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4.現実は小説よりも奇なり、ですわよ(前編)


ロワニーズ国王の隣国に位置するリード公国は四大貴族が統治する国家である


四家の公爵家当主が軸となり最高議長を一期五年の周期で選任している


今期最高議長はジャントット公爵ミシェル閣下

ユリウスの叔母の輿入れ先である


「旦那様、隣国から取り寄せた情報誌ですが、この記事の真相は如何なのかしら」


食後の一服中に妻フランシスから手渡された小冊子

綺麗な細い指先がトントントンと苛立つ様に音を立てた


【リード公国ザムント公爵令嬢コーネリア様の熱愛のお相手は我が王国王太子ユリウス殿下だった?】


【ユリウス王太子殿下の側室候補か!?】


「ユリウスは王太子に成ったばかりで忙しいのよ?念願叶って想い女と婚約出来たというのに荒波を立てるのは公国の不利益になると思うのだけど?」


「いや…私は知らないよ!?ザムント公爵令嬢はつい先日カルムント侯爵令息と婚約したばかりじゃないか」

「そうよね、わたくしもそう記憶しているわ」


でもね?とフランシスは扇子を取出しベシッと小冊子を叩いた


「火のないところに煙は立ちませんわ。ザムント公爵閣下に急ぎ確認を取られてはいかが?」

「はっ、はい」


食後の余韻に浸る事なくミシェルは急ぎ執務室へと向かった


「本当にあの娘は何をしたいのかしら?」


ザムント公爵次女コーネリア御年16歳

ユリウスが昨年まで通っていた学園の後輩であり、恋多き乙女と評判だが…

その正体は引っ込み思案で内気な性格であり、評判とは異なる


学園入学の際「胸を張って堂々としなさい」と母親に叱咤され、何を間違えたのか他国で流行りの恋愛小説に登場する主人公を手本に素振り身振りを真似た


誰にでも好かれる主人公…平民である


リード公国は農耕社会という側面からして貴族と平民の距離が近く、友好的な関係を築いている


その為、他国では婚約者以外の異性と接触するのは不貞行為に当たるがリード公国の基準では比較的緩く捉えられる


不用意に接触し好意を示す様な態度を取れば自ずと相手も友好的に捉えて勘違いが発生する

ザムント公爵コーネリア令嬢は盛大な勘違いを多方面に振り撒き周囲を巻き込んでいた



「ティアは恋愛小説に興味はある?」

侍女からの情報で噂記事を知った次の日、エミリーティアは普段と変わらぬ態度でユリウスの執務室へ訪問していた


「然程興味はございませんが、それが何か?」

ユリウスは穏やかな表情のまま一冊の本を手渡した


『〜聖獣に護られし乙女〜』


主人公は町娘、両親の愛を一身に受け成長する

やがて主人公は平民から上位貴族までが学ぶセイント学園に入学する


物語は主人公が入学式で聖獣と出逢い、仲間達と幾重の困難を乗り越え、運命の相手と結ばれる


なお仲間に入るのは上位貴族であり、運命の相手は読み手が選び物語が展開していく分岐型恋愛小説である


「面白い発想ですわね」

パラパラとめくり速読で内容を確認する


「率直な物語の感想を教えて」

「一言で申し上げますと内容が非現実過ぎて難解な本だと思います」


「非現実的な部分って具体的には?」

「例えば町娘が複数人の令息を引き連れて夜会に参加、学園内では常に彼等が彼女を護る騎士の様に描かれてます」


エミリーティアは首を傾げながら「まぁ架空の物語ですからね」と呟いた


「主人公に対して幼稚な嫌がらせも描写されていますが、こちらは自業自得だと思いますわ

他にも聖獣を従えて魔物討伐、他国の皇子から求婚、聖職者からの聖女認定などでしょうか」


主人公が町娘、つまり平民である

他国の皇族から求婚されるなど…


「あっ、一部似た様な出来事が最近ございましたわね」

「愚兄ね。この書物が出版されたのは五年ほど前らしいから、例のお嬢さんが何処からか入手して参考にした可能性は考えられるか…」


シドニー・ブライトン嬢

城下町に構えるパン屋の一人娘で、エミリーティア婚約破棄騒動の中心人物で一躍時の人となった


ロズベルトの廃嫡騒動後、周囲の冷ややかな視線に耐えきれず看板を下ろして家族と共に地方都市へと移住した


“真実の愛”で結ばれていたはずのロズベルトはシドニー嬢に振られ傷心旅行に旅立ったと風の便りで聞き及んでいる


「殿下、噂記事の件がこの書物と関係があるという事でしょうか?」


ユリウスは若干困り顔で頷き返した


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