ー戦火前夜の子らー
527年 グリュック大陸にて一人の赤子が生まれた
そしてこの赤子が250年にもわたる長い長い戦争を終わりへと導いた
その赤子の名は『クローバー』
彼が生まれた頃、大陸はすでに血と鉄に覆われていた
四大国が覇を競い、国境は毎年のように塗り替えられた
誰もが勝利を神と呼び、敗北を呪いと恐れた
そんな時代に現れた一人の人間が、やがて“終戦の象徴”と呼ばれるなど
当時の誰が想像できただろうか
これは、一人の人間が歴史を変えた記録である
クローバーはシンス王国の北境の小村ローデンで生まれた。
雪解けの遅い土地で、畑よりも祈りの声の方が早く芽吹くような場所だった。
シンス王国は古くから光の神を信奉するルミナ教の国であり、その教えは王都から最果ての村にまで息づいていた。
村には小さな礼拝堂があり、そこで彼はシスター・マリアの庇護を受けて育った。
マリアは温厚で、同時に芯の強い女だった。
村の子どもたちは皆、彼女を母のように慕った。
クローバーも例外ではなく、しばしば掃除を手伝いながら
「神はなぜ戦を許すのか」と無邪気に問うていた。
彼には二人の幼なじみがいた。
快活で誰よりも腕白な少年レオンと、静かで祈るような瞳をした少女リリア。
三人ともこの村に暮らす平凡な貴族の子どもたちだった。
いつも礼拝堂の裏の丘に集まり、鐘楼の音が響くまで石投げや鬼ごっこをして過ごした。
しかし、そんな平穏も長くは続かない。
538年のある秋の日、朝風が丘を渡りクローバーは遠くの煙の匂いに気づいた。
レオンが指をさして叫んだ。
「あそこに火が上がっているぞ。」
クローバーは目を細めて見つめた。
遠くの煙は、ただの焚き火ではない。
リーベ帝国――聖炎教団を国教とする隣国が、再び国境を越えてきたのだ。
その炎は「浄化」の名のもとに村々を焼く、戦争の火だった。
と、幼いながらもクローバーは理解することができた。
リリアは恐れ慄き、普段は勇敢なレオンも怖気付いていた。
そんな中クローバーは、ただ黙ってその炎を見つめていた。




