お兄ちゃんは大変!
いつも感想と誤字脱字報告ありがとうございます。励みになっております。
今回はお兄ちゃんって大変だ〜〜〜〜〜!!って感じのお話です。どうぞ、よろしくお願いします。
ほんと、困ったことをしてくれたね弟よ。
……ん?怒らないのかって?ははは、何を言っているんだ。もうそんなことで済む問題じゃなくなっちゃってるんだよ。
それにもう何度も何度も陛下と妃殿下に叱られているのだろう?なら私が言ったところで逆効果じゃあないか。今必要なのはお前に対して怒ったりお前にやらかしたことを自覚させることではなく、関係各所への調整と話し合いだよ。
……………。…話を本当に聞いていたのかい?まぁ、そうだな。お前の言っていることも一部は正しい。
イラス男爵家の令嬢だっけ、彼女とお前の結婚は認められるだろう。ノースカロス家のご令嬢との婚約はお前の望み通り破棄されるし、お前が成人後に受け継ぐ予定だった王領も何事もなくお前のものになるだろう。だけど、お前が今持ってる大公の位は伯爵にまで降爵されるし二度と王子とは名乗ることは許されない。辛うじて継承権は残るけどお前の子供には与えられないよ?当然だろう?
お前は侯爵家と教会を敵に回したのだから。─あぁ、男爵令嬢がどうこうされたという話は一旦置いておくよ。きりがないからね。私は事実だけを述べる。感情論や法的根拠の薄い証言は『今は』切り捨てる。それが不満なら……そうだね、この部屋から出ていってもらおうか。その場合王太子である私と伯爵になるお前が、顔を突き合わせてしゃべることは二度とないけれど……。その場合、お前がしてほしいことは決してできなくなるねぇ。……そう、話を聞いてくれるんだね、ありがとう。
うん?侯爵家はさておき教会はどうして?ははは、当たり前だろう。神の名においてお前と侯爵令嬢の婚約を認めたのは教会だよ?お前たちは神に『将来結婚する』と誓ったんだ。その書面は教会にある。まぁ、簡単に言うと神に誓った約束をお前は破った。神に誓うということは教会に誓うということだ。……わかるね?お前は教会の顔に泥を塗り、神を軽んじた。だから敵に回ったんだよ。
そして、この大陸において教会とは人間を洗礼によって人として認め、王に王権を授ける…いわばこの世でもっとも権威があり、絶対的な『身元保証人』。ここまでいってわからないなら手のつけようがないんだけど……そう、お前は破門されてもおかしくない。破門されてしまったのならさすがに私も陛下もお前を殺すしかなくなってしまうからね、お前は自分の母君である側妃によく感謝するように。………なぜって?あれ、お前知らないのかい?お前の母君は前教皇が秘密裏に産ませた前教皇の庶子だよ。庶子を妃としてひきとったからわが国は教会と蜜月を築いていたのさ。だから教会という組織を敵に回しても破門されなかった。教会の上層部は前教皇の利権を享受しているからね。まぁ、一部は関係ないから暗殺者は差し向けられるかもだけど。そう、少なくとも人として死に、墓に遺体を納め、天の国に登ることを許された。
……………うん。ようやく自分がどれほど危うい状況だったか理解できたようだね。兄はうれしいよ。
だけどお前は痴情のもつれで王家の権威を失墜させたんだ。お前は謹慎しているから分からなかっただろうけど、もう毎日毎日侯爵殿は嫌味を届けてくるし着々と王家から引き払おうと準備をしている。王家の信用も失墜したせいで金も暴落、商人も目端の利くものは他国へ逃げる者も出始めた。貴族間の混乱も婚約の組み直しだったり離婚騒動、文官たちも手続きのせいで家に帰れていないし警邏隊もどこで暴力騒動が起こるかわからないから常に巡回し、騎士団も貴族の裁判をするために走り回って疲れ果てている。大変なことになっていっそ笑えるね。誰も彼もが追い詰められている。
……自分がどれだけ恵まれているのかもようやく少しは理解できたようだ。よかった。おめでとうこれでお前はまた一歩死から遠ざかったよ。
そう、この部屋から一歩でも外に出ればお前を恨む人間はそこかしこに潜んでいる。侯爵家も、貴族も、教会も、文官も武官も、騎士も、もしかしたら王妃殿下もお前の死を望んでいるかもしれない。お前のせいでこの国はめちゃくちゃだ。陛下と私、そして側妃殿下と前教皇に守られていることをしっかり自覚するように。
……………ふんふん。ならこの状況で伯爵を継ぐことはできないのではないかって?できるよ。
だってお前はこれから離宮で一生を過ごすんだもの。王宮に入ることができるのは伯爵家以上の位の持ち主だけだからね。明日にでもイラス男爵令嬢と書面で結婚してもらって、伯爵夫人となった令嬢と一緒に宮にいけばいいだけだ。生活費は伯爵領となる王領から出るから安心して。離宮で仕事をしてくれれば王宮から予算も出る。お前は愛する女と結婚できて、命を守られながら仕事ができる。いい話だろう?
