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城をつなぐ国~迎え女官②~

 結城の王族には、決まって美しい御子が誕生する。とりわけ末姫の「照鈴(しょうりん)」様は、本山から一度も出たことがないのにもかかわらず、その美貌が称えられこの大陸中にその名を轟かせている。すぐ上の姉姫である「貴鳥きちょう」様は、王族と所縁の深い公爵家に降嫁され、アズマで過ごされることもあり、そのお姿を見たことのあるものもいる。この世の者とは思えぬほど肌は透き通るように美しく、嫋やかな御髪、微笑んだ姿は天女かと馬車で通り過ぎる姫御寮人様と目が合ったなどと失神するものもいるらしい。そんな貴鳥様よりも上と言われるその末姫様の美貌を皆が皆、見てもいないのに崇拝している始末である。


「ヒロ爺が言ってたのって末姫様がもうすぐ輿入れするってことだよな。」


喫茶古都では、迎え女官が来たという話で今度は盛り上がっている。


「迎え女官って一体何なんですか。」


アズマのことは何でも知っている自負があったのに、まだまだ知らないことがあったことに気恥ずかしそうに、女将のヤヨイは常連たちに尋ねた。迎え女官というのは、他国に嫁ぐ際にその国の仕来り、作法、言語の表現について一定期間、姫君は手ほどきを受ける。姫君に教授するために他国の貴族などの中から、輿入れしてからもずっとお傍に侍ることになる者を選びお迎えするために本山に入山する女官を指すと、博学なカンさんが先ほどの一行がそれだと気づけなかったことへの汚名返上とばかりに得意気に教えてくれる。そんなことがあるのかとヤヨイは感心しながら話を聞いていた。


「公爵家の姫御寮人様にそんなのがなかったのは、この国で嫁いだからなんですね。」


と自分が来てから輿入れを見たのに知らなかったのではなく、ルールが違うのかなど変に納得もしていた。


しかし、ヒロ爺は何故あんな顔をしていたのだろうかと疑問にも思った。絶世の美姫と言われる姫君の他国への流失がそんなに嫌なのかと疑問にも思った。それを悟ったのか、ここぞとばかりにリイチがキッチンのほうから出てきた。小柄の瘦せ型で、風で飛んで行きそうなほど華奢な男で、どちらかというと女性の中では大柄と言えるヤヨイとは凸凹コンビだが妙にしっくりくる2人である。

お世辞にも社交的とは言えないし商売の素質もない。しかし、コーヒーを入れることと定番メニューの味を守ることは誰にも負けないし、上手くは表現できてはいないかもしれないが、ヤヨイに対する愛情は誰にも負けない。そんな不器用な男の愛情をヤヨイはちゃんと理解している。リイチは、客の顔色をうかがいながら少し咳払いをしてから話し出した。


「もう10年以上前に、二の姫様の迎え女官が来て以来の迎え女官だからね。ヒロ爺も思うところがあったんだと思うよ。二の姫様の輿入れはあんなことになってしまったから。」


キッチンのほうから自分の疑問に答えてくれた、緊張して上擦った声の旦那に愛おしさがこみあげてくる。そして、ヤヨイは納得に至った。


 ~二の姫様は輿入れの時に御不幸があって、嫁げずに王家御料地にて静養を続けている。~


これは、結城の人々にとって暗黙の了解事項である。二の姫様は、ヤヨイは歳が近いことから憧れたし、嫁ぐ前の出来事で地方にいたヤヨイにとって、憧れの姫君の不幸は自分のことのように胸を痛めた。国民の中にも結城の姫君には珍しく外交等も積極的に行っていたというニの姫様であるし、根強い二の姫ファンは多いのである。


「でも末姫様の嫁ぎ先ってあの鬢胡びんこって話だろ。なんで最愛の末姫様を陛下も嫁がせる気になったのかね。」


何の気なしに言った最近お馴染みさんになった男タマルに、古参の客シユマが慌てて


「おいおい、そんなこと誰が聞いてるかわからないんだから言うんじゃないよ。末姫様の縁談にもかかわってくるだろ。壁に耳あり障子に目あり、ここいらだって結城の者だけってわけじゃないんだぞ。」


と、制止した。


すいませんという顔をした客とあきれた顔をした客。そう、この縁談に納得していないものもいる。鬢胡は、軍事力の強い国で平和を第一に考えるこの国とは価値観がきっと違う。末姫様は平和のために人身御供のように嫁がされるのではないか。そういった憶測が後を絶たないのだ。この辺りにも鬢胡の内通者がいないとも限らない。

 しかし、温厚な陛下が嫁ぎ先として選ばれたのだから、きっと末姫様は幸せになってくれるだろう。だからこそ末姫様は無事に嫁がれてほしい。ヤヨイはそう思うのであった。



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