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2.想像通りの展開ですわ


ロワニーズ王国は豊かな資源、豊富な人材、そして心優しき民の上に成り立つ一大国家である


つい先日、王家の不祥事により第一王子の廃嫡という大ニュースが世間を騒がせたが、一ヶ月も過ぎれば皆元通りの生活に戻っている


さて、そろそろお気付きの方もいるであろう

“第一”王子と呼ばれるからには“第二”王子も存在している


王子が一人の場合は廃嫡など容易に出来るはずもなく、王家としては未来の兄王の補佐役として教育していた第二王子を王太子として任命した


ユリウス・ロワニーズ王太子殿下は元兄ロズベルトの双子の弟である


幼き頃より親元を離れ隣国のリード公国に留学しており、王妹が嫁いだ公爵家にて教育を受けていた


そして件の王家主催のパーティは、第二王子の帰還を祝うものであり、本来であれば兄ロズベルトの王太子任命前祝いも兼ね揃えていた


そんな裏事情は露知らず、己が世界観に酔いしれていた元第一王子は両陛下の逆鱗に触れ廃嫡


今後元王子を担いで反乱が起きないように、避妊手術及び王太子教育で培った記憶を削除され準男爵として野に放たれた


「全く兄上も馬鹿なことをする」

「余程脳内お花畑でらっしゃったのね」


王宮の一室にある執務室

ユリウス王太子殿下とエミリーティア公爵令嬢はリード公国の特産品である茶葉を味わっていた


王太子となったユリウスは早速父王の政務を一部請負っており、着実に成果を上げていた


周辺諸国との外交、地方都市の治水工事、新たな特産品の開発、目に見えて成果が分かるものから、時期がくれば芽吹く教育改革や難民の受入など、精力的に取込み国の為、民の為にと奔走している


