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スピンメモリーズ  作者: 陽向妃夏
第1章
3/4

第2話 商隊―caravan―

時間に余裕が出来たので結構なペースでストックが・・・!

と言うわけで連日で投稿させて頂きます。

少女、セシリアは砂を蹴って黙々と前へ歩く。この過酷な環境の中、余計な体力を割かない為だ。

先刻の自分が恨めしい――と言うのも、照り返す太陽の真下にある砂漠の上にも関わらず、調子に乗って走り回ったことを後悔している最中と言ったらわかりやすいであろうか。


「よーし!皆、そろそろ休憩するぞ!」


一番前を行く短い黒髪に褐色肌の大男【エイブラハム】が後ろを振り返ると良く通る大声でそう伝えた。

エイブラハム、彼こそはこの商隊の隊長である。セシリアを含む構成員三人も彼の指示一つで水場や旅程、緊急時にはその指揮の下に統一行動を取ることを要求されるのである。


「ふー、これだけ進めば暗くなる前にはアリアスザに着くだろう」


エイブラハムが荷を乗せたラクダを繋ぐと、よっこいしょとその場に腰を下ろすと、彼を中心に次々と他の構成員達が続いて腰を下ろす。


「そういやよお、そろそろ気にならねえか?」


にへらにへらと悪巧みするような笑いを浮かべながらこう口にしたのは黒い長髪のお調子者、キリクだ。

近衛兵三番隊の隊長を務めるエイブラハム、賞金首を次々と瞬く間に捕え富と名声を得た若き剣豪レイン、今や国内で一番二番を争う魔導師であろう天才少女セシリア…グレシオーネ王の招集した、この場にいる国内髄一の手練れ四人の中で一番謎を抱えたのは他でもない彼だった。


「はぁ…またお前悪巧みしてるだろ?いったいなにが、だ?」


エイブラハムがまたか、とため息をつきながら疑問を浮かべる。と言うのも、彼が直ぐに暇を持て余して騒ぎを起こすのはこの道中で何度も目にしたからだ。


*


セシリアがギルバート卿から命を受けたその二日後のこと。


ここはカルティナ領、風車の街ネスカ。この辺りは風が強く、昔から風車による小麦の製粉業で栄えを見せている。数十年も前からこの街の中央広場に高く聳え立つ風車は飾りやモニュメントではなく、今も立派に稼働していた。


太陽が暮れ、あたりが夜へと静まり返った約束の時間通りに、セシリアは集合場所であるその風車の下へと足を進める。

風車の下に近付くと、男性二人が佇んでいるのが見える。どう見ても人に厳しそうな大男とどこか仏頂面の青年の二人組であった。この時間のネスカの街にはあまり人気が無く、彼らがこれから会う予定の二人であるのは間違いないだろう。


「もしかして、君がアドヴィスさんかい?私はエイブラハム、よろしく頼むよ」


傍に近付くと、こちらに気付いた大男の方から笑顔で声をかけて来る。その声は優しく棘のないもので、失礼ながらも人は見かけだけでは判断できないなと彼女は思った。


「はい、よろしくお願いします!私がセシリア・アドヴ…」


先日の時と同様、またも変な所で言葉を止めてしまうが今回は舌を噛んだわけではなかった。

というのも金髪の青年が突然大きな声で遮ったからだ。


「お前が噂の魔導師!?まだこんなガキじゃないか!?」


彼はかなり驚いた様子で声を上げると平然とした顔でボロボロ痛い所を突いてくる。

初対面のはずなのに、とんでもない言い草にセシリアはむっとしつつ切り返す。


「はぁ…いきなりなんなのよ貴方は?」

「ふん、俺の名はレイン・トラスト。人は見かけによらないってこったな?」

「なんですって!?あんただって偉そうに言うほどの歳には見えないけど?」


などと売り言葉に買い言葉の応酬にため息を吐きつつも止めに入るのはエイブラハムであった。


「はぁ…二人とも、好い加減にしなさい。私達はこれからしばらくを共にする仲間じゃないか?少しは仲良くしてくれないと、困るな?」


頭に血が上っている二人が優しい静止の声に文句を付けようと彼の方へ目を向けるが、恐ろしく怖い…そうとてつもない怒りを浮かべた顔をした彼に見降ろされているのに気付く。


