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写真

それから5年がたち、俺は中学2年になっていた。

そんなクリスマスのある日、俺は父親の忘れ物を届けに会社に行った。

有名レストランを経営する祖父の後を継ぎ、父は現在、会社の社長だ。いつもオフィスにいるくせに何故かクリスマスの日だけは、レストランの1号店に一日いる。

そこは昔、父が店長をやっていた店だと母親が言っていた。なんとなく、いい思い出でもあるんだろうと俺は思った。

そうじゃなかったら、わざわざ一つの店舗に一日いるわけがない。

俺は家から電車で3駅ほど先の店へ行った。


店はクリスマスということもあり、かなり混んでいた。

俺は従業員入口から入り事務所に向かった。

前にも店に届け物をしたときに父親がそこにいたからだ。

ドアをノックすると、返事がある。俺はゆっくりとドアをあけて顔をのぞかせる。そこには男が一人椅子に座っていた。


「健吾さん。」


俺が名前を呼ぶとその男は俺を見て笑顔を見せた。


「ハルキ、久し振りだな。」


健吾さんは父親が店長をしていたときのバイトで、今はこの店の店長をしている。


「久し振り、父さんは?」


部屋には健吾さん以外に誰もいなかったので聞くと、健吾さんは一緒寂しそうな顔をした。


「ちょっと出てるよ、1時間くらいで戻ると思うから、待ってろ。」


俺は素直に従い、部屋にあるソファに座った。

健吾さんは手に持っていた何かをディスクに置き、立ち上がってコーヒーメーカーに向かった。

置いた何かが気になり、俺はディスクにあるそれを手にとった。それは


「写真…」


俺が呟くと健吾さんはカップを二つ持って俺の横にきた。


「俺がまだここでバイトしてたときの写真だよ。店長…、社長も一緒に写ってるだろ?」

「本当だ。」


写真の中には今よりもだいぶ若い父親がいた。


「健吾さんも、やっぱ若いね。」


父親の左隣りで笑ってる健吾さんをみつけ俺は言う。


「まだ20歳くらいのときだからな。」

「あれ?これさやかさん??」


健吾さんの隣りには健吾さんの奥さんのさやかさんにそっくりな人がいた。


「ああ、俺らはここで知り合ったからな。よく3人で仕事のぐちとか言ってさ。そんなときに社長

が店長としてやってきて。社長がこなかったらやめてただろうな、確実に。」

「3人?」


俺が聞くと、健吾さんは無言で父さんの右隣りの女の人をさした。


「この人…」

「俺とさやかと一緒に入って、よく相談とかのってもらったんだ。」


寂しげに言う健吾さんの言葉を俺は右から左にながしていた。

父親の隣りでにっこりと微笑んでいる人を俺は知っていたから。

いや、正確には知りたいと思う人物だったから…


「ハルキ…?」


無言で写真を見続ける俺を不信に思ったのか健吾さんが名前を呼ぶ。


「この人、今はどうしてるの…?」


健吾さんは驚いた表情を見せた。


「たまにふらって顔みせるよ。」

「今は?今はどこにいるの?!」


俺が詰め寄ると、健吾さんは落ち着けと言って俺をなだめた。


「お前、菜々穂のこと知ってるのか?」


そう、彼女の名前は菜々穂だ。父親が驚いた顔で呟いた名前。


「昔に父さんと一緒に会った。」

「それだけか?」


俺は黙ってうなずく。


「なんでそんなに会いたがる?」

「…初めて会ったとき、俺の名前聞いてすごい複雑な表情してた…。なんか、忘れられなくて…」


健吾さんは小さくそうかと呟いて机の上に置いてあるメモ帳に何か書き始めた。


「お前は聞く権利あるかもな…」


そう小さく呟き、健吾さんは俺にメモ帳を渡した。

そこにはある場所への行き方が書いてあった。


「ここは?」

「お前が会いたがってるやつがいるよ、親父と一緒にな。」


健吾さんはそう言うとそのまま黙って机に向かって資料に目を通した。


「ありがとう!!」


俺はそう言って部屋から飛び出した。




ハルキが飛び出し、部屋に一人残された健吾は椅子の背もたれにおもいきり背中をあずけて呟いた。


「余計なことだったかな…」


そう言いつつも健吾の顔には少し笑みがみえた。




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