え?外になんて出られるわけ無いだろう?夜会や茶会なんて以ての外だ。贅沢だってさせるつもりはない。質感のいい室内着と少しの装飾品を買える程度の生活費は与えるけれど……それだって今よりは劣るが伯爵家としては相応のものだ。むしろ王宮の人員を使う都合上人件費は普通よりずっとやす…………まさか、お前はお前に付き従う者たちへ給料を払うという発想もなかったのかい?これは…………想定外だな………??どうしよう、お兄ちゃんは少し混乱している。生きるために職を求めてるのだから生活のために賃金を求めるのは当然のことだろう…?そも、お前の生活は侯爵家によって支えられていた一面もある。その分の支援金が消えたのだから前より劣る生活になるのは当然だろう…?あ、どうしたそんな顔を真っ赤にさせて。何が気に食わないんだ……婚約をなくしたのだから侯爵家がお前を支援するわけないだろう、敵だぞ?あわよくば命を狙ってるんだぞ?彼らを説得できたとして、それは必ず暗殺チャンスを狙うためだけだぞ?
あ、よかった落ち着いてくれた。そうそう、常に命を狙われていることをちゃんと頭に置いておくんだ、お兄ちゃん庇いきれないからな??よし。
安心しなさい、お前の周囲にはお前の母君が派遣する人間しか置かないし、予算関係は私が処理する。外に出られないということを除けばお前は十分恵まれた生活を続けられる。愛する女の機嫌しか考えることはない。ほら、理想郷だろう?
……、…………。仕事をしろといったのに考える必要がないのはどういうことかって?当たり前だろう。お前がする仕事は『子作り』だからだ。
バカにするなって?してないとも!大真面目だ!この国の王族で、健康的な未婚な若者は私とお前だけだ。知っているだろう?私たちは母は違えど二人きりの兄弟だ。父上は先代陛下の一人息子、兄弟はおらず、国内の最も近しい王家の血を引くのはさかのぼっても四代前に降嫁し、今代で継承権をなくし公爵から侯爵になったシューゲル侯爵家の当主のみ。この国は女の当主は認めていても女の王は認められていないからな。先々代陛下の王女はまだ健在だがもう高齢であるしなにより神の花嫁となられている。私の母である王妃殿下は私を産んだ際、難産ゆえに子を成せなくなりそれゆえお前の母君を陛下は迎えいれたが…側妃殿下の子もお前のみ。
つまり、私達二人に求められているのは最低でも三人は子を持つことだ。これだけで王家の血を引く子供は六人になる。お前の子に継承権はないが王家の血を引く伯爵家の子供であることは間違いない。いくらでも使いようがある。
……私の子供をそんな物のように扱うなと?何を言っている。お前のかわりにお前の子供を使うだけだ。
いっただろう?侯爵はお怒りだ。せっかくお前を入婿として迎えいれ、この国で唯一の公爵家になるという野望を抱いていたのにそれはもはや叶わない。ならば、考えることは二つ。
一つ、お前の婚約者であったご令嬢を私の妃にする。
二つ、私かお前の子供を養子として迎え入れ分家のものと結婚させる。
一つ目も二つ目も公爵家になることはできない。当たり前だ。公爵家は王位継承権のあるものしか名乗れぬ位、ゆえに大公の位を持つ王子を迎え入れ、その血に継承権を受け継がせる。三代までしかないがそれでも王位継承権を持つということがどれほど大きいことか……。
ごめん、話がそれたね。うん。
