なんだかんだで飼い主が一番
あれから不来方と特にこれといった会話は発生しなかったが、別に居心地悪さを感じることはなかった。
前に似た状況を経験したことがあるというのもあるが、多分、俺も不来方も沈黙を苦にしないタイプだからなのかもしれない。
そんなわけで俺も不来方も各々好きなように自分の時間を過ごしていた。
——とはいえ、流石にこれはだらけ過ぎか?
今の自身の姿を顧みて、今更ながらに思う。
クッションを枕代わりにして、ソファの上でぐでーっと寝転がっている。
自分で言うことではないが、客人を前にしてとって良い体勢ではない。
とはいえ、俺がこんなになっているのは、不来方に「普段通りにしていて欲しい」と言われたからだ。
じゃなきゃ今でもちゃんと姿勢を正しているっつーの。
なので、今の俺は完全に家で一人で寛いでいるモードに入っているわけだが、いつも胸元か足下にあるはずの温もりがなくて若干の物足りなさを感じていた。
(……セツがくっ付いていないとこんなにも違うとは)
ちらりと不来方を横目で見ながら、そんな感想を抱く。
普段は俺に温もりをくれているセツはというと、現在も彼女の膝の上で気持ちよさそうに眠っている。
そして、あまりにも心地よさそうにしていたので、
「あー、いいなー」
思わずそう呟いてしまった。
直後、不来方の胡乱な眼差しが俺に突き刺さった。
「い、いや、決して変な意味じゃねえからな!」
何か嫌な勘違いをされても困るので、俺は慌てて起き上がって弁明する。
「ただ単純にセツがあったかそうでいいなって羨ましくなっただけで……!」
「……まだ何も言ってないんだけど」
「目が完全に不審者を見るそれなんだよ」
言えば、不来方はほんのり眉を寄せるが、図星だったのか僅かに目を泳がせた。
まあでも、だからといってそれを咎めるつもりはない。
不来方にそういう反応を取らせたのは、俺の言葉が足りなかったのが根本の原因なわけだし。
もう一度ソファに横になる傍ら、不来方は視線を落としてじっとセツを見つめると、セツを抱いて静かに立ち上がった。
そのまま俺に近づき、俺の胸の上にセツを降ろした。
「はい、どうぞ」
「……いいのか?」
「いいよ。アンタのところの子なんだから」
不来方がそう言った直後だ。
このまま帰ってしまうのではないかと思ったのか、セツが不安を紛らわすかのように俺の腹の上でくるくる回りだす。
「ぐえっ」
——あの、俺の上で暴れないで……!
けれど、俺がうめき声を上げる傍らで不来方がソファに掛け直すと、すぐにぐでっと寝転がってみせた。
寝るの早っ!?
こいつ、どんだけ不来方のことが好きなんだよ……。
なんて思っていると、不来方がこちらを見て小さく息を吐く。
「……やっぱり飼い主が一番なんだね」
「そうか? 俺からすれば全然そんな感じしねえけど」
俺への態度結構ぞんざいだし。
「それはアンタが無自覚なだけ。誰かの上で横向きになって寝るなんて、よっぽど信頼してないと普通しないよ」
「ふーん、そういうもんなのか」
指でセツの喉元を撫でれば、セツは目を細めて、うんと伸びをする。
……ま、離れられるよりは密着してぐうたらされる方がずっと良いか。
もふもふであったかいし。
「ていうか、不来方って犬のことに詳しいのな。昔、飼ってたりしてたのか?」
俺の問いかけに不来方はふるふると頭を振る。
「前にネットとか本で調べただけ。……飼いたかったけど、経済的にそんな余裕なかったから」
「まあ、動物と暮らすのって何かと金かかるもんな」
実際、我が家もセツを迎え入れる為に必要なペット用品を一から買い揃えるのにそれなりの費用がかかった。
そこに日々のご飯代や生活用品も上乗せするとなると、飼いたくても断念するしかないというケースも少なくないだろう。
「じゃあ、今まで飼えなかったフラストレーションをセツで解消してくれよ。不来方が遊び相手になってくれれば、セツも喜んでくれると思うし」
な、と呼びかけながらもう一度喉元を撫でてやれば、今度は大きなあくびが返ってきた。
やっぱこいつ、俺に対しては自由すぎんだろ。
気ままなお嬢さんに内心苦笑していると、
「……そうだね」
不来方はぽつりと呟いて、ほんの少しだけ表情を柔らかくした……ような気がした。




