Prologue
「はぁ、はぁ…」
新宿の裏路地に一人の少年がいた。
彼は物影に隠れ、荒く成った呼吸を整えながら辺りを注意深く見渡す。
辺りには怪しい人影は見当たらない。
それを確認すると少年は物影から出てきて空を仰ぐ。
空には満月が輝いていて少年を照らした。
月明かりに照らされた少年の顔は、少し整っているがどこにでも居そうである。
髪は最近の高校生の様に染めたりせず、地の黒色だ。
だか彼がどこにでも居る少年では無いと彼の両手に握られている黒光りする二丁の銃が伝えている。
少年は銃を満月にかざす。
月明かりに照らされた銃は美しくも不気味に輝いている。
ガンッ。
突然少し離れた所で物音がした。
「見つけた」
少年はそう呟くと物音がした方に駆けだす。
そしてそこにいた男に銃を突き付け高らかに宣言た。
「スイーパーだ!お前を捕縛しに来た」
1910年。
原因は不明だが突然人々の中に人間が持っていてはいけない力を手にした人々が現れた。
彼等の力は“Magic<マジック>”と称され、Magicを手にした者は“Freak<フリーク>”と呼ばれた。
世界にはMagicを利用した凶悪な犯罪者が増えすぎた。
ありとあらゆる国々で多発する凶悪犯罪。
もはや警察はFreakの力の前に成す術が無かった。
世界各国は悩みに悩んだ。
そしてある結論に至る。
「Freakによる犯罪はFreakに任せよう」
そして翌年1911年。
完全独立組織『罪の塔<バベル>』が設立された。
そしてその設立をもって世界にFreakを狩るFreak、通称スイーパーが生まれた。
罪の塔は犯罪を犯したFreakやMagicを利用した犯罪組織にランクと賞金を付けた。
その犯罪者を捕まえたり犯罪組織を壊滅させると付けられた賞金を貰える。
ただし賞金を貰えるのは罪の塔に登録されたFreak。スイーパーだけである。
スイーパーの登録は簡単な身体能力の検査、簡易精神鑑定だけでよい。
Magicを発現させていれば、満12歳から登録する事が出来る。
登録されたスイーパーには証明カードが支給される。
このカードを持っていれば三つの権利を手に入れる事が出来る。
一つ目は“帯剣、帯銃権”。
文字通りどんな所にでも帯剣と帯銃が許されるのだ。
二つ目の権利は“攻撃権”。
街中で賞金首を見付けたら刃物で切り掛かっても良いし、銃を抜くのも許される。
最後のの権利は“発動権”。
Magicをなんの許可無しに自由に発動させる事ができる。
この三つの権利を世間では“生奪権”と呼ぶ。
賞金首は基本“Dead or alive”つまり生死問わずなのだ。
ただしスイーパーにも守らなければ為らない事がある。
それは“意図的に一般市民を傷つけてはいけない”という事だ。
これを破ると証明カードを剥奪され、さらに賞金が設定されてしまう。
つまりスイーパーから賞金首に成ってしまうのだ。
更に罪の塔は、Freak達のMagicに対してランク付けを行った。
低い方からE、D、C、B、A、Zと分けられる。
このランク分けはMagicの利便性、危険性、希少性を総合させ割り出される。
ランクCまでは共通したMagicで、ランクB以上は個人の特有のMagicに成っている。
またMagicが有ることを初めて確認出来た時を“発現”という。
Magicは精神的に大きく変わる事で変化したりもする。
またMagicには必ず制約が付き纏う。
基本的にはMagicが強力であればある程にその制約がきつい物になる。
スイーパーはいつも死と隣り合わせの仕事だ。
なので一人で賞金首を相手するよりグループでした方が明かに良い。
その為スイーパー達は身近な者達とまとまって“結社”を作った。
最後に罪の塔の運営費は世界各国からの共同出資とスイーパー達の登録料で賄われており、どんな国とも等しい距離を保っている。
銃を向けられた男はスイーパーという単語を聞いて覚悟を決めたらしい。
逃げるのを止め少年をしっかりと見据える。
男は左手にミネラルウォーターのペットボトルを持っている。
少年は男が持っているペットボトルを見て警戒を強めた。
罪の塔の情報で男がランクEの水使い<アクアリンカー>だという事を知っているからである。
情報のとおり男はペットボトルの水で剣を造り出し少年に切り掛かってきた。
少年は水の剣を銃で受け止める。
男は水の剣が受け止められたのを知るとさらに追撃を掛けてきた。
最初こそは男の攻撃を防いでいたが段々少年の体に切り傷を増やしていく。
「ッ! 」
とうとう銃を弾かれてしまった。
ニヤリと笑うと男は、少年に留めを刺そうと水の剣を振り上げた。
少年は反撃を諦め、目を閉じ斬撃を待った。
しかしいくら待っても水の剣は少年に届かない。
少年は不思議に思い目を開く。
驚きで少年は声が出ない。
目の前には男が、剣を振り上げた体制で氷付けになっていた。
呆然と氷付けになった男を少年は見ていたが、後ろから人が動く気配に気がついた。
彼が後ろを振り返ると、こちらを眺めている一人の女性が佇んでいるのが見えた。
その女性は輝くような銀髪を攻撃的な程にまで縦カールさせ、とても美しい。
ただその美しさには人間的な温かみは感じられない。
まるで氷の人形のようだ。
どれだけの時間が過ぎたのだろう。
不意に女性が身を翻し路地裏の暗闇に姿を消してしまった。
彼は何が起きたのか理解出来なかった。
だが一つだけ理解出来た事がある。
「あぁ、俺はまだ生きてる……」