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飼っていたワンコが脱走したら、クラスのコワモテ一匹狼が家に入り浸って俺の世話を焼いてくるようになった  作者: 蒼唯まる


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それはお互い様だろ

 不来方は、膝の上で気持ち良さそうに眠るセツの背中をそっと撫でながら、


「アンタが人助けをする人間なのは知ってる。何か頼まれたら、嫌な顔せずに引き受けていたのはこれまでに何回か見てたから。……でも、自分から面倒ごとに首突っ込むのは、流石に度が過ぎてると思うんだけど」


 若干呆れ気味に言った。

 小馬鹿にしているわけではなく、ただ純粋にあまり理解ができないといった口ぶりだった。


「まあ、かもな」


 正直、自覚はあるので素直に頷けば、不来方の目がぱちぱちと瞬く。

 想定外の答えだったか、と頭の片隅で思いつつ俺は続けて言う。


「先に言っておくけど、別に良い人って思われたくてやったわけじゃないからな。単純に困ってるのが分かってるのに放っておくのは、なんかモヤモヤして気持ち悪いし、こうした方が色々と丸く収まるって思ったからやった。理由なんてそれくらいなもんだ」


 もしかしたら母親の教えも少しは影響しているのかもしれないが、だとしても本当に微々たるものだろう。

 あくまで()()そうした方が良いと思ったから、という自分本位な理由で動いたまでだ。


「でもまあ、結果的に良い人って思ってもらえるんだったら、それはそれでウェルカムだけどな」


 しかし、俺の答えに納得できないのか、不来方は胡乱な眼差しを俺に向けていた。


「……だからって、何も自分から貧乏くじを引きにいく必要はないんじゃないの」


「貧乏くじって……」


「だって、そうじゃん。自分の仕事でもないのに物運ぶのを手伝ったり、誰もやりたがらなかった実行委員に立候補したり、本当だったらやる必要のない掃除当番を代わったり……どれも相手ばかり得して、アンタ自身には大してメリットがないでしょ。それって貧乏くじ以外に言いようがないと思うんだけど」


 前にも似たようなことを言ったけど、アンタはもっと自分のことを勘定に入れなよ。

 そう付け加えて、不来方は小さくため息を吐いた。


 なるほど、この様子だと全然共感してくれそうにないな。

 まあ、無理に理解して欲しいわけではないから全然構わないけど。


 物事に対する価値観やスタンスが人によって違うのは、至極当然のことなのだから。


 ——とはいえ、だ。

 だったら俺からも言わせてもらいたいことがある。


「……それを言ったらお互い様だろ」


「え?」


「ぶっちゃけ不来方もあんまし人のこと言えないと思うぞ。だってセツの為だからってここに来る度に部屋の掃除してくれてたり、飯作ったり色々してくれてるけどさ。やるだけやって全然見返り求めないじゃん。いくらセツといることが目的でも、これじゃあ得してるのは俺ばっかりで全然割に合ってないだろ」


 思い返してみると、一番最初からそうだ。


 俺は場所を提供して、不来方はセツと遊べる。

 それだけで十分なはずなのに、彼女は家に来るたびに俺一人分の飯だけ作って帰っていく。

 すっかり厚意に甘えてしまっているが、本来ここまでする必要はないはずだ。


 何ならあの日、家を抜け出して迷子になったセツを保護してくれた時から彼女の方がずっと割を食っているだろう。

 

「っ、それは……」


 図星だったのか、不来方の歯切れが悪くなる。

 一応、自分でも一方的に世話している自覚はあったようだ。


 伏し目がちに視線を泳がせる不来方。

 唐突に沈黙に包まれ、なんだか気まずくなる。

 けれど、このまま無言の状態が続くと、彼女が帰ってしまいそうな気がして、俺はどうにか言葉を絞り出す。


「——だから、その……なんだ。どんな些細なことでもいいから、何かして欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれよ。それでようやくイーブンだと思うから」


 すると、不来方は呆けたように俺を見つめ、やがて再び小さな嘆息を溢した。


「あのさ、私の話聞いてた?」


「おう。人助けをするなら何かしらの報酬はあって然るべきって話だろ。だったら、お前ももうちょっと見返りみたいなのがあってもいいんじゃないか」


「私は、別にそういうのは——」


「こういうのは、人に言う前にまず自分から、だろ」


 遮るように言えば、不来方は不服そうに口を噤んでいたものの、


「……だったら、アンタは私に何してくれるわけ?」


 鋭くも大きな瞳で真っ直ぐと俺を見据えながら訊ねる。

 淡白なようで、どこか気後れしているような声音で言う不来方に俺は、ふっと笑みを溢して言う。


「俺に出来ることならなんでも。缶コーヒー買ってこいとか、宿題代わりにやれとか……あ、もっと来客用のお菓子用意しとけ、とかでもいいぞ」


「なんでどれもパシらせる前提なの。私、人を舎弟みたいに扱う趣味は持ち合わせていないんだけど。あとお菓子もいらない。……普段からあまり食べないから」


 そう言うと、不来方は目線を落とし、いつの間にかごろんと仰向けになっていたセツの首元を指先で撫でる。


 ——セツ、いくらなんでも甘え過ぎ……というか、だらけ過ぎだろ。


 なんてセツに対して思っていると、不来方は何度も言い淀むような仕草を見せた後、


「だったら——」


 顔を上げて、意を決したような表情で言った。


「——合鍵、貸してよ」

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