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5. 現実は小説よりも奇なり、ですわよ(後編)


リード公国北に位置するザムント領は名峰からの清らかな水と豊かな自然が広がり稲作業が中心となっている


民は幼き頃より野山を駆け回り、川魚を釣り上げ、日々大地の恵みに感謝を捧げる、温厚な民族性が特徴である


ザムント公爵家次女コーネリアは元々筋力や体力が同年代の子供と比べて少なく、虚弱体質ぎみであった


その為外出することは少なく自室に閉じ籠り出入の商人から定期的に書物を購入し読んでいた


次第にコーネリアは物語の主人公を自分に置き換え理想の“コーネリア”を生み出した


病名:解離性同一性障害つまり多重人格である


本来の内気な性格は影に隠れ、活発で自由奔放な人格が表に現れてしまう


学園は全寮制だった為、ザムント公爵夫妻は娘の変化に気付くのが遅れてしまった


「リア、身体の具合はどうだ」

「先日医師による催眠法を受け、新たに薬を処方して頂きました。今は鎮静剤を就寝前に服用しているお陰で翌朝は目覚めも良く体調も整っています」


現在コーネリアは学園を休学し領地にて治療に専念していた


「今朝方、ジャントット公爵家より質問状が届いた。身に覚えはあるか?」

書斎のテーブルに一通の便箋を広げコーネリアに見せた


「いぇ…覚えは…ありません」

コーネリアは声と同時に身体を震わせ答えた


「あぁぁーーお父様どうしましょう!!ユリウス先輩にご迷惑を!!王国は私の命で我が公爵家を許して頂けますでしょうか!?」

「リア、リア、落ち着きなさい。大丈夫だから深く息を吸って吐きなさい」


パニック発作を起こしたコーネリアは、前屈みになり苦しそうに胸を押さえていた



「ザムント公爵より回答が届いたよ。要約すると、コーネリア嬢の別人格が旧友に手紙でユリウスとの関係を仄めかし、噂好きのお嬢さん方が学園で広め尾鰭が付いて世間に流出したってところかな」


「不用意な発言が原因ということですわね」

「コーネリア嬢は領地で静養中、治療は着実に快方に向かっている、とのことだ」


医師による催眠法で明かされた内容であった


「毎朝湧水で身体を清めロワニーズ王国の方角に向かって懺悔をしてるって…今度は何処の国の本を購読したのよ!」



「お辛いでしょうに…ザムント公爵令嬢は心の病気を疾患されていましたのね」


事の顛末が記載された報告書を手にエミリーティアは何とも言えない表情を浮かべた


「現在は彼女の一番の理解者であるカルムント侯爵令息が寄り添い関係性を深めているそうだよ」


元々幼馴染であったカルムント侯爵令息は、コーネリア令嬢の性格も内面も熟知しており、ザムント公爵閣下も安心して任せられると周囲にもらしていた


「物語は虚構だからこそ惹きつけられるのです」


報告書を閉じユリウスに返すと「ティア」と声が掛かるが、次の言葉が続かない

聞きたいのに上手く聞けない、そんなところだろうか


「わたくしが嫉妬すると思いますか?」

「少しだけ期待した」

「おかしなことを言いますわね。わたくし殿下に寵愛されていると自負しておりますの。例え眼前で不貞行為をなさっても、わたくし殿下を信じますわ」


エミリーティアが真顔で断言するとユリウスは息を呑み顔を両手で覆い「ティアが格好良過ぎる!」と震えた


エミリーティアは心の中で

(あら?少しは恋愛小説も役に立ちますのね)

と評価を上方修正した



「クロード!次はこの本読んで感想を聞かせてちょうだい」

「リア…『筋肉は裏切らない』って書いてあるけど?」

「ええ、この本は東のとても遠くにある島国の方が記した書物で最近になって翻訳版が発売されたのよ」

「感想の前に僕が筋肉痛になりそうなんだけど?」

「クロードは小説に没頭するタイプじゃないでしょ?実際に動きながら知識を取り込める方が楽しいと思ったの」


機嫌良くグイグイとクロードの胸に本を押し当て「感想楽しみにしてるね!」と笑顔で婚約者に言われれば頷き返す事しか出来ない


最近は体調も良く少し体力が付いてきたように思っていたが、まさかコーネリアはこの本を参考にしたのだろうか?


「上腕二頭筋…」

パラパラと捲れば文字は少なく挿絵で解説している


「近々続編が発売されるんだって!」

「リアは標題聞いてるの?」

「うん!『筋肉は全てを解決する』だって」

「そ、そっか」

ははは、とクロードは渇いた笑みを浮かべた


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