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異世界情調紀行<凍結>  作者:
風の国編-はじまりの村
4/46

スラハ村の散策

 食事を終え、先ほどの村人さん達に会釈して店を出る。


(うっ、暑い……)


 石造りの店の中はひんやりとしていたから、来たときよりも日差しが強く感じられる。


「さてと、腹ごしらえもしたし、早速行くか?」

「え、何処へですか?」

「決まってるだろ、俺ん家だ。脇のあばら家に住むんだろ? 必要なものもあるし早い方がいいだろ」


 そうだった。親切なガルクスさんが、俺の住むところを提供してくれるのだった。


「あ、はい! ありがたいです。でも、本当にいいんですか?」

「いいぞ。どうせ物置みたいなもんだったしな。畑を手伝ってくれるんならなんてことはない。色々面倒見てやるさ」

「ありがとうございます! 出来る限りお手伝いさせてもらいます」

「よしじゃあ行くぞ」


 そう言ってガルクスさんは歩き出した。

 

***


 10分ちょっとでガルクスさんの家にたどり着く。やはりスラハ村の町並みはエキゾチックで、日本よりのんびりとした感じだ。これからここで暮らしていくことになるのだ。


「ここが俺ん家だ。どうだ、なかなか立派なもんだろう? なんたって新築だからな!」


 たしかに立派である。


 石造りであるからとてもしっかりとして見える。広さ自体は35坪くらいであるが、ガルクスさんが住むには十分といえる。


(そういえば他の家も日本の家よりは小さかったような。それにしてもよくこんなにしっかりした石を綺麗に敷き詰められるなあ)


「うわぁ、素敵なお家ですね。それにしても、どうやってこんなに石を積み上げたんですか?」

「よく聞いてくれたな! 飯食ってる時に俺が土魔法を使うって言ったろ? そいつを使うんだ。俺は魔法は苦手だがこれは得意でな。小さいときからやってたから、ブロック片ならかなり正確に作れるんだ。位置もほぼ正確に積み上げられる。村人にも偶に頼まれるんだぜ」


 なんと! 魔法で石のブロックなんて作れるのか。これがそれか……。でもどういう原理なんだろうか。とても気になる。しかしここで立ち話もなんだし、機会があったら聞いてみよう。


「さすがですね。魔法は苦手と言ってましたけどすごいじゃないですか。あ! あれが例のあばら家ですか?」


 向かって右奥にこじんまりとしたあばら家を見つけた。こちらは珍しく木でできている。ツタが垂れかかって正面を覆い、なんとも趣がある。いい具合に廃れている。


「ああ、そうだ。元々は村人が資材の搬入用に使ってたんだけどな。新しくもっと立派なものができていらなくなったもんで、今は物置として使わせてもらってる。ボロくてすまんな」


 とんでもない。こういう趣のある家にひっそりと暮らすのが夢だった。高校時代は盆栽を育てて両親に奇異の目で見られたが、あれは物事の趣を解さない人達なのだ。


「いえいえ、全然そんなことないです! むしろこんな家に住むのが夢だったんですよ。ありがとうございます!」


 するとガルクスさんにも案の定、奇異の目で見られた。俺が変人なのだろうか?


「あ、ああそうか? 喜んでもらえるなら何よりだ。今は色々ごちゃごちゃしてるからしばらく整理する。ちょっとその辺をぶらついててくれ。すぐ終わる」


 そう言うとガルクスさんは早速あばら家の中に入っていく。


 ドアを開ける時「キィイ゛イ゛イイ」と軋む音がしたが、あれもまた素晴らしい。


(まさか異世界に来て自分の夢がかなうとは思わなかったな。これは嬉しい)

 

***


 言われた通り、俺はちょっとぶらついてくることにする。


 まず見渡すと、家の脇がすぐ林になっている。遠くにはあの大豆畑が見える。来る時には気づかなかったが、どうやら中央道路は緩やかな上り坂になっていたらしい。こうして眺めると青青しい畑を一望できるのだ。


(ああー、気持ちいい……)


 周りは、遮るものが林以外何もない。ガルクスさんの家は風通しが良いのかもしれない。


(ん? 用水路でもあるのか?)


 チョロチョロチョロと涼しい音が聞こえてくる。


 数十歩歩くと、案の定、林の手前は小川になっていた。川幅は1.5m程で、川底は薄くぼやけて見えるから、水深は1mちょっとか。案外深い。もしかしてあの森の小川と繋がっているのかもしれない。


 緑がもわっと萌える土手に跪き、川を覗き込む。


「お!」


 いた。10cmくらいの小魚が、浅い対岸に転がっているれきのところを走り抜けたようだ。ピカっと光ったのだ。


 こんな童心に帰って自然に触れるのは何年振りだろうか。小さい頃は母さんに連れられてよくこんなことをしていた。


 俺はそうして、しばらく川を覗き込んでいた。


***


「よ、終わったぞ。何してるんだ?」


 どうやらガルクスさんが掃除を終えてきたらしい。


「すぐ近くに川が流れてるんですね。昔はこうやってよく遊んだんです。毎日そこらじゅうびしょびしょにして。母に怒られましたけどね。そういえば魚がいましたよ」

「ああこの川を見てたのか。昔は案外ヤンチャだったんだな。でも落ちるなよ。この川はあの森の川と繋がっててな、ここはいわば下流だな。村の周りをぐるっと一周してるんだ。水が綺麗だから皆重宝してる。30cmくらいのもいるぞ」


(ま、マジか!)


