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異世界情調紀行<凍結>  作者:
風の国編-風の街シュルツ
27/46

アケト村-上

「いやー、食った食った!」

「腹いっぱいだ」

 

 ガルクスさんとシルフィの声に、俺達もお腹をさすりながら頷く。ミールを人数分釣りあげ、その場で焼いて食べたのだ。


「私はミール久しぶりに食べたわよ。やっぱり新鮮なのは格別ね」


 とフィルドは言う。

 

 しかし、ミールは旅人の味方だと言っていなかったか。久しぶりに食べたってちょっと違和感がある。


「ミールって旅人はよく食べるんでしょ? 久しぶりってどういうこと」

「あー……」


 フィルドは苦々しい表情を浮かべる。ひょっとして、地雷を踏んでしまったのだろうか。


 そこへガルクスさんが


「ディオンと二人で苦労してたんだろ? ならミールにありつけなかったのも納得がいくな」


 と言うと、シルフィも


「でもこんなに簡単に獲れるのだぞ? この通りキューもありつけているぞ」


 と続ける。


 そのそばで、キューも焼いてあげた魚を頬張っている。やがて、ごくんと音がした。


「これはあの道具のおかげだ。あれがなければ、言ったろ、川で魚を獲るのは難しいってな。こればっかりは紅に感謝だ」

「なるほど……」


 俺は合点がいった。シルフィも納得のようだ。たしか半日で数匹だったか……。


 この世界では投網などは発達しているらしいが、規制が厳しく、魚も必然的に貴重になるのだとか。ならば、味気ない携帯食料に比べ、旅先でありつけるミールはとても魅力的なのだろう。


 お腹が空いているらしいキューにもう一匹あげると、少し休んで俺たちは再びアケト村へと向かう。


「クルルルゥ、キュイーキュイー」

「うん? どうしたの。風、気持ちいいね」


 キューは俺の肩に乗りながら、機嫌よろしく旅路でさえずる。森を吹き抜ける風に、フィルドの鮮やかな髪が靡いている。


「でもガルクスさん、本当に良かったんですか? お家新築でしたよね」


 ふと気になったことを口に出した。俺のあばら家はそんな心配はいらないのだが、ガルクスさんの家は、立派な新築住宅だったのだ。


「なぁに、構わんさ。家はほとんど俺一人でつくったようなもんだしな。石造りだから、そう簡単には痛まんだろう」


 とガルクスさんは言う。なるほど、たしかにそうかもしれない。


 言葉と同じく、前を行くガルクスさんの足取りは軽かった。


***


「お、見えてきたぞ」


 俺たちの目の前に村が見えてくる。


 町並みはスラハ村とさほど変わらないが、このアケト村は、河川に沿って広がっているようだ。河川左手が中心らしく、中央道路を囲んで発展している。


「今日と明日ここで過ごすのよね?」

「そうだな。出発を早くした分、余裕をもってシュルツに行く予定だ」


 フィルドの問いにガルクスさんが答える。


 それにしても眺めがいい。森を抜けたところは小高くなっているので、河川を取り囲む村を一望できるのだ。河の水面がきらきらと光っている。


「ほう、スラハ村の先はこんな風になっているのか。大分印象が違うな」

 