まず一つ目、これがなんでだめかはお前も知っているね?そう、私には婚約者がいる。それも魔石関連の輸入条約を結んでいる同盟国の王女だ。勿論王女が王妃となる。そんな中正当な婚約者と結婚してもいないのに側妃を持つなど国同士の信用問題に関わってしまうよな?万が一、上手く二人を妃にできたとして次は王太子の問題で国が荒れてしまう。
当然、侯爵は孫となる子を推すだろう。同盟国を疎む貴族たちも。子を作らないという選択肢はないから必ず子は生まれる。──産ませる。
しかし国としては当然王女との間に生まれた子供を王にしたい。だってその子を王太子にするだけで関税が大幅に下がる。ね?わかるだろう?最悪戦争だ。避けたいよね?少なくとも私は避けたいなぁ。命がもったいないからね。だから側妃はなし。子を増やすという問題もあるからいつかは迎え入れる必要はあれどそれは今ではないからね。
次に二つ目、王家の血を引く子供を養子に渡す。これは単純。公爵にはなれなくともそれに準じる立場になれる。発言権は高まるだろうねぇ。
私の子供は政略上、王になる子とその予備、三人目以降は政略結婚に使う子となるから渡すことはできない。なにより継承権を保持している。それを野心深い侯爵に養育権を渡すのは……恐ろしいよ。
だからこそ渡すのはお前の子だ。継承権のない子しか渡せない。……それは嫌だと言うことは許されない。お前は、侯爵を、怒らせた。お前の命が今もあるのは将来生まれるお前の子を担保として『今は』見逃してもらったからだ。それだけでも足らなかったから王家は侯爵に慰謝料として王領を割くことになり、王都と彼が所有する商会が取引する際に発生する税を下げることとなった。それでも怒りは冷めやらぬから死なない程度にお前を痛めつけたいと暗殺の機会を伺っている。
あ、どうしたそんな青い顔をして、大丈夫大丈夫、もし暗殺者がきても騎士がお前を守ってくれる。安心しなさい。
それに、渡すのはお前の愛する女との子でなくてもよいんだ。
………………。どういうことだって?簡単なことだ。わかるだろう?
彼女を裏切れと言うのかだって?ははは、お前はすでに婚約者を裏切っているのだから一度も二度も変わらないだろう?裏切りではないと言わせないよ。婚約期間中にあの女と睦み合っていたのはすでにみんな知っているんだよ?それに、お前はあの女が子を産んだその次の日から、次の子を仕込む事が出来るのかい?子を産むのは命がけだ。…死にかけの女に、そんな鬼畜なことをするのかい?
………………いっただろう?お前の仕事は子を作ることだ。それは誰との間の子供でもいいし、多ければ多いほどいいんだ。男でよかったねぇ、お前。痛い思いも、苦しい思いもすることなくたくさん子を仕込める。安心しなさい。お前のもとに行くのは出産経験のある未亡人だけだ。勿論合意をとっての、ね。
認めるも認めないも、お前の処遇は決まっている。安心しなさい。お前は幸せになれる。女と一緒に命尽きるまで。
お前の子供も私が責任持って教育して育てよう。裏切りがバレるのが恐ろしいのなら、バレないように手はずを整えてあげよう。何を恐れることがあるんだい?うん、うん、いいよ、私はお前のたった一人のお兄ちゃんだからね。お前の不安は取り除こう。守るとも、お前も、お前の大切なものも。……代償として、いくつか自由は奪うけれど、それを許してくれるかい?
