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「ハルキ、入るわよ。」


急いだような声で母さんが入ってきた。

俺はとっさに本をとじ、母さんから見えないようにした。


「なに?」

「なに?じゃないわよ、何回呼んだと思ってるの?はやくお風呂入りなさい!!」


ふと時計に目をやると一日が終わろうとしている時間だった。

俺は着替えをもって風呂に向かった。



暖かい湯船につかり、一息ついても俺の脳裏から本のことが消えない。

菜々穂さんは彼の気持ちに答えたのだろうか…?

父さんはこの本を見せて何を伝えようとしたのだろう…


あの一条ハルキという人はいったい…


そう思い俺ははっとあることに気付く。

はやく確かめたくておれは急いで身体を洗い髪を洗った。

最後に少しだけ湯船につかり、急いで風呂を出た。

適当に身体をふき急いで部屋に向かう。

部屋に入るとまっさきにパソコンを機動させた。

作家ならネットに何かが載っているだろう。

もしかしたら、ホームページをもっていて何か書いてるかもしれない。

あの本で菜々穂さんと結ばれたなら話題にもなったはず。

俺は急いでネットにつないだ。

検索に『一条ハルキ』と入力する。


カタカナでハルキがめずらしいのか、検索の一番最初に作家として彼の名前があった。

それは個人のホームページで、自分の好きな小説や小説家のことを個人的に書いているものだった。

あいうえお順に並んだ小説家の名前から一条ハルキをクリックする。


『一条ハルキ

19××年~20××年』


その数字に俺は驚いた。


彼はすでに死んでる。




『小説、「セツナイキモチ」の発売日にバイクに乗っているところ猫をかばって帰らぬ人なる。

22才の若さだった。

「セツナイキモチ」がデビュー作となるはずだったが、同時に最後の作品ともなった。


「セツナイキモチ」は自身の話だとも言われているが、はっきりしたことはわからない。

彼に幼馴染みがいてその名前が菜々穂であることなど、いろいろ調べられたが、親類の意志もあり公にされることはなかった。

本は100万部を突破するベストセラーとなり、映画化の話もあったが、ここも親類の意志を尊重し実現されることはなかった。



ここからは私の個人的意見だが、文章を読むかぎり、菜々穂という幼馴染みは存在したのではないかと思う。

バイクで猫をかばったのも冒頭にあるように彼女を猫に例えていることから、重ねたのではないかと考えたい。


もし、私の仮説が本当なら、彼女はどんな気持ちでこの本を読んだのか、考えると胸が痛む。 』



読み終えて気付く。


去年のクリスマス、彼女と会った場所は墓地だった。

ある一つのお墓をみつめおだやかに微笑んでいた彼女を思い出す。


あれがきっと一条ハルキの眠っている場所なんだろう…

あそこに父さんも行ったこと、この本をくれたことから、父さんと一条ハルキは知り合いだったのだろう。

聞きたいことはいっぱいある。

でもまだ全てを答えてくれるとは思えない。

だから決めた。

受験を終えた来年のクリスマス、彼女に会おうと。

それまでに全てを知り、彼女と話す。彼女が言ったように責めることになろうとも。

一年、永い時間だと思う。でも、それくらいかけないと彼女と話す事はできない気がした。



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