ー喪失と決意ー
538年秋 シンス王国は光の神を信奉するルミナ教の国であり、その教えは王都から最果ての村にまで息づいていた。
クローバーは小さな礼拝堂でシスター・マリアの庇護を受け、幼なじみのレオンとリリアと共に平穏な日々を過ごしていた。
だが、ある秋の日、丘を渡る朝風に遠くの煙の匂いが混ざる。
灰色の鎧を纏ったリーベ帝国、聖炎教団を国教とする隣国の戦火が、村へ迫っていた。
秋の終わり、ローデン村の丘には冷たい風が吹き渡った。
遠くの森からは焦げ臭い匂いが漂い、村人たちは戦火の噂に戦々恐々としていた。
クローバーはマリアと共に礼拝堂の窓から遠方を見つめる。
「神がいれば……でも、止められないのかもしれませんね」
とマリアは静かに呟いた。
リリアは祈りを繰り返し、レオンは剣を握りながら黙って外を見ていた。
冬、雪が村を覆うころ、遠くの丘に黒い煙が立ち上る。
灰色の鎧を纏ったリーベ帝国およびその国教・聖炎教団の兵士たちが村を襲った。
家々は炎に包まれ、村人たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
マリアは教会の扉に立ちはだかり、手を振って制止した。
「私はここを離れません。神の家を守ります。」
敵兵がなだれ込み、槍がマリアの胸を貫く。
リリアは膝をつき、嗚咽を漏らす。
その瞬間、怒りに燃えたレオンが叫んだ。
「もう神も敵も関係ねぇ! 俺が全員倒す!」
クローバーが止めようと手を伸ばすが、彼は振り払って敵陣へ突撃した。
圧倒的な数に押され、やがて鎖の音が響き、レオンは捕虜として連れ去られた。
敵兵が村を荒らし尽くし、撤退した後、村には静寂だけが残った。
クローバーとリリアは焼け跡の中を歩き、教会に倒れたマリアに近づいた。
彼女の手をそっと握るクローバー。
リリアは膝をつき、涙をこぼす。
「……クローバー、神を信じて。人を疑いすぎないでね……」
微笑むマリアは、もう動かない。
クローバーは低く呟いた。
「助けれなくてごめん、シスター。この戦争は俺が終わらせる。」
灰と雪、喪失と決意。
静かな冬の丘の上に、彼らの新たな戦いの始まりが立ち上がった。