 とシルフィがこぼす。


それはおそらく、河が村を突き抜けているからだろう。町並みはレンガ色が目立つが、さほどスラハ村と変わらない。


「さーてと、さっそく宿を探すか。フィルドはどこに泊まったんだ?」


 とガルクスさん言うと、俺はそれに割って入る。


「あ、ちょっと待ってください。キューはこのまま肩に乗せてても目立ちませんかね?」


 キューは俺の言葉に小首を傾ける。使い魔は珍しく、なおかつ高位の魔物ということで、悪目立ちしないか心配だったのだ。


 すると今度はフィルドが続く。


「大丈夫でしょ。小さいドラゴンなら割とメジャーな生き物よ」


 そういうことらしい。


 でもドラゴンがメジャーって、ちょっと怖い。その辺に飛び回ってるのだろうか。


「ほら行くぞ。キューも川で遊びたいと浮足立っているぞ」


 シルフィがせかすので、俺も村へと向かった。


「で、その宿は左奥にあるんだな?」

「そうよ、シュルツからの旅人がよく利用するらしいんだけどね。宿泊代も安くていいわよ!」


 それは懐に優しくていい。大金を得たとはいえ、俺は定職についてるわけではないのでありがたい。


 そうだ。宿泊代はどうするんだろう。


「あの、宿泊代はどうします? 僕が出してもいいですよ」


 さっきまでは節約とぬかしていたが、景気良く提案してしまった。


「ん、シュルツに到着するまでは俺がもつぞ。それからはこのメンバーで依頼をこなして稼がないといけないがな。なに、心配しなくていい」

「あら、相変わらず気前がいいのね! じゃあ宿を手配したら、さっそく買い物に行ってくるわよ」


 宿代が浮いて嬉しいのがバレバレである。


 でも俺も買い物に行きたい。だがガルクスさんに宿代をもたせるのは若干気が引ける。


「それなんですけどね。ベルマーとヴァルグ事件のお金、結局僕が全部持ってるじゃないですか。それを当面生活の費用に使ってもらえませんか? シルフィさんもいいですよね?」

