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異世界情調紀行<凍結>  作者:
風の国編-はじまりの村
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ギルドデビュー

 自分でも、声が上ずってしまったのが分かる。


(これじゃあまるで、ゴマすりをしてくる調子のいい輩じゃないか……)


 調子がいいと言えば、高校時代を思い出す。


 俺は2年生になるにあたり、委員会では後輩の面倒をみるようになった。そのうちの一人のM君。彼はお調子者のキャラで、鏡とすれ違うたびに、そのワックスでチリチリの前髪をかき上げてドヤ顔をしていた。調子のいい奴だったが、なんだかんだで懐いてくれて可愛い後輩だった。


(今頃あいつも受験生か……。どうしてるんだろ)

 

 そう、俺は必死に現実逃避をしていた。


 なぜかって? さっきから長椅子に座る強面のお兄さん達がガンを飛ばしてきてるからだよ。受付のお嬢さんまでダンゴムシを見つけてしまったような顔をしているんだもの。

 

 憧れのギルドデビューに失敗した俺は、さわやかに踵を返す。きっとさぞかし涼しい賢者の顔をしていたことだろう。すたすたとギルドを出ようと思った、その時である。


「ああん? なんだ新入りか? 何処行くんだよ。待てよ」


 ああ……。これが絡まれるってことだよな。


 駅でたむろしてるしてる不良の方達にも一度だって絡まれたことがないのに。そうか、こうなるってわかってたから、わざわざガルクスさんは警告してくれたんだな。


 だが時すでに遅し。こんなに血の気のない涼しい顔でも絡まれるんだもの。こりゃもうだめだ。


「あ、はい。新入りなんです。この村に初めて伺いまして、僕もハンターに興味がわいたと言うか。ハンターってすごく格好いいですよね。僕もその、そうだ、ガルクスさんみたいになれたいいな~、なんて」


 どうみても格好のオモチャを見つけたような顔が、「ガルクス」という言葉を聞いた途端、マガオになった。


 数秒程、沈黙が続く。


「お前、ガルクスさんを知ってんのか?」


 強面のお兄さんの一人がすっとぼけたような顔をして俺にたずねる。


「はい。えっと、ガルクスさんには魔物で襲われそうになった時に助けてもらいました。命の恩人です。ガルクスさんがいなければ僕は今頃死んでました。そればかりか、家の隣の住居まで提供してもらって。感謝してもしきれないです」

「そうだったのか。お前もガルクスさんに救われたのか……」


 なぜか男がしみじみとした顔になる。


 お前「も」って、この人もガルクスさんに何かしてもらったのだろうか。

 

 そこで救世主が現る。先ほど俺をダンゴムシを見るような眼で見つめていたお嬢さんが、朗らかな営業スマイルで俺に話しかけてきた。


「こんにちは。ハンター希望の方ですか? どうぞこちらにおいでください」


***


 ああ、そうだ。俺はハンターとか魔法について知りたくてここに来たんだ。特に後者は是非とも詳しく知りたいんだ。


「まだハンターになるかどうかは決めていないのですが、ハンターや魔法について詳しく教えていただけませんか?」

「はい、もちろんいいですよ。異国の方ですよね? ささ、こちらにどうぞ!」


 そう言うと、片手を優雅に前方の受付テーブルに向ける。さすが受付の娘なだけあって機転がきくらしい。


 お兄さん達に解放されたからか、はたまた魔法について詳しく知ることができるからなのか、俺はスタスタとテーブルへと向かった。

 

 受付テーブルは遠くから見たときよりも背が高かった。黒檀をふんだんに使っているようで、落ち着いた暗色で黒光りしている。


「ハンター希望の方はこちらの用紙に登録していただきます。ここと、こことここですね」


 そう嬉しそうに説明すると、紙のようなものを差し出してきた。いや、紙ではなく、光沢のある薄い鉄板のようだ。下になぜか切り取り線が施されている。上から「お名前・出身地・備考」とある。もちろんローマ字表記である。


「あのー、ハンターに興味はあるのですが、実はまだ決めかねていまして。詳しくハンターの事情などについて聞かせてもらえませんか?」


 さっき言ったと思ったんだけどなあ。


「これは失礼しました。事情と言いますと、えっとー、どの辺からお話すればよろしいでしょうか?」


 あ、そうか。俺が異国の人だって思ってるから、その辺あいまいなのか。


「僕は異国の小さな村から来たもので、ハンターの方達は見たことすらなかったんです。この村に来てハンターの方と出会ったんですが、それが初めてでした。話によると、ハンターは全部で10ランクなんですよね? 技量に応じて魔物も狩ったりだとか。その辺からお願いできますか?」


 ハンターも勿論興味があるが、どちらかと言うと魔法の方が興味ある。それはこの後に聞こう。


「そうですね、ハンターは全部で10ランクの等級があります。上からS、A+、A、B+、B、C+、C、D、E、Fの順です。登録していただいたハンターさんは、原則一番下のFランクからの出発となります。ただし、登録する前にCランク以上の働きをした場合、新しく登録する際はDランクからの出発もできます」


 更に説明は続く。


「C+、Cランクの方は一人前のハンターと認知され、B+、Bランクはかなり手練の方です。今この村にいらっしゃるガルクスさんがそうですね。A+、Aランクともなると、その道の達人級の方達がひしめいています。非公式な話ですが、A+ランクの方ともなると、各国も動向は把握しているようです。そして最後のSランクですが、これは名誉ランクとしても側面もあります。ギルドは毎年1回はCランク以上のハンターの方々に、緊急を要する依頼達成の協力を乞う招集をかけます。その召集において、A+の方で、格別な働きをした場合にSランクを授与します。現在4カ国の中で7人しかいませんか、その実力はすさまじいものです。特権もいくつか与えられています」


 なるほど、10ランクもあるとどう表すのかちょっと疑問だったが、+を使うのか。やはりガルクスさんは手練か。


「ハンターのお仕事の内容ですけど、主に危険・凶暴生物・害獣の討伐、魔物の討伐、あとは採集委託の引き受けなどですね。危険地への物資の輸送なんていうのもあります。あちらの依頼掲示板で把握することができます」


 それにつられて向かって右を見ると、紙が乱雑にクリップかなにかで留められている。あの紙にそれぞれの依頼の概要が書いてあるのだろうか。採集依頼の仕事だけ引き受ければあまり危険は無いのかもしれない。


「詳しい説明をありがとうございました。凄く興味深いですが、もうちょっと考えてみることにします。またその時はよろしくお願いします」


 まだこんなことになったばかりだもんな。しばらくはガルクスさんのところでお世話になって、それからにしよう。


「はい。そのときは気楽にいらっしゃってくださいね」


 胃のあたりにチクリときた。


 さっき入ったときはどうみても気楽じゃなかったもんな……。いや、皆まで言うまい。


 そう思ってカウンターに背を向ける。


 無骨なドアから足を踏み出すと、本命の魔法について聞くのを忘れたことに気が付く。


(まあいっか。ガルクスさんも魔法が使えるんだし、いつかハンター登録するときに聞けばいいや)

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