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思い出

「もうすぐ着くから。」


半歩前を歩く菜々穂さんに言われ、俺はうなずく。


公園を待ち合わせ場所にしたのはいいものの、その後のことをまったく考えてなかった俺に、菜々穂さんが提案を出してくれた。


「ハルキ君さえよければ、私の家で話さない?」


正直何も考えてなかった俺には有難い提案で、俺は謝りながら菜々穂さんの家にお邪魔することにした。

最寄駅から2駅の場所に菜々穂さんの家はあるらしい。


電車に乗ってる間も、降りて家を目指す今も俺たちの間にはあんまり会話がない。

一条ハルキのことを聞くのは、家に着いてから。

そう思うと、俺は菜々穂さんに話かけることができんかった。


「ここなの。」


少し古めの、モダンなかんじの白いマンションを指差して菜々穂さんは俺に言う。

なんとなく上の方を眺めていると、菜々穂さんはエントランスのドアを開けて待っていてくれた。

一緒にエントランスに入り、エレベーターに乗って5階で降り、そのまま菜々穂さんに付いて行く。

角の部屋の鍵を開けると、菜々穂さんは俺にあがるように言った。


「ちらかってるけど・・・」


少し苦笑して言う菜々穂さんにおじゃましますと言い、おれは家の中に入る。

ちらかってると言ったけど、俺にはちゃんと整理整頓されたキレイな部屋で、女性らしく小物なんかが置かれている。

一人暮らしの女の人の部屋に入ったのは初めてで、俺はいまさらながらに緊張してしまう。

そんな俺に菜々穂さんは座るよう言い、飲み物を持って机の上に置く。


「コーラでよかった?」

「はい、ありがとうございます。」


置かれたコーラに口をつけると、思っていた以上に自分が喉が渇いてたことを知る。

炭酸のチカチカする感じが喉を潤してくれた。


半分ほど飲み干すと、俺は菜々穂さんに目線をやる。

聞きたいことがあるはずなのに、どうやって聞けばいいかわからなくて、沈黙が訪れる。

やけに時計の音がうるさく聞こえて、たった1分ほどの時間が長く感じてしまう。


「ハルキ君は・・・」

「え?」

「何が知りたい?」


まっすぐに目を見て聞かれ、俺は考えるより先に言葉が出た。


「菜々穂さんの気持ちです。」

「私の?」

「はい。」


うなずくと、俺はなんだか気持ちが楽になった。

たぶん自分が思っていた以上に緊張してたんだと気付く。

菜々穂さんはそんな俺を見ながらゆっくりうなずくと口をひらいた。


「本を読んだなら知ってるよね?

私とハルキは幼馴染だった。」

「はい。幼稚園の頃から一緒だったって。」


菜々穂さんはうなずくと、近くの本棚から何冊かのアルバムを取り出す。

それは個人的なものだったり、学校の卒業あるばむだったりと様々だった。

いつもそこに置いてるのかもしれないし、もしかしたら、俺のために用意してくれてたのかもしれない。


「これがハル、一条ハルキ。」


そう言ってアルバムの中の写真を指差す。

そこには幼稚園の制服を着て、女の子と2人でニーっとわらった表情の男の子の姿。

一緒にいる女の子は菜々穂さんだ。


「気付いたら隣にいた。

側にいるのが当たり前の存在だった。」


懐かしいような、それでいて寂しいような、そんな表情を見せる菜々穂さんを見て、少しだけ胸がチリっと痛むのを感じた。


アルバムをめくっていくと、園内で撮った写真や、公園やあテーマパークで撮った写真が次々に出てくる。

そしてそこには必ずといっていいほど、一条ハルキの姿があった。


本当に2人はいつも一緒だったんだと思わされる。

そして、1枚の写真が俺の目にとまる。


「コレ・・・」


そこには少しおしゃれをした幼稚園時代の菜々穂さんが、自慢げに髪留めを見せている写真。

髪留めはかわいらしいクマだ。


「私の誕生日会。

いじめっ子に大事にしてたクマの髪ゴムをとられて、ハルが取り返してくれたけど、ボロボロで・・・」

「誕生日プレゼントに一条ハルキがクマの髪ゴムをプレゼントした。」


あとをひきついで言うと、菜々穂さんは微笑んでうなずく。


「それから毎年、誕生にはクマの物をプレゼントしたんですよね?」

「本に書いてあったよね。

まったく、あれだけかぶらずに毎回毎回よく買ったよ。」


あきれたように言うけど、そこには嬉しくてたまらないといった表情がみえる。


「そのプレゼントは・・・?」


俺が聞くと、菜々穂さんは優しい表情をして、部屋を見渡した。


視線をたどっていくと、さりげなく置かれている小物類・・・

それらはクマのモチーフがほどこされたものばかりだった。

一条ハルキのセンスがよかったのか、菜々穂さんのコーディネートがいいのか、これだけクマが飾られているのに、不自然にも悪趣味にもみえなかった。

実際俺は、いままで気付いてもいなかった。


「さすがに髪留めやアクセサリーとかは、もう似合わないからしまってあるけど。」


苦笑して、机の引き出しを見たことから、あそこに大事にしまわれているのがわかる。


「大切にしてきたんですね。」


そう言うと、菜々穂さんは目をふせ、小さく首を横にふる。


「ハルがいなくなったとき、全部しまったことがあるの。

全て捨ててしまおうって思った。

でも、しまってても1つ1つのプレゼントの思い出がよみがえってきて、捨てよとすると、ハルの困った笑顔が浮かんで・・・

毎日毎日泣いてた・・・

今はね、捨てなくてよかったって本当に思ってる。

つらいことや悲しいことがあっても、ここに帰ってくると、元気になれるから。」


ハルが近くにいるみたいで


そう言うと、菜々穂さんは愛おしそうに数字が書かれた服をきたクマのぬいぐるみに視線を向ける。


菜々穂さんは一条ハルキをハルと呼ぶ。

ただそれだけのことなのに、その呼び名すらが菜々穂さんと一条ハルキが近かったんだと証明しているようで、俺はなんだか苦しくなる。


一条ハルキの存在は、菜々穂さんにとって何よりも大切なものだった。

だったらなぜ、父さんと付き合ったりしたんだろう・・・?

そう思い、俺は父さんにした質問をする。


「菜々穂さんは、・・・・父さんのこと好きでしたか?」


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