21.親にとって子の成長ほど嬉しいことはない
ムーラン共和国
ロワニーズ王国の南海に位置する小大陸で複数の民族が居住する多民族国家
数ヶ月前、チャベル・ドンゴ率いる議員連合によって旧体制を打破し、民衆の為の新政府を樹立した
「旧政府によって苦しい生活を強いれられた民衆は、今何を求めているのか。国民をすべからく幸福へと導く事が一番なことは理解している。しかし具体的にどのような施策を立ち上げれば良いのか、今一度考える必要がある」
「国民の幸福とは富であり、富とは金銭や財産だけでなく、精神的な豊かさや健康も含まれる」
「現在我が国の食料自給率は35%と低い。これでは輸入に頼る他なく、食料の高騰にもつながる。まずは安定した食料供給が必要だ」
「食料自給率を高めるには何とする」
「各地域の気候と土地の特性を今一度調査してはどうか。農地台帳を作成し特性を活かした農業を促進する」
「いずれ自国で食料を賄うだけでなく、輸出量も増えれば経済的収入も増え国も民も潤う」
「それだけでは心許ない。政府の補助金制度を使い新商品開発を進めてはどうか」
チャベル・ドンゴ新代表の発言から始まり議会が進行していた
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「ロディの予想通り、まずは農業基盤の強化が話題の中心だったよ」
「新たな議員は大半が農産系出身だからな。担当する地域を活性化させたいという意志は強いだろう」
チャベルとロディの二人は食卓を囲みながら今日行われた議会の話をしていた
「だが国民全体に生産物を普及させるには工夫が必要だ。今のままでは地産地消で終わってしまうだろう」
「なるほど、地元の自給率は上がるが他の地域が同じとは限らないな」
「近隣地域ではそれぞれ流通を行えるが、全国となると運搬費用も嵩む」
「ロディと話していると様々な構想が浮かんでくる」
「そうか、チャベルの役に立てたのなら良い」
チャベルは手帳に思い付いた案を書き出していた
ロディは集中するチャベルの邪魔にならないよう静かに食事を進めた
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「資料にあるように、生産者が加盟する全国農業組合を設立、組合を通して全国へ流通させる事で消費者への安定した供給を目指す」
「農業組合は政府直轄になるのか?」
「軌道に乗るまでは政府主導がいいだろう。各地域への設立資金や人件費も国家予算で補える。需要と供給の比率が安定後、民営化する案を進めたい」
「生産者は組合に加入することで何を得られる?」
「いい質問だ。ひとつひとつの農家の経営単位は小さい。だが組合に加入することで地域内の相互扶助が働き、肥料や農機具、市場などの外部への交渉が円滑になる」
「つまり数で対抗するということか」
その後も議論は深夜まで続いた
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「ロディ、もう一度考え直してはくれないだろうか?」
「チャベル…何度も言うように私はムーラン共和国の政に携わることは不可能だ。私の国籍はロワニーズ王国であり、共和国にはない」
頑なに拒否するロディにチャベルは引くことなく続けた
「共和国は二重国籍が認められている。ロディも取得すれば良い」
「私の場合は簡単ではないのだよ」
ロディは困った様子でチャベルを見つめた
最近は事あるごとに勧誘されていた
ロワニーズ王国は王族と高位貴族以外には重国籍を一部認めている
ロディは爵位が準男爵なので重国籍は認められる
だが、元王族であるが故に事態は複雑化を見せていた
※
「ロディ宛に小包が届いたぞ」
「なんだって?私に?」
ロディは半信半疑で個包を受け取った
丁寧に梱包された包み紙を剥がし、木箱を開けると中には小瓶が6本と質の良い封筒が入っていた
まずは差出人を確認すべく同梱されていた手紙を読む
『ロディ様、ご無沙汰しております
この度、ご両親より薬と言伝を預かりました
風の便りでロディ様が後遺症に悩まされていると伺い、ご両親が“馴染みの薬師”に調合を依頼されました
同梱の小瓶はロディ様の後遺症を中和する薬です。一日一回夕食後に服用して下さい
副作用として倦怠感を引き起こす可能性はありますが、徐々に治るとのことです
中和薬を消化する頃、後遺症は治るでしょう
ご両親からの言伝です
無理はせず
自分自身を大切に、謙虚に生きていきなさい
”新天地“での活躍を期待する
身体には気を付けて、頑張るように
ご両親は”新しい環境“での成功を願っております
私も益々のご活躍を期待すると共に、いつの日かお逢いできるのを楽しみにしております。ティア』
「ははは、なんてことだ…チャベル喜べ!私はムーラン共和国の国籍を取得するぞ」
「本当か!?それは吉報だ!ロディの気が変わる前に手続きを進めよう」
ロディは木箱の小瓶をひとつ取り出し、納得した様子で頷いた
「ユリウスの仕業だな。おおよそ影にでも見張らせていたのだろう。まぁお陰でアノ後遺症から解放される」
ロディは言葉とは裏腹にスッキリした表情で呟いた




