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1.婚約破棄ですか?どうぞどうぞ


ロワニーズ王国の公爵令嬢エミリーティア・フォルゲーツは産まれた時から第一王子ロズベルト・ロワニーズの婚約者と定められていた


物心つく前より王宮の一室にて生活しており、遊ぶ暇なく王太子妃教育を受け、10歳の時には周囲に一目を置かれる程の才能と淑女としての器量を兼ね備えていた


幼いながらに見た目も麗しく、王国の秘宝と褒め称えられ、国王並びに王妃に寵愛されていた


しかしエミリーティア本人は家族と生き別れ状態の現状に哀しみ、時折公務の最中に逢いにくる父ジョージに心の内を吐露しては泣いていた


母シンシアは王妃の大親友であり、王妃の個人的なお茶会の席で顔を合わすが、元凶たる王族の前でエミリーティアが醜態を働けば、名門公爵家といえどもお咎めを受けることは必須


そもそも王妃と母の二人の強い願望で結ばれた婚約でもある


婚約者ロズベルト第一王子は幼少期より一緒に過ごしているエミリーティアに反感を覚えていた


王子である己よりも秀で、両親の寵愛を一身に受ける彼女のことを疎ましく思っていたが、次期王太子としての教示は心得ており、国の為を思えば己が心も殺すことを厭わなかった


表面上は仲睦まじい将来の王太子夫妻を演じていたが、事態が急変したのは、二人が学園に入学した15歳の時だった


王国の名門ソワージュ学園は文武両道、実力が伴えば例え平民でも入学可能であり、将来文官を目指す者、騎士となり国を守る者、商人として財政を支える者、肥料開発や薬師になり国民の暮しをより良くする者など、多岐にわたって活躍を志す学生達が通う


第一王子とエミリーティアが入学した年は当時の出産ラッシュ時期も重なり多くの若人が入学した


平民も多くその中の一人、城下町の一角にパン屋を営む一人娘シドニー・ブライトンが第一王子とエミリーティアの人生を大きく変化させた


シドニーは何処にでも居る町娘ではあるが、パン屋の看板娘なだけあって、愛嬌良くコロコロと表情を変え喜怒哀楽を表現する娘だった


淑女教育を受けている貴族子女から見れば、幼稚な子供と見なされるが、周囲の令嬢と異なるシドニーの振る舞いは高貴な令息ほど心を強く動かされ惹かれていく


後に前代未聞の婚約破棄が多発する事態となった


その中でも王国を揺るがす一大事件が第一王子と公爵令嬢の婚約破棄だった


第一王子は自由奔放なシドニーに心奪われ、婚約者であるエミリーティアを蔑ろにし、王家主催のパーティに堂々とシドニーをエスコートして入場した


シドニーは本来婚約者に贈られるはずのドレスを纏い、第一王子の瞳の色であるアイスブルーのアクセサリーを付けていた


第一王子に露ほど興味のないエミリーティアも流石に驚きを隠せなかった


この頃エミリーティアは王宮暮しから公爵家へと里帰りをしていた


王太子妃教育は完了し学園卒業後結婚を控え、公爵家当主である父ジョージが国王夫妻に働き掛け「せめて卒業するまでは家族水入らずで過ごしたい」と訴えた結果である


その為、両陛下は第一王子の愚行に気付かずにいた


何を勘違いしているのか?

