なんか知らんけどアドバイスしてくる奴
一人の青年が芸術の道を歩んでいた。
この道を歩んでいるのには理由がある。
しょうもない理由だ。
大したことのない理由だ。
要するに自分の持っている能力の中で絵描きの才能が一番あったというだけ。
好きこそものの上手なれなどと言うが、本当にそういうものかもしれない。
自分が最も自信のある能力故に青年は自信家だったし、もっと言ってしまえば傲慢だった。
「尊敬する画家は?」
数えきれないほど聞かれた言葉。
青年はいつだって答えていた。
そんな人なんていない。
ポーズではない。
心からそう思っていた。
青年の技術は全て我流だった。
自らの才能が絶対だと本気で信じていたからだ。
実際、青年の才能は凄まじいものだった。
それなりに進むことが出来る程度には。
しかし、天才である青年の数十年も積み上げてこられた千年以上の歴史が相手では分が悪い。
脈々と受け継がれてきた技術と歴史。
その中には青年と同格の才能を持つ者も居たのだから当然と言えば当然だろう。
故に青年はある日行き詰ってしまった。
そして、青年は今さら誰かに教えを乞うなんて事は出来なかった。
それが敗北だと思ってしまうほどに彼は自分の人生を、意味もないスタイルを確立してしまったのだ。
*
「苦しんでいるようだね」
ある日、青年の前に一人の女性が現れた。
停滞をしてしまってからもう数年が経つ。
もっとも青年はそれでも既にそれなりに有名になっていたけれど――。
「我流でよくここまで進めたものだ。称賛に値するよ」
女性を無視して青年は絵を描き続けた。
誰が相手でも青年はこの態度を崩したことは一度もない。
「だけど、ここがよくない」
そう言って女性は青年の作品を指摘した。
「本来なら子供でも知っているような過ちだ。だけど、君はそれを直さないままにここまで来た。驚嘆に値するよ。おまけにその歪みは既に君の味となっている」
不躾な女だ。
青年は舌打ちをしたがこの時ばかりは従った。
「へえ。話を聞いてくれるんだ」
意外そうな女性の声に青年は頷いた。
気まぐれの服従は作品のレベルを明らかに一つ上げていた。
「見違えただろう?」
悔しいが認めざるをえなかった。
青年が必死に学ぶことを拒んでいたために停滞していた時が繋がったようだ。
「あと数点、気になるところがある。聞いてくれるかい?」
女性の問いかけに頷きながら、青年はちらりと背後の扉を見た。
言うまでもなく鍵はしっかりしまっている。
そのまま彼は視線を動かし窓を見た。
やはりしっかり閉まっている。
最後に青年は女性の顔をまじまじと見つめた。
「私のことを知っているかい?」
くすりと笑う女性に青年はあっさり首を振った。
まったく引っかかるところがない。
「そういうところがいいんだよ。君は」
女性は噴き出して笑う。
とっても楽しそうに。
「私のことを知りもしない。そんな人だからこそ私は現れることが出来たんだよ。きっと」
どうでもいい。
青年は吐き捨てる。
「今までで一番可愛げのない弟子だ」
*
結局青年は生涯、彼女の正体を知ることはなかった。
当然の話だ。
何せ、必要な知識は全て彼女から学んだのだから。
一方で芸術の世界を志す若者たちは美の女神と呼ばれた古代の女性画家と、近代になって現れた偏屈な芸術家の技術を今日もまた馬鹿真面目に歴史と共に学ぶ。
『尊敬する画家は?』
そう聞かれたら即答するほど熱心に。




