第一章 転生、そして悪役令嬢の運命
目が覚めた瞬間、私は白い天蓋付きのベッドの上にいた。
繊細なレースのカーテンが風に揺れ、朝日が部屋を柔らかく照らしている。
高級な絨毯、金細工の調度品、そして鏡台の前に座る、見知らぬ少女の姿。
──いや、見知らぬわけではない。
鏡に映る顔は、私の前世の記憶にあるゲーム『聖剣と薔薇の誓い』の登場人物──クラウディア・シュナイダーそのものだった。
「まさか……私、転生したの?」
私は前世で、通勤電車の中でスマホゲーム『聖剣と薔薇の誓い』を延々とプレイしていた。
王道の乙女ゲームで、ヒロインの「フェリシア姫」と五人の美形ヒーローたちとの恋愛と冒険が描かれる。
しかし、私はなぜかいつも悪役令嬢クラウディアのルートを選び、彼女を攻略して「悪堕ちルート」を楽しんでいた。
そして、そのクラウディアの運命は決まっている。
悪役令嬢クラウディアはヒロインを陥れようとするが失敗。
民衆の怒りに晒され、城から追放され、最終的に魔物に襲われて死ぬ。
──それが、私の運命。
「でも待って。この記憶……何かが違う」
私はベッドから起き上がり、鏡の前に立った。
黒い髪に赤い瞳。
高貴な美貌。
しかし、なぜか胸の奥に灼熱のような力が眠っている気がする。
「これは……魔力?」
前世のゲームでクラウディアは魔力が弱く、魔法も使えない設定だった。
だが今の私は、掌に小さな黒い炎を灯すことができる。
「……これは、もしかして……」
その時部屋の扉が開き、侍女が慌てた様子で入ってきた。
「クラウディア様! お気を付けください! 今朝王都に勇者一行が到着されました!」
「勇者たち……?」
私の心臓がドクンと鳴る。
ゲームの流れ通りなら、ここからが悪役令嬢の幕開けだ。
フェリシア姫を陥れ、王太子に求婚し、失敗して追放される。
だが──
「私は、クラウディア・シュナイダーじゃない」
私は静かに呟いた。
「私は、魔王の娘だ」