エミリーティアはユリウスを家族と同様に敬愛していた


「ティア...フォルゲーツ公爵家には本当に申し訳なく思っている」


立場は違えど物心付く前より親元を離れ生活していた苦悩はユリウスとて同じ境遇だ

当時のエミリーティアの心境を容易に想像出来る


「王太子殿下がお心を煩わせる必要はございませんのよ?」


エミリーティアは正直言って婚約破棄は願ったり叶ったりでもある

表面上は取り繕った関係の婚約者と結婚し、国母となり政が謀れるかと問われれば否と答える


生理的にロズベルトという人間が無理なのだ


秀でて優秀ではなく、かと言って凡庸でも無い

可もなく不可もない普通であり王族としては人の上に立つ資格を持ち合わせていない


ロズベルトの足りない部分は王太子妃であるエミリーティアが補佐し、同時に未来の王弟となるユリウスと共に政を行い国を維持する


現両陛下が描いていた未来は実現する事なく泡と消えた


残されたエミリーティアの目下懸念材料としては、婚約破棄された事で王太子妃教育が無駄となり、いつ記憶抹消の沙汰が降りるかという事だ


父ジョージの話によると、王家秘伝の薬を服用後、三日三晩の身体的激痛と高熱が続き、場合によっては命の危険も伴うと聞く


自分は巻き込まれただけで悪い事はしていないにも関わらず、必要以上に王家の秘密(隠し通路や影の存在など)を知っているので、野放しに出来ないのが現状なのだ


「婚約破棄されてから三ヶ月が過ぎました。領地に帰りたくとも両陛下からの許しは貰えず、かと言って学園にも通えず、王太子殿下は何か事情をお知りでしょうか?」


「ごめんねティア…私からは何も言えないのだよ」

「左様でございますか…要は両陛下に口止めされていると解釈してもよろしいですね?」

「まぁ…うん、そんな感じかなぁ」


エミリーティアの鋭い視線を躱し、明後日の方向を向いて茶葉を嗜むユリウスにムスッと頬を膨らませた


その後も時折ユリウスに呼ばれ王宮の執務室で小さなお茶会は続いていた


さらに月日は経ち婚約破棄から実に半年が経過したある晩、エミリーティアは衝撃の事実を父ジョージより聞くこととなる


「ティア、残念な知らせと良い知らせがある」

「残念な方からお願いします」

「うむ、誠に遺憾ながらティアの婚約者が決まった」

「はい?」


元第一王子全面有責による婚約破棄とはいえ、まだ半年しか経過していない

公爵令嬢としての社会的価値は理解しているが、新たに婚約を結ぶには時期尚早と思える


「次に良い知らせを伝える」

「ちょっとお待ちになって下さいお父様…わたくしまだお相手のお名前を伺っておりませんわ」


何やらさっさと仕上げに入ろうとする父ジョージの言葉を遮り、若干前のめりに食い下がった


「あー相手の名前…なんだったかなぁー、私も歳には勝てないなぁーははは…」

「おふざけになるのはお辞め下さいませ!」


「全く往生際が悪いですわよ旦那様」

バンっと執務室の両扉が開き侍女二人を従えて入室してきたのはエミリーティアの母シンシアである


「シア!?夜会に参加していたのでは?」

「ええ、行って帰ってきました」

「それにしては、は…早くないか?」

「ティアが心配で体調不良になりましたの、うふふ」


血色も良くハツラツとした姿は体調不良には見えない


「ティア、お父様は貴方を魔窟へと送り出す勇気がなく言葉を濁しているのですよ」

「魔窟…ですか?わたくし魔王に娶られるのでしょうか?」

「魔王の方が余程良い!!」

「ジョージいい加減になさいませ!」


喝!!と母の鉄扇の先が父ジョージの額にペチッと当たった


なおこの世界に魔王も魔族も存在しない

いや…見方を変えれば魔王は身近な人物(母)かも知れないとエミリーティアは心の中でひっそりと思った


「ティアの婚約者はユリウス王太子殿下です」


母シンシアの言葉に対して驚きより先に「でしょうね」と諦めに近い感想を抱いた


「良い知らせとは、王家の秘薬を服用しないで済むという事でしょうか?」


ユリウス王太子殿下と結婚するのであれば、王太子妃教育も無駄にならず、強制的に記憶を消す必要もなくなる


万が一にも命の危険が伴う秘薬を服用するのはエミリーティアは勿論のこと両親も警戒していた


「お相手は変わりますが、再び王家と婚約を結ぶとなると、多方面の手続きがあり時間が掛かりました」

「ティアには私の後を継いでもらい、時期を見て入婿をと考えていたのだがね…」


両肩を落とし猫背になる父ジョージの姿にクスッと笑みを浮かべてしまう


「お相手がユリウス王太子殿下であれば、わたくしに異論はございません。それに王命でしょうから拒否する事も出来ませんでしょ?」

「いや、今回は王命ではないのだよ

前回の事もあり、ティアの意思を尊重すると両陛下から言質を取った」

「ではお断りする事も可能であると?」


ならば再考させて頂こうとかしら?と首を傾げると、バンッと音を立て本日二度目の扉が開かれた


「待って待って!ティアお願いだからちょっと待って!」

護衛二人を従えて入室して来たのは、今話題の時の人、ユリウス王太子殿下


驚く素振りもなく淡々とエミリーティアは告げた


「ですが王命でないのなら熟考する時間はございますよね?」

「はい、フォルゲーツ公爵令嬢の意思を一番に優先せよとの命を受けております」

王太子殿下に代わり答えたのは現宰相の息子ワグナー公爵家嫡男ブルプロ・ワグナー、次期宰相閣下(確定)である


公爵令息は王太子殿下の前に出て、エミリーティアの両親に向って深く礼を執った


「先触れもなく夜間に訪問した無礼、どうかお許し下さい。ユリウス王太子殿下がどーーしても“今日中”に“直接”フォルゲーツ公爵令嬢様とお話をしたいと“駄々”を捏ねまして、僭越ながら見届け役として私が同行した次第でございます」


