表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救急箱  作者: ともかlabo
4/7

scene 2-2

人は一度の印象ではなく、多角的に見ないといけない。だから怖いではなく、いいとこ探しをするつもりで、指摘も受け止めたら。


小笠原主任から言われた一言を思い出した。ブライダルの鹿島さんというと、研修の時に一番最初に痛い指摘をしてくださった人だ。そして、人を多角的に見ること、いいこと探しをするつもりで、という今でも大事にしていることを、初めて意識することになったきっかけの人だった。


正直に言うと、柔らかい物腰だけど、結構厳しい、むしろ怖い、というイメージしかなかった。だから、手元のきちんと整った文字のメモとともに置かれた飴玉が意外だった。


「ビックリしました。俺、何が起きたか、分からなかったです」

「いや、疲れてるのかな?なんて思ってね。飴しかないけど、よかったらどうぞ」

「ありがとうございます」

「じゃ、失礼します」

「はい」


鹿島さんは、何冊かの本と雑誌を抱えて、机の方へ向かっていった。俺は、それを見届けて、また手元の本に目を落とした。飴玉はジーンズのポケットにしまい、メモを読んだ。


『お疲れさまです。

その椅子、寝ちゃいますよね。

ゆっくりゆったり、お休みして、また明日からがんばりましょう。


かしま』


同期の矢島からは、気配り上手で、ちょっと抜けてるところもあるけど、仕事もできる、いい人だ、とも聞いていた。あいつの言わんとしていたことが何となく分かった気がした。


鹿島さんは机に向かって、本や雑誌を読みつつ、いろいろメモを取っていた。仕事外でも勉強熱心なんだな、と思ったと同時に、今までの自分をふと振り返った。休むことも仕事といいつつ、どこか甘えていたような、言い訳していたような…そんな気持ちになった。


小笠原主任はただ「埋もれる」としか言葉にしなかった。

ただ、その「埋もれた」ものによって得るものがたくさんあった。まだ十までしか読み終わっていないものの、文字から得た情報から情景を思い浮かべる、そこからまた「何か」を想像し、読み進める。営業という仕事においても、ただただ話を聴くだけでなく表情であったり、使った手段を考えたり…結びつく点があったかもしれない。


「足りない」何か…うすぼんやりと光が見えた気がした。


窓の外を眺めながら、手元の本にしおりをはさんでおきたくなった。とりあえず、もらったメモを挟んでおくことにした。ゆっくりと伸びをして、貸出カウンターに向かった。



貸出カードを作り、貸出をしてもらい、ふと時計を見た。もうすぐ12時。少し空腹でもあった。俺は、ふと思い立ち、鹿島さんのいる机に向かった。少しかがんで、目線の位置を合わせた。


「鹿島さん」

「はい。うわっ、ビックリした」

「休みの女性をお誘いしていいか、悩んだんですが」

「はい…なにか?」

「お暇ですか?」

「え?」

「お腹空きませんか?」


クスっと笑いながらも、鹿島さんは答えてくれた。


「おごり?」


俺も笑いながら答えた。


「給料日前に勘弁してください。割り勘で」


何となく、この人と、もう少し話したい気分になった。









話はまだまだ続きます

よかったら、ご意見ご感想、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