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再会

健吾さんがメモ帳に記してくれたのは、店から一駅離れた霊園だった。

霊園の中にも住所みたいなものがあり、要領を得ない俺は霊園で会う人片っ端からメモを見せ場所を聞いた。

30分ほど迷い、やっと俺は住所の記す場所までたどり着いた。

だが、住所といっても区画を表したようなものなので、意外と広い。

俺はとりあえず、その区間を歩くことにした。


そして見つけた。


お墓の前にたたずんでにこりと笑う彼女を。


俺は声を掛けれずに彼女を茫然と見続けた。

そんな俺の視線に気付いたのかしばらくたって彼女は俺の方をみた。


彼女は俺をじっと見てにこりと笑った。


「お父さんならもうお店に戻られたよ。」


俺はあっけにとられて、まぬけな声をだした。


「へ…?」

「長塚さんの息子さんよね、名前はハルキ君。」


慣れたように俺の名前を彼女は呼んだ。


「あの…」

「あ、覚えてないよね。昔会ったことがあるんだけど…」


寂しそうに笑う彼女に俺は必死で首をふる。


「覚えてます、ちゃんと…」


すると彼女は本当に嬉しそうに笑みを見せありがとうと言った。


「さっきも言ったけど、お父さんはお店に帰られたわよ。」


俺は何を言っていいかわからず黙り込んだ。

不信に思った菜々穂さんはゆっくり俺に近付き心配そうに俺をみた。


「大丈夫?」


俺より少し背の高い彼女は除き込むように俺をみた。


「ハルキ君…?」

「…俺、父さんに会いに来たんじゃありません…」

「え?」

「あなたに会いに来ました、菜々穂さん。」


俺の言葉に彼女は驚きをかくせずにいた。


どれくらい時間がたったかはわからない。俺たちはお互いを見つめ合ったまま沈黙していた。それを先にやぶったのは菜々穂さんだった。


「私に何か話があるのよね…?」


どこかつらそうに、でも覚悟を決めたような口調で彼女は言った。

俺は返答に困った。

ここへ来たのは彼女に会いたいと思ったから。

ただ会いたいと思った、それだけでここまで来た。


「ハルキ君…?」


俺が何も言わないことに不安をおびえたように彼女は俺の名前を呼ぶ。

前も思った。彼女は慣れたように俺の名前を呼ぶ。まるで昔からの知り合いのように。

それがなぜか嬉しかった。

俺がそのまま黙っていると彼女は俺の首に自分がしていたマフラーをかけた。

俺が驚いて彼女をみると、彼女は微笑みをみせた。


「私のなんか嫌かもしれないけど、風邪ひくといけないから。」


そう言って彼女は俺の横を通り過ぎていく。

俺は振り返り咄嗟に声をあげた。


「待って!!」


彼女はゆっくり振り返り俺を見つめた。


「話したいことが決まったら健吾に言って連絡をとってもらって。」

「あの…」

「もう二度と会いたくないならこのままでいいわ。マフラーも捨ててかまわない。」


意志の強い目が俺を見つめていた。


「決めるのはあなたよ、ハルキ君。」

「あの…」

「あなたは私を責める権利がある人だから。」


そう言うと彼女は俺に後ろ姿をみせ歩き出した。

もう一度呼び止めたが、彼女は歩む速度をかえず、そのまま俺の前から姿を消した。


「なんだよ…」


彼女はなんであんなことを言ったのか俺には理解できなかった。

(俺には彼女を責める権利がある…?)


「なんで…?」


首にまかれたマフラーからは小さいときに会ったときの香りがした。


“私のなんか嫌かもしれないけど”


“マフラーも捨ててかまわない。”


なんで彼女がそんなことを言うのか、今の俺には知ることができなかった。

ただ、マフラーから伝わるぬくもりが俺の体を温めてくれた。


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