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城をつなぐ国~迎え女官①~

 八百万の神が信仰され、また神に守られていたユーガタリアの大陸には現在大小様々な国が列挙している。その中で南東の方向に位置する国を人々は「結城」と呼んだ。

 この国の民は温厚で主に農業に努めている。他の国では、未だ奴隷制度など残る国もあるのに、この国にはそういったものがない。いうなれば平和なのだ。そんな結城の国は北と南には連峰が聳えているが、国土の中心よりやや北あたりに拓けた土地が広がり、こじんまりとした独立峰が腰を据えている。その山自体が結城の王族の城となっており、人々は「本山」と呼ぶ。

 本山には、選ばれた者しか入山できず、本山には選ばれし王侯貴族の居と一流の商屋の店舗が軒を連ねる。本山に入山することがこの国のステータスなのである。本山の中がどうなっているかは入ってみないと分からない。ある人は絢爛豪華だといい、ある人は質実剛健で無駄のないようだという、入山を許されたものにしかわからないそれが本山なのである。無断で入ろうとしても鉄壁の防御でそれは叶うことがない。本山は大きな城門で守られている。この門が閉じてしまえば、本山に入山することは叶わず、正に要塞となるが、この結城という国は民も温厚であれば、王族も争うことを嫌う。国々をつなぐことに日々奔走するような国なのである。「古より続く王家」結城の国は、平和を重んじる国であった。そういった王家のことを理解しているためか、城門破りをしようなどと考える民はいないのである。


 本山の麓にはアズマと呼ばれる城下町となる都市が広がっている。アズマから本山を眺めることが粋な楽しみ方であり、地方から観光に来たり、商売をしにきたりする者も本山は眺めるものだと思っている。アズマの人々は、城下町であることにプライドを持っており、躍起になって入山許可をとりたいと考えるものはさほどいない。あわよくば本山のお眼鏡にかない本山に店舗を出して箔をつけたいなどと思っているが、宝くじに当たるようなものだとはなから期待している様子はない。入山が決まった店に対しては当然仲間として喜ぶし、内心やっかみもするが、入山するということは秘匿義務や家になかなか帰ることができないなど規制も生じるため、大変そうだと思うところもあるのである。


 アズマの中心部に位置する場所に喫茶「古都」は、アズマの情報がすべて入ってくる。馴染みの客も多いが、地方に住む人々もアズマに来たときは一度は行ってみたいと話題の店なのである。この店の女将は名前をヤヨイという。長い髪を一つにまとめ上げ、着物を粋に着こなした上に前掛けを申し訳程度にしている。もともと何代も続くこの店の跡取りが商売の才がなく、困り果てた先代が地方ではあるものの人気を不動とする商屋で才を見込まれた次女を頼み込んで嫁入りしてもらった。輿入れして7年、ヤヨイは、すぐにアズマに馴染み、旦那のリイチよりも根っからのアズマの住人のようで、情報の集まるこの店にいるからかアズマの端から端まで知らないことはないくらいに何でも知っていた。


 喫茶古都の女将ヤヨイに名を覚えられること


これが最近のアズマっことしての流儀である。地方から出てきて一旗揚げたい者も、これが最初の関門として立ちはだかる。何をバカげたことを…と内心思いつつ、私がアズマの顔となってるのかと嬉しくも感じていた。


 ある日、ヤヨイは嫁入りしてから初めての光景を見た。数台の荷馬車と絢爛豪華な馬車の一行である。明らかに結城の国の馬車ではない。結城の国では外交を行うとき本山には極力通さずアズマにある迎賓館を使う。しかし、あの馬車は明らかに本山に向かっているのだ。喫茶の中でもあれは何かの手違いで本山に向かってしまったのか、はたまた常軌を逸したものが本山に乗り込もうとしているのか話は大いに盛り上がった。

 そんな客やヤヨイをまだまだアズマ通ではないなぁと言わんばかりの顔でコーヒーをすする一人の老人がいた。いつもカウンターの端で本山を眺めながら半日を過ごすご隠居を常連たちはヒロ爺と呼んでいた。ヒロ爺のその表情に気が付いたヤヨイは


「ヒロ爺は、あの御一行が何が御存じなのですか」

と、笑顔で尋ねた。

ヒロ爺は何やらもの言いたそうに顎髭を触りながらこう言った。


「あれは、末姫様の迎え女官の御一行だよ」


そう言った後、悲しそうに笑った。コーヒーを飲み干し、ヒロ爺はいつもよりも喫茶古都を早くに立ち去った。

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