「まぁ、先触れが無い訪問は本来マナー違反ですが、ワグナー公爵令息殿の顔に免じて不問と致しますわ、良いですわね?旦那様」

「うっ、うむ。許そう」

「ありがとうございます」


この時ユリウス王太子殿下が何をしていたかと言うと、エミリーティアの前で膝をつき一心不乱に懇願していた


婚約前の女性に無闇に触れる事は出来ないので、両手はエミリーティアに祈りを捧げる仕草になっていた


「ユリウス王太子殿下」

「はい!」

「殿下のお心をお聞かせ下さいますか?」

「えっ!?」

「わたくしを政のいち要員としてご希望でしょうか?それとも国の為、民の為に国母となって支えていく存在をご期待されているのでしょうか?」


淡々と感情のこもらない口調で問うエミリーティアに、ユリウスは苦笑いを浮かべた


「ティアとはお互いを支え合い、補い合い、慈しみ合い、愛し合う、そう言う夫婦になりたいんだ」

「とても魅力的なお話ではありますが、現実的に考えて次期国王たる殿下には無理がありますわよね?こう言うのを机上の空論って言うんですよ?」


普通の貴族であれば可能であろう

しかし国王となれば民を優先せざるを得ない

それが統治する者の責任であり責務でもある


「理解はしてる、でも納得した訳じゃないんだよ。私はねティアも知っての通り物心付く前から隣国の公爵家で育てられた。いずれ兄上を補佐する為にとね。私の自由は生まれ落ちた瞬間からないに等しかった。順当にいけば私は王弟となりささやかではあるが自由を手に入れることが出来る、それだけが私の支えだった。しかし愚兄がやらかし不本意ながらも私が王太子に任命された。長年描いていた自由もその瞬間に崩れた…と思ったが、逆に好機だと気付いた。王太子になる条件として3つ提示したんだ」


意気揚々と幼少期の苦労体験を話しているが、最後の方は父王に楯突く不敬に捉えられてもおかしく無い


そもそも現両陛下には二人の息子しかいない

兄がダメなら弟が王位を継承するのは自然な流れであって、条件を出して取引する次元ではない


「ユリウス王太子殿下、お話の途中で口を挟むことをお許しください。1つだけお聞かせ願いたいのですが」

「はい。フォルゲーツ公爵夫人良いですよ」


「もし国王陛下が王命を使って任命された場合は如何するつもりでしたの?」

「ああ、その時は毒杯を煽って一足先に旅立とうと考えてました。実際身辺整理も終わっていました」

「まぁ!!そこまでして我が娘を!!」

「はい!ティアは初恋の人なのです!」

「あらあら、まぁ、まぁ、まぁぁー!!」


片手は頬に手を当て、もう片方の手で父ジョージの肩を容赦なく叩き大興奮の母シンシア


そして執務室の扉の前には、お茶を出すタイミングが判らず困惑する侍女達


「お母様、落ち着いてください。ユリウス王太子殿下、ワグナー公爵令息様もこちらへお座りくださいませ。我が家の侍女が用意したお茶が冷めてしまいます」


一気に手狭になった執務室

エミリーティアは両親側へと席を移動し、対面側を二人に勧めた


「話は戻りますが、王太子殿下が提示された条件とわたくしとの婚姻の関係を説明して頂けますか?」


お茶を一服した後、落ち着きを取り戻した様子の母を見計らってエミリーティアは殿下に尋ねた


「最優先として婚約者にティアを指名する事は決まってた。両陛下も異存は無かったよ」

「では次をお願いします」


「2つ目は、王位継承は最速でも15年後とすること」


えっ?と殿下以外が首を傾げた


「早くに王位に就いたらティアとの時間が取れないじゃ無いか。最低でも入籍後10年ぐらいは二人の時間が欲しいし、子供もティアと一緒に育てたい」


エミリーティアを優先しつつ公務も勤めるのであれば、国王となるより王太子の身分の方が自由度が高い


「最後、3つ目はティアが私と離縁したいと望めば、王家の秘薬無しに無条件で解放する事」


殿下は右手の指で3本立て「今話したのが最後だよ」と笑顔を浮かべた


「最後の条件は不必要になる事を願うけど、愚兄の件もあるし、ティアが心底私に嫌気が差した時用の保険かな」


どう?と無邪気な笑顔を振り撒く殿下に対して、執務室の空気は冷えびえとしていた


斯くしてユリウス王太子殿下の熱意?の説得により、エミリーティアは再び王太子の婚約者として返り咲き世間の注目を集めた


余談であるが、最後の条件についてエミリーティアは「王家に仕える家臣として仕来たりに従うのは当然の事。由緒あるフォルゲーツ公爵家を反乱分子にするおつもりですか!」と激怒し、一ヵ月余りユリウス王太子殿下を意図的に無視し続けたことは両陛下の笑い話になった



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