産声は胎に還る
いま、私が一族殺しの鬼としてそなたらに、むざんに殺されることはもはやどうでもよい。
私にはどれほど腐臭にまみれた汚名を着たとしても、どうしても許せないことがあったからだ。
私の胎を、奪われたことだ。
私の胎は、十五の時に切り離され、十八の姉の胎となった。天子様の寵愛めでたき姉には、よき胎がなかった。御子は産めぬとお告げがあった。
私は腹を裂かれ血を失った熱に七日七夜さいなまれ、胎を捨てた罰当たりとしてお上に呪われた。
自らとの未来を捨てたとて失望したか、想いあった幼馴染は去ってしまった。
姉は、私の胎を使い、御子を産んだ。ふくふくとしたよき赤子であった。
「でかした」と両親は姉を褒めた。
「あの子はわたしの子じゃ、私の胎の子じゃ」
私は泣き悶えた。両親は聞き分けのない子供を見るがごとくに、私を見下ろした。
何故におまえは一丸となって、天子様におつかえしようと思わないのかえ。
みなが一族を栄えさせようと、我を殺しているのに、お前は我が身のことばかり痛いのかえ。
大義の前には、私の言葉など駄々であった。
「それにもうお前の胎は、姉の血を媒介するのだから、もう姉の胎も同然じゃ」
「いいや、わしらの子じゃ。一族の子じゃ」
両親の笑い声を、聞きながら、私は無念に涙をぬらした。
お父様、お母様。ぬしらは、娘がひとり、言われもない罪で呪われたというにわが身は何も痛めずに、心が痛まぬのかえ。
一族のためにと言えば、ぬしらはそのように笑えるのかえ。ならば私が、そなたらの胎から生まれた意義とは、何だえ?
それからは、もう説明するでもない。
私は父を殺し、母を殺し、姉から子を奪った。
奪ったのではない、取り返したのだ。
「泥棒!泥棒!」
清潔な褥で、姉が泣きながら私をなじった。ああ人に囲まれて清潔に祈られて姉さまは憎らしい。姉さまは仕方がないのだと、納得したかったが、あなたもやはり悪い。
私は姉さまを窓から引きずり落とした。天子様のお住まいになる高い塔の上から、姉は雲を割り、真っ逆さまに落ちていった。私の胎を連れたまま。
呪われた力でできうる限り一族の者を屠った。
もう誰でもよかった。出合い頭に殺していった。だってそうであろう。一族は一つであるのだから。誰の指をもいだって、同じ指であろう。
私の乳房からは殺すほどに乳が出た。赤子に含ませてやって、私はああこの子を生かすのだと涙が出た。この報復には必ず意味があると、信じた。
赤子はふくふくと大きくなった。鬼のように歯がそろって、大きな声で泣いた。泣き声は塔にまで響いた。
ある時、一人の男が訪ねてきた。私と赤子を殺すのだと、すぐに殺してしまったが、それはかつての幼馴染であった。
彼は私が、今起こしていることをすべて知って、その手に花を持っていた。
幼き日に永久を誓い合った花であった。
このように汚れた私に、何故剣も持ってこなかったのかえ。
一族一番の使い手だったお前が。
赤子が泣く。わあわあと泣く。赤子は牛のように大きくなっていた。
この子は、誰の子だえ。
私の胎じゃ。私の子だえ。
姉さまと天子様の御子だえ。
一族の血を吸って育った子だえ。
私はいったい、誰の子を産みたかったのかえ。
赤子は泣き続けていた。数百人もの泣き声が重なったような、大きな声だった。
私を殺そうとお上がぐるり討伐隊を囲ませたのはそれからすぐだったか、百年後だったか。
そして今、私はそなたらに引き立てられている。
話したことが全てである。
そなたらには他人事であろう。血も何も継いでおらぬ汚れた一族の怨念でしかないだろう。
そなたらの一族の為に、私を切り取りたいのだろう。
ならばそうするといい。
赤子は死なぬ。
赤子は死なぬ。
幾度も胎に還り、産声を上げる。
幼きそなたらには未だ戯言にしか聞こえまい。
それでよい。
赤子はけっして、死ぬことはないのだから。
《完》




