表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救急箱  作者: ともかlabo
6/7

interlude 1-1

あの日の私は、やはり怖かったのかもしれない。


自分で言うのもおこがましいが、普段私はおだやかだ。理恵子ちゃんからは、鳴らないやかんと言われるぐらいに。沸騰していても、顔にも態度にもあまりださない。


心がすさむことも当然ある。人間だから、怒りたくなるときもある。大学卒業して、社会人になって、今年で6年目。仕事にせよ、プライベートにせよ、それはそれなりにいろいろある。


ブライダルの仕事は楽しい。お客さまと接すること、よりよい式にするためにサポートすること、やればやるだけ、発見があり、この仕事にやりがいを感じている。


ある一点を除けば。


なんだかんだで、あっという間に20代の終わりを認識する年齢になってしまった。周りは結婚してたり、してなかったり。そして、職場は結婚して続けるという意識が薄いのか、辞めていくケースがほとんどだ。


その日も、心底がっかりしてしまっていた。

最近結構頑張っていて、成長したな、と感心していた後輩が3か月後に結婚退職すると聞かされた。


いろいろ教えてあげたいこと、あったのに……。

退職について、彼女の意思は堅かった。準備したいこと、今までできなかったこと、新しいことを始めたい……幸せ気分と申し訳ない気分が入り交じっていた。なるべく笑顔で聞いていたけど、途中、ひきつっていたかもしれない。


「鹿島さん、時間です。そろそろ来ますよ」

「あ、そうだった。資料……用意してあるね。さ、行きますか」


矢島くんが声をかけてなかったら、忘れていた。自分のタイムスケジュールが吹っ飛ぶくらい考え込むなんて、明らかにまずすぎる。感情に引っ張られ過ぎだ。カップに残っていたお茶を飲み干して、片付けをして、ミーティングスペースに向かった。


研修は、現場を見てもらったり動いてもらうものではなく、とりあえず概要説明だ。来てもらうんだし、サクサクと終わらせようと思った。勉強になるだろうからと、矢島くんも入るよう上司からお達しがあった。


矢島くんは入って間もないけど……いつか、ここから、別部署に行ってしまうのだろうか……よぎらないわけではないが。


説明そのものはスムーズに進んだ。

一緒に来ていたのが小笠原主任だったのもあり、実際のケースの話を交えていろいろ説明できた。営業の新人くんも真面目に聞いてくれて、質問もいろいろしてくれたり、やりがいがあった。


ただ……気になってしまった。普段だったら、他部署の新人だし言わないだろうけど、気になって気になってしかたなくなり、言わずにおれなくなった。


「では、研修は以上ですが……田澤くん、だったっけ?」

「はい。」

「真面目に聞いてくれて、質問もできていいんだけどさ……ちゃんと聞いてた?」

「え?」

「メモ取るのはいいんだけどさ、対面で話すなら、メモに集中しすぎないようにね。相手の表情だったり、声のトーンだったり、その場にしかない空気をつかむのも大事だからさ」

「……はい、すみません」


言ってしまって、しまった、と思ったが……遅かった。


「よし!おしまい!ありがとう、鹿島さん」

小笠原主任の終了コールがかかった。やらかした、私……彼の上司は私じゃない。その指摘は私の仕事じゃない……


席に戻る短い間、私はうまく笑えなかった。むしろ、穴を掘って埋まりたかった。


「今日の鹿島さん、いつもと違いましたね。するどかった。普段どこに刃を隠してたんですか?」


答えるより先に、愚痴が出た。


「矢島くんは、人の話をよく聞いてるけど、メモ取らないからしょっちゅう忘れる。田澤くんを見習いなさい。」

「すみません……って、今日、俺、なんかやらかしました?」


はっと気づいた。当たり散らしてどうするんだ……


「ごめん……指摘する前に私が感情のコントロール出来てない……」

「いや、言ってもらえた方がいいこともありますよ。きっと、田澤も、反省してるかと…」

「反省してるかと思うと、ますますつらい…」


どつぼにはまっているところに、小笠原主任がきた。いや、理恵子ちゃんが来てくれた。



interludeでは、視点が修→結にスイッチします。まだもう少し続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