第一王子は唖然とする周囲に満足そうに頷き、シドニーの腰を引き寄せ声を上げた


「エミリーティア・フォルゲーツ公爵令嬢との婚約は今ここで破棄し、新たにシドニー・ブライトンとの婚約を宣言する!」


王家主催のパーティに参加出来るのは爵位が伯爵以上の上級貴族のみの為、国の中枢に関与する者ばかり


第一王子の宣言を聴いた他家の貴族達は困惑顔で周囲を見渡す


その視線の先には今回のパーティ主催者である国王が

般若の如く顔を歪め、笑顔を貼り付け扇子を真っ二つに折った王妃の姿があった


ところで、今回の被害者ともいえるエミリーティアの様子はというと、口元に扇子を広げ臨時エスコート役に抜擢された令息と何事も無かった様子で穏やかな表情で歓談している


静まり返ったパーティ会場

「皆が祝福してくれるはずだ!」と考えていた第一王子も、流石に不思議に思ったのか首を傾げた


腰を抱き寄せられたままのシドニーは空気と化していた


「ロズベルト第一王子殿下、今し方我が最愛の娘との婚約を破棄すると聞こえたのですが、間違いありませんか?」


沈黙を破ったのはエミリーティアの父ジョージだった


「うむ、間違いない」

「ご婚約は王命であり、余程の瑕疵が無ければ破棄する事が出来ないのはご存知ですか?」

「知っている」

「では破棄の理由をお答えください」


「そなたの娘エミリーティアは貴族然としており可愛げがない、それに比べてシドニーは愛嬌良く私を常に案じ側に寄り添ってくれた」

「学園ではシドニー嬢が殿下のお側に?」

「二人で市井に行った事もある。先週は遠出をしてピクニックを楽しんだ。学園内外でもシドニーと一緒の刻を過ごしている。私たちは真実の愛で結ばれているのだ」


話しながら当時の事を思い出したのか、第一王子は蕩けるような笑みを浮かべシドニーを見つめた


「つまり、殿下は婚約者がいながら他の女性と逢瀬を楽しんだということですな?殿下の行動は貴族社会では不貞と見做されますが如何お考えなのでしょうか?」


父ジョージの淡々とした口調ではあるが、目付きは鋭く第一王子を射ていた


「不貞とは男女の関係を持った者の事を指す。私とシドニーはまだ行為はない。よって不貞行為とは見做されない」


貴族社会において重要なのは家同士の繋がりである

特に爵位の高い家は幼少期より婚約者を定め一族繁栄のために教育を施す


平民であれば第一王子の言うことは適用されるが、貴族間では婚約者を蔑ろにし、あまつさえ他の異性を優遇することは不貞行為と見做される


父ジョージは殿下にも分かるように大きなため息を吐き、チラリと両陛下を伺った


国王陛下が宰相呼び言伝を伝えると静かに周囲の近衛兵が動き出していた


パーティ参加者達も高位貴族だけあり、国王陛下の動きに合わせて従者を呼び寄せ行動を開始する


周囲の動きに全く気付かず、己が世界に浸る第一王子に冷ややかな視線が集中していた


「婚約を破棄する権限をお持ちなのは国王陛下である事は?」

「承知の上だ」

「では何故国王陛下からのお言葉でなく第一王子殿下が破棄を宣言するのでしょうか?」

「フォルゲーツ公爵は頭が硬い、もっと柔軟な思考を持ち合わせよ。いずれ陛下の後を継ぐ私が今ここで破棄を宣言しても将来的には正当化される」

「私には仰ることが理解出来ません。つまり陛下と殿下は同等の立場であると言うことでしょうか?」

「拡大解釈をすればその通りである」


“終わった”


誰かが一言呟いた

とても小さな声ではあるが、静まり返った会場には十分な声量だった


その後、第一王子とエミリーティアの婚約は破棄された

言うまでもなく全面的に第一王子有責によるものだ


第一王子は王位継承権剥奪の上、王族より除籍

平民よりはマシであろうと、最後の情で一代限りの準男爵とした


ロワニーズ王国は実力が伴えば“例え平民”でも官職に就くことが出来る

場合によってはさらに高い地位も夢ではない


がんばれ元第一王子

愛しいシドニーと共に…

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― 新着の感想 ―
王子クンの身勝手な婚約破棄宣言から一転して窮地に陥る様が痛快でした。しかしエミリーティアの冷静さは尊敬でございます。 それにしても婚約破棄モノ書きたいけどムズいですなぁ……
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