scene 1-2
昨晩は結が寝付くまでが大変だった。前日の疲れを考えて、俺はソファーで寝ると主張したが、聞き入れてもらえなかった。結により、半ば強引に一緒のベッドで、一緒に布団にくるまって、一緒に寝ることになった。
しゃべっているうちに、二人揃って寝てしまったらしい。寝入る前の記憶が曖昧だ。何もせず、ただただ一緒に寝た。目覚めてはじめて気づくほどぐっすり寝てしまった。心底安らいだ気持ちに、ビックリした。
いつもの時間に目が覚めた俺は、結の寝顔をそっとなでたり、まぶたにキスしたりしたけれど、全く起きそうな気配がない。
起こすのは簡単だ。でも、俺にもよく分からないが、そんな気も起きなかった。
とりあえず、朝飯でも用意することにして、そっとベッドを抜け出した。
昨日の夜見たときと同じように、冷蔵庫には悲しいぐらい何もない。パンと卵と牛乳……ふと思いついて、フレンチトーストにでもすることにした。
卵と牛乳を混ぜていたら、部屋から重たいものが落ちる音が聞こえた。よく分からない。そんな重たいものが落ちるようなことはない。部屋は結が来るかもしれない想定で、片付けていたはずだ。
「い、いたい…」
あわてて部屋に入ったら、結がベッドから落ちていた。ベッドから落ちた姿を見つけられて、布団で顔を隠していた。朝イチでベッドから落ちた人なんて、初めて見た。笑いながら布団をはいだ。
「おはよう」
「…不覚」
「何したの?」
「いなかったから、あわてた」
「どんなあわて方をすれば、ベッドから落ちるんだよ」
笑いながら、結に抱きついてしまった。年上なのに、仕事もきちんとできるのに、どこかゆるんでいる結がいとおしくなった。
「おはよう、鹿島主任」
「恥ずかしい」
俺は寝起きの結のおでこにキスした。
「どんだけかわいいの?」
「…知りません」
「そんな顔されたら我慢できなくなる」
恥ずかしがる結にキスした。
不意にお腹の鳴る音がした。
「…恥ずかしい」
笑いが止まらなかった。
「結、いつもは無理だろうけど、俺も我慢しないといけないときもあるけどさ、たまにはもっともっと素直に寄りかかって」
「え?」
「結の歳になるとさ、あれこれイヤになるぐらい、意識しなくちゃいけないことが、出てくると思うんだ。俺はまだまだ全部に答えてあげられないけど、寄りかかれる場所はちゃんと用意しておくから。だから、たまにはここにきてほしい。なんていうか、部屋にではなく、ここに。」
笑いながらも、なぜか真面目に、ずっと思っていたことを口にした。結が俺に求める全てに答えてあげられないけど、どうにもならないときでも、結の場所は俺のとこにある。ずっとずっと伝えたかった。
「…うん。ありがとう。嬉しい。ありがとう。」
「よかった」
俺は結をぎゅっと抱きしめて、またキスをして、ぎゅっと抱きしめた。
お腹すいたと言われるまで。