あ、この人は怒らせたら駄目な人だ――直感的にだが、そう思った二人であった。


「「はい…」」


「よろしい!わかってくれる君たち二人は利口な子だと思ってたよ!キリクもそう思うだろ…ってあれ?キリクはどこに…?」


二人の返事に満足げに再び優しそうな笑顔に戻ると、この場にいない男の名前を口にした。

その言葉にセシリアは、待ち合わせていたのが四人だと言うことを思い出した。だが、この場には一人足りていない。と言うより彼女がここに来た時点では既にレインとエイブラハムの二人しかいなかった。


三人がはて、と首を傾げていると…この時間のネスカには珍しく、何やら目の前の街角に数人の人だかりが出来ていることに気付く。

なにかあったのだろうかとその近くへと足を進めると、黒く長い髪をした猫背の男が中心でナイフを五本程を使って器用にジャグリングをしているのが目についた。どうやらこの路上で大道芸を披露しているらしい。


「へぇ…やるなぁ……!」

「あれって指切ったりしないの!?」


周りの人だかりに混ざってセシリアとレインまでもやんややんやと騒ぎ立てるが、エイブラハムは穏やかではなかった。


「おい、キリク!?何をしてるんだ!」

「あ、隊長。何って見ればわかるでしょう、ジャグリングでさぁ」


あ、この人がキリクなんだ…。

セシリアの彼へのイメージが決まった瞬間である。


「そういうことを聞いてるんじゃない…もう予定の時間からだいぶ過ぎている。遊んでる暇なんてない、さっさと来い!」


怒ったエイブラハムの様子を見ると、へいへいと面倒臭そうに懐へとナイフをしまうと、のんびりと合流する。


「はぁ…先が思いやられる。まあ全員が揃ったところで旅程を簡単に説明させてもらうぞ」


エイブラハムを中心に今回の旅程や意向等を詳しく話し合うと、程なくしてネスカを後にした一行であった



*


あはは、と苦笑しながらそれを見るセシリアであったが彼女も他と同様、嫌な予感しかしないのであった。


「一体…俺たちは…何を運んでいるんだろうかねぇ?なんて考えてたら夜も眠れず水も喉を通りませんぜ…」

「…………」


先ほどあんなにがぶがぶと水を飲んでいたのに何を…とツッコミを入れたくなる気持ちを抑え沈黙を貫く。だが、確かにそれはセシリアも気になっていたところだ。

普通…と言うより従来グレシオーネからアリアスザへ荷を運ぶ際は、騎士団や各ギルドから人員が手配されるはずである。エイブラハムはともかく、今回の様にいくら国内屈指とはいえ王の直属に置かれてない者達が招集され、荷を運ぶというのは聞いたことがないほど稀有なケースであった。


ごくりと唾を呑みこむ音が周りに聞こえてしまうのではないかと思うほどの沈黙がしばらく続くと、隊長であるエイブラハムが再び立ち上がりラクダを繋いだ縄を引き始める。


「…さて、そろそろ行くか?あまり長く休憩を取っていると宿を決める間もなく暗くなってしまうぞ?」


「へへへ、そうですねぇ。行きやしょうや?」

「まあそうだな、詳しく考えていても始まらんしな」


それを合図としたかのようにキリクとレインも続いて重そうに腰を上げると歩き始める。少し表情が浮かばれないのは答えが得られずもやもやとしているからだろうか。


「やっと柔らかなベッドの上で、風に吹かれることなく寝られるのね…これ以上野宿は勘弁だからね…」


セシリアは今までの過酷だった旅路を思い出しながらも立ち上がると、もうすぐゴールが見えると気を引き締め直して再び足を進める。

だが、この時の彼女にはわかっていなかった。




行路があれば帰路も同じ苦労を味合わなければいけないという事を……。

近衛兵隊:グレシオーネ王の直属に配備されている。三番隊まであり、騎士団の中でも極めて優秀な者が配属される。


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