10.マナー違反は社会的信用を落としますわよ
オーバーツーリズム問題ですw
リード公国の観光産業は最盛期を迎えていた
積極的に国内外から観光客を誘致した結果、赤字続きであった地方経済が活性化した
集客が増える事は経済的に喜ばしい事だが、その反面地元住民は日常的な生活に支障が出始めていた
特に問題となっているのは私有地への無断侵入である
その他にも騒音被害やゴミ問題と苦情が議会に寄せられていた
「さて、どうしたものか」
最高議長であるジャントット公爵は陳情書の束を前に思案していた
「とりわけ私有地への無断侵入は対策が急務でしょう」
ザムント公爵は腕を組み天井を見つめていた
「議会では観光客に注意喚起を徹底させ予防する案が提出されてますな」
シュミット公爵は提出案の資料に目を通しながら答えた
「恒久的な対策でなければ国民の不安は拭えないでしょう」
アリスト公爵は眉間に皺を寄せていた
※
「極端な話、住民と観光客の棲み分けをすれば良いと思うんだよね」
ユリウスは叔母から届いた手紙をエミリーティアにも見せた
「観光客の行動範囲を限定するという事でしょうか?」
エミリーティアは読み終えた手紙を自然な流れでブルプロに渡した
「元々は地域住民の生活に密着した観光です。行動範囲を決めてしまっては魅力が半減する可能性があります」
ブルプロは便箋を丁寧に封筒に終いユリウスに返した
「だよね。だから観光客専用用地を用意するのさ。町や村を巨大な娯楽施設として招致する」
「それはまた…壮大ですわね」
「国が住環境と交通網を整えて、住民は観光公害の迷惑料の代わりに税金免除なんてどうかな?」
ユリウスは顎に手を当て幾つかの案を書き出した
「多拠点招致出来れば観光客をまとめて巡覧出来る様にして拠点間の移動を制御すれば一般の地元住民は安心出来るでしょ?」
「今は机上の空論ですが、将来を見据えると恒久的な対策案としては有効かもしれませんわね」
「実現するには潤った国庫がほぼ底をつきそうです」
「んーその辺はリード公国のお偉いさんが捻出するでしょ」
改善策を一通り書き出した後、ユリウスは両腕を頭の後ろに組み「あとはお任せで」と笑った
「殿下、我々はあくまでも世間話の延長で“雑談”をしただけです。お忘れなく」
「はいはい、ブルプロ君は真面目だなぁー」
ユリウスとブルプロの組合せは存外相性が良い
戯れていても、殿下に対して要所要所で厳しく対応する姿勢は、ワグナー宰相閣下が教育した成果なのだろう
「お茶が冷めてしまいましたわね。入れ直しましょう」
※
「ユリウスは誰に似たのかしら?」
甥っ子からの返信は手紙ではなく製本された小冊子で届いた
「解決の糸口が見つかれば御の字と思ってましたのに」
具体的な解決案を図表で視覚的に表現されており、絵図を交えて説明されていた
「これ、旦那様に見せられないわね」
下手すれば内政干渉になりかねない
「どうしましょう…」
さりげなくミシェルにわかるよう小出しで示唆するか否か
「きっと原案がユリウスだと気付くわよね」
はぁー、と溜息を吐き小冊子を閉じた
※
「暫定ではあるが、政府主導で注意喚起を周知する案を採用。自警団を各地に増員し地元住民の安全を確保。違反の程度によって罰金額を調整。重度の違反は我が国の法に基づいて処分を下す」
ミシェル含む四大公爵が方針を決めた
但し暫定処置である
「恒久的な解決策は今後も議論するとして、最高議長であるジャントット公爵閣下より将来を見据えた案が提出されました。お手元の資料をご覧ください」
議会の出席者達は進行役の指示通り配布された資料に目を通した
数分後、前代未聞の混乱が発生し、議会は中断となった
「この反応が普通だよな」
ミシェルは2階席から議員達を見下ろしながら呟いた




