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救急箱  作者: ともかlabo
5/7

scene 2-3

暦としては残りの暑さ。でもまだまだ夏の日差しの9月。エアコンの効いていた館内から外に出ると、ため息が出てしまった。そしてもう一つ。誘ったものの、どこに行くか、全く考えていなかった。


「田澤くん、からいの平気?」


先に提案したのは鹿島さんのほうだった。


「あ、大丈夫ですよ」

「歩くとちょっと遠いんだけど」

「あ、俺、車です」

「え?いや、歩ける距離だけど…」

「鹿島さんは、ここまでは?車?」

「いや、近いから歩きなんだけど」

「…道、大丈夫ですか?ナビしてくれます?」

「え?いや、歩ける…けど」

「飴玉のお礼に、帰りは送りますよ。あ、でも彼氏さんに見つかっちゃいます」


言ってしまって、しまった、と思った。でも、鹿島さんは笑いながら、答えてくれた。


「あー、そうだねー。田澤くんの彼女に呼び出されたら困るしなー」

「俺だって、彼氏さんにボコボコにされるの困るし」


二人で顔を見合せて、大笑いしてしまった。


「要は…二人揃っていないってことで」

「そのようですね」


意外だった。こんなフランクに話す人だとは思わなかった。かわいい人なのに彼氏がいないとは思わなかった。


「それじゃ、車出しますよ」

「お言葉に甘えます」


鹿島さんの指定したお店は、インド人の作る、インドカレーの店だった。理由を聞いたら、一人じゃ来られないからということだった。平日のランチタイムだということもあり、店内はスーツ姿の会社員のグループや制服姿のOLのグループで賑わっていた。


「お一人様とか、最近言うから、結構平気そうかと思ってました」

「うん…まぁ、ね。いや、何かさ…自分は一人か…って食事の時に認識するのって、結構痛いんだよね。私だけかな……」

「なんか…すみません、よく分かってなくて」

「悲しいけれど、独り身のもうすぐ30代はアレコレ考えすぎるみたいです」

「でも、他部署の先輩にこんなこと言っていいのかな…鹿島さんって思ったよりかわいい人なんですね」

「……誉めてもおごらないよ……」

「いや、正直に言うと…鹿島さんって、笑顔が素敵だけど、カミソリ並みの指摘をする怖い人ってイメージでした」

「……あの件ね……反省してます」

「いえいえ。遅かれ早かれ、小笠原主任が指摘しようとしてたみたいだし」


社食や仕事に関係する場所以外で、女性と一緒に食事をするのは、久しぶりだった。でも、思いのほか、話が盛り上がった。仕事のこと、本のこと、好きな音楽のこと…他愛のない話であっという間に時間が過ぎていた。


俺の選んだ「あかね空」はもともと鹿島さんから小笠原主任にオススメした本だったことも分かった。


「なんかうれしいな。あまり明るい物語じゃないんだけど、理恵子ちゃんの、埋もれるにはちょうどいいセレクトに入れてもらえたなんて、うれしいな」

「鹿島さん、小笠原主任と仲いいんですね」

「だって、入ったとき、すぐ上の先輩は理恵子ちゃんだったんだ。なんかね、敬語使われるの、いやだとかで、下の名前で呼ぶようになったんだ」

「へぇ、そうなんですね」


いろいろなことを知ることもできた。得るものが多い休日になった。


食事が終わって、家に帰りがてら、鹿島さんを家に送った。特に予定がなかった分、「あかね空」をもう少し読み進めたくなった。


「ありがとう。またご飯に誘ってね」

「いいんですか、そんなこと言って?」

「だって楽しかったし。楽しく食べたら元気出るし。あ……いやだった」

「いいえ、いやじゃないですよ」

「じゃ、またね」

「はい」


面白くてかわいいなんて、年上の女性に使っていいのか悩むけれども、本当にそんな人だった。一度の印象だけでは分からない、本当にそうだ。



楽しんで頂けましたでしょうか?話はまだまだ続きます。

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