった。


「おや、お嬢さんお目が高い!それは紫水晶のブレスレットでして……値段はなんと"グレオン銀貨"2枚ですよ!」


ここの店主と思わしき丸々とした体形の猪の亜人が商談用のとびっきりの笑顔で話しかけてくる……が、ふとセシリア達の出で立ちを目にすると、すぐにやってしまったという顔に変わる。


「……きゃあぁぁぁっ!?」


それもそのはず、彼女が自らの姿を指差し唐突に悲鳴を上げたのだから。


(肌の色、服装を見るに少し北にあるグレシオーネの人間達か…?やはりこの姿形では商売なんてとてもじゃないが無理、か…)


店主は俯き無念そうに目を閉じた。

グレシオーネでは人以外の種族の権利は保証されない。亜人も例外ではなく、人で或って人で非ず…その獣と人を掛け合わせた特徴的な風貌の為に虐げられる。

グレシオーネ建国時からの亜人難民が南方のアリアスザに多く流れてきていた為か、この場所でこそあまり気にせずとも生活は出来るが、別地方から集まる人間を相手にすると…こうなる。

客を一番に、そういう考えの下に動いてはいるが、毎度毎度このように驚かれるといくらなんでも自信がなくなってくる…



と次に続くセシリアの言葉を聞くまでは思っていた。


「すっごーい!?かっこいい!かわいい!それなんて装飾品なの!?」

「…………はい?」


彼女の口から出た違う意味での悲鳴に素っ頓狂な声で返事をしてしまう。


セシリアは亜人という物を一度も見たことがなかった。その為なのか、なんなのか……そのもふもふとした動物特有の毛皮に、厳つい牙のついた猪の頭。彼女はそれを珍しい装飾品の一つと勘違いしたらしい。


「お、お嬢さん、これは装飾品じゃなくてですね、生まれつきこういう顔なんでして……」

「えー?どういうこと??」


「……アドヴィスさん、彼は"亜人"だよ」


店主が説明しても中々頭の上からハテナマークが消えない彼女にエイブラハムが一言にまとめて伝える。

その表情は、やれやれ…と子供の面倒を見る大人の浮かべる苦笑であった。


「え!?本物!?すっごい!おじさん触っても良い!?」

「こらこら……」


満面の笑みを浮かべて店主の方に手を伸ばそうとするセシリア。それを失礼になるからやめなさいと諌めるエイブラハム。


「ぷっ……くっ…あっはっはっはっは!!」


そんな彼らの様子を見て店主が大声を上げて笑い出す。

くだらない事で悩んでいた、そう思うと笑いがこみあげてくるのだ。


「うん?どうしたの店主さん」

「いや、ね。なんだか急に可笑しくなってきましてね……あぁ、苦しい……こんなに笑ったのは久しぶりですよ。このお礼と言っちゃなんですが、先ほど見てらしたブレスレットを差し上げますよ」

「???」


急に笑い出し、揚句の果てには自分の気に入っていたブレスレットをプレゼントしてくれるという彼を見て不思議そうに首をかしげるセシリアだったが、その理由を彼女が察することは今もこれからも到底無理であろう。


「あら本当?よくわかんないけどありがとうね、猪のおじさん!」

「いえいえ、こちらこそですよ!毎度ありがとうございました!」


彼女は嬉しそうにそれを受け取ると、手に着け嬉しそうな笑顔で礼を述べる。対して店主も頭を下げ、と何やらおかしな状況であった。


「ふぃー…セシリーの嬢ちゃん、楽しんでる所てか話の途中で割り込むようで悪いんだが散策は明日にしねえか?俺はとりあえず今晩泊まる宿を探したいんだけどな…」


大きくため息を付くと面倒臭そうに先に進むことを促したキリク。言われてみると赤かった空には月が少し顔を覗かせていた。


「あ!そうだったね、もう暗くなりはじめてるし…」

「いいや、違いますぜ。あれを見てみてくだせえ……」


ふと訂正するような口調で顎先で後ろに視線をやるように促す。

そこに目をやると……ずっと重い荷物を持っていたのであろう、今にも死にそうな顔でぶつぶつと呪いのような言葉をつぶやくレインの姿があった。


「…………そうね、行きましょうか。おじさんまたねー!」

「おめえさん、ずっと忘れてたろ……ひっでえ奴だ」


直ぐに目の前を向くと先頭を切って駆け出すセシリア。それを追うようにのんびりと歩く大人二人……そしてそれにふらふらとついてくるのは金髪の酷くやつれた顔をした青年であった。




「セシリア……後でぶっ潰す……!!」


亜人:ムソロディア大陸には様々な種の亜人がいると考えられている。亜人という言葉はグレシオーネ人が他の人型種族の人間を指す時に良く使う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