ー芽生えた希望ー
538年冬 灰色の鎧を纏ったリーベ帝国およびその国教・聖炎教団の兵士が村を襲い、家々は炎に包まれ、村人たちは逃げ惑う。
マリアは教会の扉に立ちはだかり、敵の兵士に殺された。
怒りに燃えたレオンは突撃するも捕虜となり、村には静寂だけが残った。
灰と雪、喪失と決意。
その小さな胸に芽生えた誓いは、やがて大陸を揺るがす光となる。
灰の降る村跡に、少年の声だけが響いていた。
「……俺が、この戦争を終わらせる」
クローバーはマリアの亡骸の前で小さく拳を握った。
隣ではリリアが泣き疲れて膝をつき、白い息を震わせている。
村はすでにリーベ帝国軍の炎に呑まれ、家も畑も、祈りの場さえ焼け落ちた。
暖かかった日々は、もうどこにもなかった。
それでも、マリアの言葉だけが残っている。
──「神を信じて。人を疑いすぎないでね……」
それからの日々、二人は焼け跡に身を潜めて生き延びた。
村の井戸から水を汲み、雪の下の根菜を掘り出して飢えを凌ぐ。
時折、遠くの街道をリーベ帝国の兵が通り過ぎるのを物陰から見送った。
夜になると、風が吹き抜けるたびに焼けた家の梁が軋み、灰が舞い上がる。
リリアはそのたびに小さな声で祈りを捧げた。
「マリア様……どうか、私たちをお守りください」
クローバーは祈りの言葉を口にできず、ただ焚き火の炎を見つめていた。
あの火と、マリアを奪った炎が、どうしても重なって見えてしまうのだ。
やがて雪解けの兆しが訪れた頃、村の外れに見慣れぬ影が現れた。
白い外套をまとい、腰にはルミナの紋章を刻んだ聖印。
彼の名は フェリクス神父。
温厚な瞳で二人を見つめ、穏やかに微笑む。
「君たちは……この戦火の中を生き延びたのか。光はまだ、君たちの中にある。」
クローバーは思わず問い返した。
「神の光なんて……本当にあるのか?マリアは……助からなかったのに」
フェリクスはしばし沈黙し、やがて言った。
「神の光は、天にあるだけではない。君のように、誰かを想って涙する心に宿るんだよ。君が“終わらせたい”と願うその想いこそが、光だ。」
その言葉が胸に深く刻まれた。
フェリクスは二人を馬車に乗せ、王都『ルミナス』にあるルミナス学院へと導いた。
そこは、信仰と学問、そして戦技を併せて学ぶ学院。
神の加護の下で育つ者たちは、いつか「光の騎士」として各地に派遣されるという。
学院の尖塔が遠くに見えたとき、クローバーは小さく呟いた。
「ここで、俺は強くなる。もう誰も、あんなふうに死なせはしない。」
冷たい風の中に、かすかな春の香りが混じる。
その匂いは、灰ではなく希望の匂いだった。
こうして、少年クローバーの新たな旅路が始まった。




