ー不吉の紋ー
539年春 クローバーたちはルミナ教会の神父フェリクスにより、シンス王国の王都『ルミナス』にやって来た。
フェリクス神父に導かれ、王都ルミナスへ辿り着いたのは二日後の朝だった。
王都ルミナスの朝は、灰の村とはまるで別世界のようだった。
鐘楼の音が重なり合い、白い光が大理石の壁を照らす。
街には秩序と規律が満ち、人々の歩みに迷いはない。
神殿の尖塔が白金に光り、石畳には祈りの歌が響いている。
クローバーとリリアはその光景に息を呑んだ。
「……すごい……ここが王都なんだ」
「まるで別世界ね」
クローバーとリリアは、フェリクス神父に導かれ、ついに学院の大門へと辿り着いた。
金色の聖印を抱いた門は重厚で、光の神そのものを象徴するようにそびえている。
「……ここが……ルミナス学院……」
リリアは息を呑んだ。
クローバーは言葉を失い、ただ巨大な門の向こうを見つめる。
学院の門前には、新入生たちが列を作っていた。
皆が胸元に、各自の家の象徴を描いた“仮紋”をつけている。
そこには様々な形があった。
光を模した《光紋》
剣を模した《刃紋》
盾を象る《守紋》
羽根のような《風紋》
「みんな、違う形なんだな……」
すると、列の前にいた少年が振り返った。
「ああ、仮紋はただの家の印。本物の“学院紋”は入学後の試験で与えられるんだ。一人ひとり、光にふさわしい紋が刻まれる。だが...」
少年は少し声を潜めた。
「ひとつだけ忌まれてる紋がある。クローバー型――《四葉紋》だ」
クローバーの体がぴくりと反応した。
「四葉は“異端”の象徴だって……。他の紋が光や剣を表すのに、四葉だけは“芽吹きすぎた紋”って言われてる。不自然な形だから、光に選ばれなかった者のしるし、って噂だよ」
リリアがすぐに言い返す。
「ただの噂でしょ?学院がそんな迷信を信じるわけ――」
しかし少年は首を振った。
「規律にも書いてある。“四葉紋の者には特別な監査を行う”って。四葉が現れたら――学院中がざわつく」
クローバーは息を呑む。
自分の名前に刻まれた“クローバー”が、ここでは忌避の象徴だと知り、胸がざわついた。
その時、門が重々しく開き、白外套の教官が姿を現した。
「新入生は中庭へ。諸君は今日より『ルミナス学院』の一員だ。ここでは光の学と武を修め、未来を照らす者となる。新たな場所での生活に胸を躍らせ、新たな環境への適応に苦労するだろう。
ただし覚えておけ――《学院紋》は力であり、運命だ。授かった紋が、諸君の進む道を決める」
運命――その言葉が胸に重く落ちた。
本当に、四葉は“異端”なのか?
もし自分がそれを授かってしまったら――?
フェリクス神父がそっと背中に手を置く。
「紋は形ではないよ。光は、君の中に宿るものだ。
恐れなくていい、クローバー」
クローバーは小さく息を吸った。
灰の村で誓った言葉が胸に蘇る。
――俺が、この戦争を終わらせる。
四葉が忌まれようがどうでもいい。
その“異端”ごと、自分の手で運命を変えてみせる。
その時、
「これより、入学式を始める!」
と教官が高らかに宣言した。




