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3.火のないところに煙は立ちませんわよ


隣国リード公国は四大貴族が統治する国家で農耕社会である


適度に温暖な気候は田畑に恵みを与えて、品種改良された種子の播種、苗の育成、食料自給率の約7割は広大な大地から得られている


その代わり商業・工業といった技術力は他国よりも劣っており、輸入に頼ることで国を維持していた


しかし将来的に考えると自国の貿易赤字が膨らむ可能性がある


公国の強みを活かして外貨を稼ぐ方法を思案した結果、

温暖な気候に着目し観光業として観光農園なる事業を展開し始めた


園内には旬の果物・野菜が栽培されており、金額を払えば制限時間内自由に収穫出来る


また調理施設も併設されている為、新鮮な食材を頂くことも可能だ


ロワニーズ王国の好奇心旺盛な貴族達は長期休暇の旅行先にとリード公国の人気が上昇した


リード公国は農耕以外の外貨収入を得られ、他国は民の趣味や娯楽への不満が解消され互いに良好な関係へ繋がった


「ああ、リード公国の観光業の提案は私が叔母上に進言したんだよね」


何事もない様にサラッと発起人宣言をしたのは、ロワニーズ王国王太子ユリウス・ロワニーズ殿下である


ユリウス王太子殿下は幼少期より母国を離れ隣国リード公国にある王妹が輿入れした公爵家で過ごしていた


ちなみに王妹であるフランシス様は当時留学中のジャントット公爵家嫡男ミシェル様に一目惚れ


当時の貴族子女としては異例な程、熱烈に好意を伝え積極的に行動しミシェル様の婚約者の地位を獲得


学園卒業後は王位継承権を破棄し隣国へと嫁いで行った


恒例と化してる執務室でのお茶会


正式に婚約者となった当初は、慣例に基づき庭園でのお茶会であったが、王太子殿下の顔色が悪く疲れが滲み出ていた


それでも婚約者との時間は最優先で確保し続ける殿下にエミリーティアは「執務室で良いのでは?」と提案


「わたくし自然体の殿下を好ましく思いますの。格式に拘るお茶会よりも殿下とお会いしている時間の方が有益ですわ」


ユリウスの最優先事項はエミリーティアである


その為ならば己が身体に鞭を打ってでも職務を“数年前倒し”に遂行する事も苦にもならない


だがエミリーティアはそれを良しとしない

一日は24時間と決まっているし覆る事はない

ならば時間を工夫して有効的に使えば良い


公務の休憩時間にエミリーティアが訪問し、雑談程度でも顔合わせが出来れば良いのだ


その結果、殺風景な執務室でのお茶会が開催されることとなった


とはいえ休憩中でも厄介事は舞い込んでくる


「ご歓談中失礼致します。ユリウス王太子殿下、国王陛下がお呼びです」


現在宰相閣下の元で絶賛修行中のブルプロ・ワグナー公爵令息が伝令として入室してきた


エミリーティアは苦笑いし、ユリウスはムスッと表情を変えた


「すぐ終わらせるから待ってて!」というユリウスの言葉に「明日同じ時間に伺いますわ」とやんわり断りを入れて勝手知ったる王宮の廊下を歩く


実家であるフォルゲーツ公爵家よりも王宮で過ごした年月が長い為、時折すれ違う官人や近衛騎士達とも顔見知りであり気軽に挨拶を交わす仲だ


とりわけ侍女の区画へ足を運べば、市井の最新の流行やおすすめスイーツの話題に尽きる


王宮に所属する侍女は貴族子女が大半を占めており、行儀見習として奉公している

給金も支払われ、人気の近衛騎士とのロマンスの可能性もあり、毎年応募者数が多く面接が大変だと侍女長が悩んでいた


高位貴族主催の社交場では入手出来ない貴重な情報源である


「フォルゲーツ公爵令嬢様、少しお耳に入れておきたい情報がございます」


声を掛けた侍女が持っていた小冊子は、最近市井で流行りの『xxx』


真実か否かは問題ではなく、公衆の興味を惹く内容が記載されており、一般からの公募も募っている一番人気の情報誌だ


侍女は目的のページを開くとエミリーティアに見やすい様に広げた


【リード公国ザムント公爵令嬢コーネリア様の熱愛のお相手は我が王国王太子ユリウス殿下だった?】


【ユリウス王太子殿下の側室候補か!?】


【フォルゲーツ公爵令嬢エミリーティア様の心境はいかに!!】


「あら、賑やかな見出しですわね」

「この噂記事は王家への不敬と捉えられる可能性がございます。検閲課に申立てを行った方が宜しいのではないでしょうか?」


検閲課は主に有害図書並びに危険思想を事前に検閲する事で風紀の乱れを抑制する機関である

当然娯楽出版物においても店頭に並ぶ前に検閲される


「検閲は通過しておりますわよ?つまりこの程度の噂記事は不敬罪に該当しないと判断されたのでしょう」


庶民の娯楽に噂話は最高の隠し味

しかし“根拠がなければ噂は立たない”ものである


「本当に賑やかになりそうな予感ですわ」


うふふ、口元に扇子を広げ優雅に微笑むエミリーティアに侍女は「神々しい!!」と眩しそうに見つめた


余談ではあるが、エミリーティアに情報誌を渡した侍女は侍女歴三年のナーベルイス子爵家三女ヴィアンヌ令嬢


後にブルプロ・ワグナー公爵令息の婚約内定者となるが、その話はまたの機会に致しましょう


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