 さっきのは小さかったが、深みのところにいるのか。是非とも釣ってみたい。


 あ、道具がないか……。


「今度一緒にとってみるか? 難しいが半日粘れば3匹はそこそこのがとれるぞ」


 げ、半日粘って3匹か……。


 たしかに自然の魚は警戒心が強いし、そのくらいが妥当なのかもしれない。


「はい! 是非。ところで掃除お疲れ様でした」


 川なんていつでも見られるし、俺も手伝えばよかったと思った。


「おう。最低限物を持ち込めば今日からでも暮らせるぞ。それは俺の旅してた時の物を貸すから安心しろ。早速見てみるか?」

「行きましょう!」


*** 


 ガルクスさんに連れられて、元来た道を歩く。


 ここらはそこそこ人が通ったのか、所々、膝上くらいのノビルモドキが踏み固められている。大工に頼んでできた、待望の新築住宅を見に行くように、俺もノビルモドキを踏み倒していくのであった。

 

 今日からお世話になる我が家に到着した。ワビとサビには苦労しなさそうである。


「よっと」


 ガルクスさんがドアを開ける。そうすると、途端に籠った空気が迫ってきた。


「悪いな。ここはずっと物置として使ってたからな。まあドアを開け放って半日もすれば問題ないさ」


 それは仕様が無い。急ぐ訳ではないし、厄介になれるだけでもありがたいのだ。


「いえいえ、気にしてませんよ。例の畑の件もありますし、今日は外で過ごそうと思ってましたから」

「そりゃ助かる。畑は明日からでいいぞ。今日はあんなことがあった後だからな。ゆっくり川でも眺めてたらいいさ」


 ハハ、さすがの俺でもずっと川眺めているのは飽きる。


「あ、そういえば。これから物を持ち込むんですよね? 手伝います」

「それも換気が終わってからだな。運ぶのは夕日が見える頃でいいぞ。そのとき頼む」


 なるほど、こう湿った部屋の中にすぐ布団とかを持ち込むのは良くないのかもしれない。


「わかりました。日が落ちる頃に早めに来ますね。また川辺で遊んできます」


 やはり、大きいのをこの目で見てみたいので、ちょっとした偵察である。


 ガルクスさんは頷く。


「わかった。じゃあ俺はちょっと休んだら、お前のことを散歩がてら村人に話してくるよ。

ここはのどかな田舎だからな。狭い世界だし、色々親切にしてくれるはずだ」

「ありがとうございます。では行ってきます!」


 気を付けてな、というガルクスさんの言葉を背に、俺は川へと跳んでいった。


*** 


 また例の川辺にやってきた。


 草木のいい匂いがする。川の流れる音も心地いい。


 また光った。小魚はいっぱいいるのだろう。


 そうやって川を寝そべりながらボーッと見ていると、いつの間にかウトウトし、やがて眠ってしまった。


(あれ……もしかして寝ちゃってた?)


 いつも寝起きはとてもだるいものであるが、新緑の自然に囲まれた昼寝は格別で、目覚めも頗るいい。


(まだそんなに経ってないよな、太陽の位置あんまり変わってないし)


 さてどうしたものか。体の疲れは完全に抜けたが、ずっとこうやって川を見ているわけにもいくまい。


 そうだ。ギルドに行ってみようか。絡まれそうになったら紳士になれば、問題はナッシングである。

 

 そうと決まればギルドに向かう。


 来たときの畑が見えたということは、あの森の近くということなのだろうか。それに、進行方向に家々の間の隙間から例の中央道路が見える。ガルクスさんは川は村を囲むように流れていると言っていた。ということは、酒場からここに来たときは中央道路を右に横切ったので、この辺は村の南東部なのか。


 そんな事を考えながら歩いていると、中央道路に出た。ここまでは点在する家と家の間を縫って来たが、このまままっすぐ行けばギルドに着く。

 

 見えた。左手に石造りの立派な建物がある。最初に来たときは気付かなかったが、結構年季が入っている。いい具合にくたびれている。


 そして無事にギルドに到着した。


(ふぅー……)


 酒場でガルクスさんに脅かされたからか、しばらく俺はその場でモジモジする。脳内シミュレーションも万全に行うと、意を決して、そのドアを開ける。


「どーもぉ! お初でっす! ハンターに興味があって来ました! よろしければ色々教えてくれませんかァ!? どもです!! ハハッ!!」


 そう、人は、第一印象が一番大切なのである。


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