「ああいいぞ」


 あのお金はギルドとガルクスさんに預けていたのだが、旅に出るにあたり、俺がすべて持っているのだ。台車に荷物を一通り乗せているので、俺は今大金を背負っている。


 案の定、ガルクスさんに一度は断られたが、俺とシルフィとフィルドで押し切った。


***



「ここよ。宿代のわりに清潔でいいのよ。女性はそこが大事ね!」


 10分程左手の中央道路を歩くと、フィルドの言う宿に到着した。風の友という宿名だ。


「いらっしゃい。4人と……一匹か? お嬢ちゃんまた会ったな」


 エスニックなカーテンをくぐると、ガルクスさんより少し歳を重ねた男性が対応してくれる。


「スラハ村からとんぼ返りよ。そういうわけだから、2部屋よろしくね」

「おう分かった。それにしてもすごいな。それ、使い魔だろ?」


 宿の主人はおそるおそるといった感じだが、嫌悪感の類は感じられない。


 俺もそれに応える。


「そうですよ。まだ付き合いは短いんですけどね。ご迷惑はおかけしないのでよろしくお願いします。キューもほら」

「キュルルルゥ!」


 俺の言葉にキューは翼をたたむと、ちょこん、と頭を下げる。


「良い子なんだな。それなら何の問題も無い。部屋に案内するぞ」


 宿泊スペースは宿屋の二階だった。主人の話によると、一階は受付と食事場らしい。


「こことここだな。嬢ちゃんたちは左だ。これがカギだ。何かあったらカウンターに来てくれ」


 そう言うと、主人は階段を下りていった。


 ガルクスさんはすこし部屋を覗くと、納得の表情を浮かべている。


「ほう、なかなか立派な部屋だな。俺たちには十分すぎるほどだ」


 全くその通りだ。 


 ちなみに俺は、ガルクスさんと相部屋である。


 扉は木であったが、部屋は石造りだった。床には薄い絨毯が敷かれていて、部屋全体がひんやりと気持ちいい。


「ですね、二人でも狭くないです。このあとフィルドは買い物に行くって言ってましたけど、ガルクスさんはどうします?」

「俺はギルドにでも出向いてくる。ちょっとした情報収集だな。少し休んだら、紅達もそのへんに繰り出すといいぞ。ここは色んな物が売ってるからな」

「はい!」


 ガルクスさんのお言葉通り、俺は少し休んだらシルフィ達と村を散策することにする。早速隣の部屋に出向いて作戦会議だ。


コンコン。


「僕です、今入ってもいいですか?」


 レディの部屋だから一応である。


「いいぞ、入れ」


 とシルフィの声が聞こえたので、俺はドアを開ける。 


部屋に入るのと同時に、キューが中から俺に飛んできた。


「どうした、キュー。ビックリしたよ」

「キュィー……」


 キューの目線の先には、フィルドが手をわなわなさせている。


「あ、もしかしてキューをいじめた?」

「いじめてないわよ! ちょっと抱きしめてあげようと思ったの」


 もう一度キューを見ると、尻尾をピンっと立てて抗議している。フィルドは相変わらずだ。


「いじめちゃだめでしょ、そのうちにガブってやられるよ。それより、皆これから買い物?」

「そのつもりよ」

「私はキューを連れて川で遊んでやるつもりだ。お前たちで行ってこい」


 キューはおとなしくシルフィの方へ行くので、俺はフィルドの買い物に同行することにした。


***


 商店街へフィルドはすたすたと向かっていく。俺も早足でそれを追うが、みるみる引き離されていく。


(くそっ! なんで女性は買い物のとき歩くのが速いんだ! こうなったら魔法使ってやる)


 かすかな風を切る音と共に、俺は道路を疾走する。まもなくフィルドに追いついた。


「ちょっ、ビックリするでしょ!! 魔法をそんな風に気軽に使わないで!」

「いやいやいやいや、こうでもしなきゃ、歩くの速すぎてついていけなかったの。置いてかないでよ」

「もう、分かったわ。これくらいでいい?」


 やっと俺が歩く速度に落としてくれる。


 俺は魔法を解いて、黙ってそのあとを追った。


 それはそうと、なぜ俺が、少し苦手なフィルドに同行しようとしたか。それには理由がある。


 フィルドは地雷を踏めば大変なことになるが、いつもはちょっと思い切りのよい、ざっくばらんな女性なのである。俺も大ざっぱな性格なので、その点は一緒にいて心地よいのだ。


「なにぼーっとしてるの。ほら、あそこの武具屋行くわよ」

「あ、はい」


 数m先に、無骨な武具屋が見えてくる。店先にもいくつか剣がつるされているので、一目で分かった。


「うわ~、こんな店あるんだ。これすごッ!」


 と俺は思わず漏らす。


「ん、どれ? ああこれ。これは短いサーベルね。そういえば紅は武器持ってないのよね?」


 もちろんこんな物騒な代物は持っていない。日本で所持していたら、確実に銃刀法違反である。御用物の刃物といえば、この世界でも、ガルクスさんとフィルドのものしかまだ見ていなかった。


「持ってないよ。全然扱う技術も無いしね。でもこれ護身用とか、もしものときのために使えそうだよね」

「そうね、このくらい短いと素人でもそれなりに使えるわよ。買ってく?」


 どうしようか。正直欲しいが、さすがにちょっと抵抗はあった。


すると店の主人が威勢よく俺に言い放つ。


「お、兄ちゃん、お目が高いね! そりゃ、最近仕入れたばっかりのやつだ。実用性は十分だぜ! 今なら割引しとくよ」

「じゃあそれちょうだい」


 ちょうだい、と言ったのは俺ではない。フィルドだ。フィルドはこういうところがサバサバしている。


 仕方がないので俺も続く。


「あ、じゃあお願いします」

「毎度あり! 割引して12万リルだ」


 俺は思わず噴き出す。安くはないものだとは思っていたが、こんな高価なものをぽんと買ってしまった。


「はい、じゃあ丁度」

「毎度あり!」


 これはたいそう大きな買い物をしてしまったと思った。


(当分は節約しよう……)


 差し出されたサーベルは、もちろん鞘付きだ。銀の刀身と金の鍔の対比が美しく、実用以外の意匠も憎い。ちなみに携帯用の皮のベルトもおまけしてもらった。


 フィルドを横に、そのあとも色々商店を見て回る。アクセサリーの類を打っている店は多かったが、フィルドはそれらに興味を示さない。


「立て替えてもらって悪かったね。それにしても思いっきり良過ぎ」

「それはいいわ。丸腰なのが不自然なくらいよ。生粋の魔法使いだって短剣くらい携帯してるわよ? ま、扱いはガルクスにでも習うことね」


 雑貨屋に寄ったあと、そろそろ帰ろうかという時である。


 なにやら河の方が騒がしい。


「なんだろう、何かやってるの?」

「んー、分からないわね。行ってみましょっか」


 そう言うと、俺たちは急いで川の方へと向かっていったのだった。


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