もちろん、お前たちを殺させはしないよ。どうか、この兄を信じてくれ。
…………、侯爵令嬢がどうなったかって?安心なさい。彼女は今文官として働いていてね、そこでとある子爵家の令息と知り合ったらしい。今は順調に仲を深めているそうだ。はたから見ても幸せそうだよ。少なくとも、お前の子供に対してひどいことはしないだろう。もしかしたらお前の子と彼女の子が結ばれるのかもしれないね。
ん?あのパーティーで彼女に求婚した帝国の王子はどうしたんだって?………あの男、ね。
彼は国に帰ったよ。当然だ。彼は身分を隠して王国にやってきた密入国者だよ?さすがに自由に動かれるのは困る……丁重に帰国していただいたよ。いくら強国とはいえそんなことをされるとこれからの信用問題に関わってしまう。大使が手引きしてたようだから大使も代えてもらったさ。せめて陛下と王妃殿下、そして私と外務大臣には話を通していてほしかったね……。あの求婚劇も、私が割り込んで本当によかった。あそこで令嬢が頷いていたら令嬢は国賊だ。侯爵は必ず兵を起こしていただろう。
……なんで国賊か、だって?……………………本当に、お前の教育担当は何をしていたんだ……?また調べなくてはいけないのか……????
あ、ごめん気にしないで。
ほら、彼女はいつか離れるとはいえ王家の、王子の婚約者だったんだ。王家のあれこれはしらなくとも、王領を治める立場になるために教育を受けていた。つまり、王家の土地をよく知っている。これは国外に出すことのできない情報だよね?わかる?よかった。
それをもつ人間が、他国の王子の求婚に頷いたら国の情報を外に出すことに同意したとみなされる。国家機密の漏洩は死をもって償うことになる。…それを考えられない人間を王家の末席に加えることにならなかったことだけは、まぁよかったのかなぁ。…………あの女もたいがいだけど…外に出さないから…かろうじて許せるか…。
ん?ごめんごめん。大したことは言ってないからきにしないで。
とにかく、お前は何も考えなくていい。私が守るよ。私が、お前たちの幸せを傷つけさせない。いいね?
大変だろうって?もちろん、大変さ。でも苦労するのも弟を守るのも、それがお兄ちゃんってものだろう?
ね?ほら、泣かないで、大丈夫。大丈夫。民も、貴族も、国も、家族も、そしてお前も、私が守るとも。だから、
お前は、何も考えず、何もせず、穏やかに、
──末永く生きて、死んでくれ。
第二王子:やらかした王子。前教皇の庶子と国王の間に生まれたラッキーボーイ。この生まれがなかったら破門されても殺されていた。子供は八人できた。兄が怖い。
王太子:めちゃくちゃ頑張ってる。人の心は正直ないけど人の心は大変よく分かるのでヤバい人の説得が得意。家族を愛してるのは本当だから頑張った。命あっての物種だよね!人権意識はあんまりない。王としては優秀。子供は四人できてしっかり育て上げて賢王として名を残す。
男爵令嬢:やらかした。これから先三人子供を産んで何も知らずにそれなりに幸せに生きる。贅沢できないことと自由がないことに怒りながらも何も知らずに生きれた。
侯爵令嬢:野心強い父と無関心な母、冷たい婚約者に囲まれて愛に飢えていた。プライドが高い。帝国の王子の求婚に揺らいだが王太子の割り込みで有耶無耶に。このあと王太子が用意したハニトラ要員の王家の影(子爵令息)と良い感じになって結婚して幸せに生きる。夫に監視されてることは生涯しらなかった。
帝国の王子:身分詐称して学園に入学、一目惚れした令嬢と結婚するために身分を明かして連れ去ろうとした。実はやらかし男。第二王子のやらかしを後押ししたこともあり王国を敵に回してしまったので本国ではめちゃくちゃ冷遇される。




