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城をつなぐ国~迎え女官④~

 アナベルこと織鐘が末姫の傍仕えとして過ごし始めて1か月が経過した。末姫は彼女をオリガと呼び関係も良好である。

 末姫は、鬢胡のしきたりを始め所作など織鐘から教わっている。元来弟妹の多い織鐘はこの末姫に優しく教え続けている。しかし、彼女はやる気が続かない。屈託ないと言えばそれまでだが、何を言っても許される立場だからなのか、美貌で有名なことを理解してなのか、無邪気に無理難題を言ってくる様子がある。なんとか彼女のやる気をつなぎとめることに織鐘は躍起になっている。

 末姫の周りには傍仕えの筆頭サアカと呼ばれていた女官がいつでも控えている。彼女が与えられた名前は小銅(さあかがね)。末姫は、サアカと呼ぶが、他の女官はアカガネ様と読んでいる。この国の伯爵令嬢であったが、童殿上から傍に仕えているそうだ。正直多少わがままの多い末姫に対してアカガネがたしなめることで成立していることが多いようだ。歳は織鐘より少し上くらいには見える。

 もう一人お傍にいるのは、ヨハと呼ばれる男性であった。すらりと長身で博学、末姫には與鋼よはがねという名をもらっていた。彼もまた伯爵家の生まれ。しかし三男ということもあり、爵位は継げないのか末姫の侍従として宮仕えをしている。真面目な臣下…ではあるが、織鐘には末姫に対する事務的な方…と映っていた。末姫を崇拝する女官たち、ほとんどが末姫のお気に入り。そんな中異質を放つ與鋼…王族に使えれば全員名をもらえるわけではない。これからを共に忠誠を誓い、また背中を預けられると信用されて初めて名がもらえる。

 織鐘は、迎え女官として来ているため、特別である。鬢胡の代表として来ていてすべてが鬢胡に伝わる。初日から彼女を受け入れているというアピールになる。末姫は天真爛漫に見えて意外と策士なのだろうか。初日に名を渡したことをアカガネは、驚いているようだった。ということは、與鋼が知恵を授けたか…とにかく織鐘の様子をまじまじと見ているこの男に対しては気が抜けない。


 鬢胡にもついてくるのだろうか…


 関係性だけは悪くしたくないが、とっつき難い人だ。織鐘は、人付き合いの良いほうで、他の女官たちともこの一か月関係を築いてきたつもりだ。アカガネは、厳しいが悪い人ではない。織鐘の誠実な仕事ぶりに対して評価をしてくれている。しかし、この男は話すらできない。

 男性に対して苦手意識を持ったことは今までないが、全く会話にならないのである。そもそもアカガネと末姫にしか話をしている様子が見られない。もしも共に国に行くのであれば関係性は作っておきたい。一度、鬢胡の菓子を作りふるまったことがあった。末姫も毒味のあと、召し上がってくださり、


「これが鬢胡の味の家庭料理なのね。私は食べることがないかもしれないけれど作り方を知っておくのも良いかもしれないわね。」


本心なのかどうかはわからないが、そう言ってくださった。鬢胡の食事は、結城の味付けと異なるものが多い。濃いと言ってしまえばそれまでだが、調理方法なども変わってくる。料理に興味を持ってもらいあちらに行ったときに順応してもらうために良いきっかけであると思った。好評の菓子を與鋼にも食べてもらおうと菓子を勧めた


「私は結構です。」


と冷たく言われた。


「菓子も大事かもしれませんが、あちらでの食につなげるにはまずは姫の食事に一品親しみやすそうな品をつけるのもいいのではないでしょうか。」


と付け足された。私のやっていることに不満があるのであろうか。冷ややかに言われ、カァっと顔が熱くなる。


「こ、これはとっかかりになればよいかと…」


差し出した焼き菓子を胸に抱いてそのまま踵を返した。味方とは思っていなかったが、否定されたのではないか…やはり自分にはこの大役は難しいのではないか…そう思うと感極まってしまったのだ。


調理の片づけをすると言い残し、姫の居室を後にした。片づけをしながら悔しさで涙が出た。調理器具を洗っているときに胸元のペンダントが目に入った。織鐘の家名でもある黒光りするオニキスのペンダントトップは、彼女の涙を弾き更に輝いて見えた。


「オニキスは魔除けの意味があるから、きっとお前を守ってくれる。」


母からもらったこのオニキスは、弟妹を守りたい自分を守ってくれる…。こんなところで泣いている場合ではない。


残った焼き菓子を細かく砕いて、サラダの上にかけたものを料理長にお願いして夕食に出した。

「與鋼様のアドバイスと生かして一品作らせていただきました。」


しれっとした態度で織鐘はそういった。少し驚いた顔をしている與鋼のことなど、見ないようにした。


「まぁ。先ほどの菓子パリパリが良いアクセントになって美味しいわ。やっぱり時間ができたらオリガと料理をしたいわね。」


 知ってか知らずがにっこり微笑んで、末姫は召し上がるのであった。


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