孤独のお貴族様
私は元々商人の出だった。といっても、父が商人のわりに変にお人よしが過ぎたので実際は手者に大したお金もなく平民以下の生活を強いられた。それゆえのいじめもあった。それに私は耐えられなかった。父がお金を得ようとさえすればすぐにでもお金は入るはずだった。それをなぜしようとしなかったのか、当時の私はおろか、今の私でも良くは分かっていない。
”すまんな、苦労をかけてしまって”
父の口癖だった。それを聞くたびに心の中でやり場のないもどかしさが募っていった。
母が体調を崩しがちになり、とうとう血を吐くようになったため医者に行った。
「これは・・・ちょっと私たちでは対処が出来かねます。王都の凄腕の医師か、あるいは貴族御用達レベルの医師でもどうか・・・」
「そっ・・・それだと費用は・・・」
「だいたい・・・少なくとも3000万は必要になるかもしれません。それほどあなたの奥さんは大きい病気にかかってらっしゃる。不運なことにお身体も丈夫ではなさそうですし・・・」
父の絶望した時の顔を見た時、”やっぱりな”、とどこかで満足したような、父を嘲笑するような自分がいたのを今も覚えている。その状況が自身の父に対する今までの疑問への明白なまでの回答となっていたことも、そしてその感情を抱いた自分への異常なまでの気持ち悪さも。
その日から父は母の為に当てをいくつも探した。幸いなことに父は商人としての人脈が少なからず存在した。やがて2つの候補が見つかった。
一つは没落寸前の田舎の貴族であった。貴族は1500万を対価として、それなりに頼れるが無名の医師を紹介するということだった。
もう一つは逆に超が付くほどの大貴族であった。こちらは王国指折りの敏腕医師を無料で紹介、更には費用もすべて負担し、代わりに私を養子へ向かい入れるということだった。なんでも、若いころに跡継ぎもなく妻を失った現当主様はその後誰かと再婚することもなく今では子も成せないほどの齢に至ってしまったそうだ。
普通に考えれば、後者の方が圧倒的に合理的で理にかなっていた。なにより、母の助かる可能性も、普通の人間ならば望んですらなることの叶わない貴族の養子となることも損どころか儲けものである。これ以外に選択肢はないように思えた。しかし父は違った。仕事終わりに家に帰っては酒におぼれ、涙を流し、悩み、そして苦しんだ。”なぜか”と理由を問うと、父は言葉も発さずただ私を抱きしめた。強いアルコールの匂いがした。父は結局、大貴族と手を取り、私は貴族の養子となった。
”すまんな・・・ほんっとうに・・すまないっ”
本当の父とは、それ以降会っていない。
豪邸での生活も馴染み始めた頃、母の訃報が届いた。その時私の中にあったのは悲しみ、虚無、ましてや絶望なんてものでもなく、冷たく暗い海の様な、絶対的な孤独感だった。




